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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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08.数値化できないもので比べるな

 アキとレイは研究室に置かれた独特な形状の置物を弄り、僕を含めた残り3人はユーラが携帯する魔素を含んだ液体を眺めていた。こんなこと、やりたくてやっている訳ではない。やることが無さすぎるのである。

 何故、ここまで暇そうにしているのか。そう、次の列車までかなりの時間があるのだ。

 ふと壁に掛けられた時計を見ると、もうすぐ1時になる頃だった。朝起きたのが8時、ノナテージから遺跡までは列車で片道1時間程、そこから洞窟まで歩き、戦ったのを考えれば妥当な時間である。だが、ノナテージ行きの列車が来るのは2時半。流石に、このよく分からない液体を1時間以上眺め続けたら気が狂ってしまうだろう。


「ん? そういえばユーラは?」


 さっきまで寝ていたはずのソファに目を移したが、そこには誰も居なかった。いつの間に部屋から出ていったのだろう。

 すると、ドアから聞こえてきたのはノックの音。その後に聞こえてきたのは、疲れ果てたユーラの声だった。


「ちょっと……開けて貰っても良いですか……今、手が塞がっていて……」


 何か、研究室に運び込もうとしているのか。正直面倒だが、エリーとルナがこっちを睨んでくるので素直に立ち上がりスライド式のドアを開くと、何故だかユーラが両手に皿を持っていた。


「皆さん、昼食はまだですよね……適当なものですけど良かったら……」


 トンと机に置かれた皿に乗せられているのは、物凄く食欲をそそる香りのするシンプルなパスタ……えーと、これ何て言うんだっけ?


「これは……ペペロンチーノ……っぽい……のかな」


「それだっ!」


「ぺぺ……今何て?」


 思い出して突然大声を上げた僕に驚くルナと、急に知らない単語が飛び出し混乱するユーラ。宝石であるガーネットはそのままだったが、料理名になってしまうと異世界では通じない単語も有るみたいだ。

 アキが「これみたいにスパゲッティを用いたものはアーリオ・オリオ・ペペロンチーノといって、『絶望のパスタ』って呼ばれることもあるんですよ。何故かと言うと……」とベラベラ喋り始め、ユーラの頭が爆発寸前だったので取り敢えず「僕達の住んでいた場所ではそう呼ぶ」とだけ説明して、このカオスな場を収束させた。


「ユーラさんってイメージと違って料理できるんですね」


 かなり失礼ではあるが、確かに彼女には、髪のボサボサ感といい全体的に「雑」なイメージがあった。


「まあ……鍋に麺と油、ニンニクとグリフォンの爪を突っ込むだけですからね」


 最後の材料が凄い気になるのだが……ああ、成る程。「鷹の爪」って唐辛子をこっちの世界では「グリフォンの爪」と言うのか。あれ、グリフォンの上半身って「鷲」じゃなかったっけ?


「今年でもう25なんですけど……10代の時から自分の部屋に籠って魔素の研究してたので……」


 ユーラの年齢と経歴が分かったところで、彼女は自嘲気味に話しを続ける。


「食事も大体は栄養剤で済ませてたんですけど……ある時、体調を崩してしまいまして……その時から簡単なものは作れるようにしようと。……あと、30も迫っているのでそろそろ恋愛とかもしたいなーと……まあ研究員してたら無理そうですが」


 何故、ペペロンチーノから独身女性の悲痛な嘆きに話題がシフトしてしまったのか。残念ながら、僕は相談相手には向かなそうだ。多分、宿屋のお姉さん辺りが良いと思う。


「でも、やっぱり女子力は必要よね」


 そんなエリーの発言に理系脳が過剰反応を起こす。


「ねえ、みんなの『女子力』ってのを算出したいから計算式を……」


「私も、今後の研究対象になるかもしれないので!」


「は?」


 この後アキに聞いたのだが、女子力というのは定義が曖昧で、普通は料理が上手いとか身だしなみが綺麗だとか、そういうもので高い低いを決めるものらしい。

 具体的な数値が出せないので確証はないが、寝相や身なり、気遣いができるか、など考慮するとエリーとユーラは結構低い方なのでは……。




 帰りの列車では僕とルナ以外の全員が、疲れからかぐっすり眠っていた。約1時間、理想気体の状態方程式「PV=nRT」トークで盛り上がった。

 休みをとれたこともありユーラも付いてきたのだが、椅子に横になり寝てしまっている。起きていたら理系トークに交ぜていたのだが。


 ノナテージに着き、「久しぶりにミアと会ってくる」というユーラと別れ、僕達はライの鍛冶屋に向かった。


「ライさん、居る?」


 扉を開けると、ライは奥に置かれた金床で防具を叩いていた。頭にガツンと大きな音が響く。


「おお、早かったな」


 何とか気づいてくれたようで、金槌を床に下ろしこちらに振り向くライ。すると、レイが彼の元へ駆け出し、鞄の中から取り出したものを手のひらに乗せる。


「お父さん、いつもありがとう!」


 笑顔でそう言って、幸せの羽をライに渡したのだった。


「まさか、俺の為に……?」


 目に涙を浮かべながら、娘を抱きしめる。そんな親子の感動的なシーンの邪魔をしては申し訳ないので、そそくさと店を出た。

 ちなみに僕の場合、父の日には毎年のように自作の超難しい問題を贈るようにしている。僕に数八という名前を付ける程、父も数学好きなのだ。

 しかしノリで母の日に、カーネーションの形を描く曲線の方程式を苦労して作り贈ったら、「普通に花を貰った方が嬉しい」と言われ撃沈したという過去がある。


 だが宿屋に向かう途中、エリーが突拍子もないことを口にした。


「なーんだ。レイちゃん、この前一緒に歩いてた男の子にあげるのかと思ってたわ」


「それ絶対ライさんに言わないでね?」


 危うく、感動のシーンをぶち壊し修羅場に変えるところだった。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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