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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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07.女子の拘りは意味不明

 洞窟に響き渡る爆音。天井から降り注ぐ破片を避けながら、狭い空間の中を逃げ続ける。


「ほら、思いっきりフラグ回収してるじゃないの!」


「別にそんなつもりじゃ無かったんですよ! そんなことよりも今は……」


 振り返ったアキの視線の先にいるのは、僕達の真上に魔法を打ち込む少年、ロザイン。

 その顔は、逃げ回る僕達を見て楽しんでいるようだった。


「ほらほら、逃げないと押し潰されて死んじゃうよー?」


 人間味の無い、明らかに変な声が反響して不気味さを増す。

 しかし、すぐ目の前には通路を閉ざす岩の山。もう逃げ道は残されていなかった。


「みんな! 時間を稼ぐわよ!」


「了解です!」「……うん!」「わ、私も手伝いますっ!」


 僕に作戦を考える時間を与える為に前に立つ4人。ロザインにダメージを与えられるかはさておき、時間を稼ぐことなら不可能ではないはずだ。


 考えろ……。どうすれば、この先に進める? 無論、岩を取り除くしかない。だが、この量を壊すのはエリーやアキの力じゃ時間が掛かってしまうだろう。ルナの剣で斬れるわけがない。短時間で、一気にこの岩を避けるには……そうだ!


「ユーラさん、ここに粒子魔法を!」


「で、でもそんなことしたら……いや、やりましょう!」


 きっと、この作戦の欠点に気づいたのだろう。そう、この岩と魔素が結合した時の生成物の状態が気体なのか液体なのか、はたまた個体なのか。それは誰にも分からないのだ。個体なら論外であるし、気体や液体でも毒性や爆発性があったら無事でいられるとは限らない。

 でも、このまま何もしなければロザインに殺されて終わりだ。僕達はこれに賭けるしかないのである。一度言葉を詰まらせたがユーラはそれを理解し、了承してくれたのだろう。


 背後で轟く魔法がぶつかる音。そこでは、エリーとレイがロザインの放つ光の弾丸を空中で爆発させて防いでいた。アキは「ルーク召喚!」と言い巨大な壁を作り出して流れ弾から僕とユーラを守り、ルナは2本の剣を構え弾幕をすり抜けながらロザインへの接近を試みる。


「準備できました、いきます!」


 ユーラが手を向けると、そこに積みあがっていた岩はシュッという音を立てて形を無くした。幸運にも、気体になったのである。

 その先に続くのは出口への道。念のため、口を塞ぎながら岩のあった場所を通過する。


「私たちも行きましょう!」


 アキの掛け声で魔法を止め、こちらに駆けてくる4人。しかし、それはロザインに向かって背中を見せているということでもある。


「ッ!」


 その時、エリーの左腕を弾が掠った。いつも着ている水色の縞の入ったシャツが、そこから赤に染まっていく。彼女は右手で傷口の辺りを握り、座り込んでしまった。


「エリー!!」


 後ろを走っていたルナに担がれ、何とか全員がこちらに辿り着いた。そして魔素の結合が崩れた瞬間、岩が砂のような状態で再生成しロザインのいる空間とこの通路を分断する。

 最後に一瞬だけ見えた少年の顔は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。




「う~ん……痛っ!!」


「あ、エリーさん起きました」


 僕達は洞窟から出て真っ直ぐ来た道を戻り、遺跡の前に建てられたユーラの研究室で休ませて貰っていた。弾が掠ったときに驚いたのか痛かったのか、気絶してしまったエリーを寝かせておいたのだが……。


「ん? ちょっと待って。この服……私に着せたの誰?」


「私ですよ。勿論、カズヤさんには部屋から出ていて貰いました」


「ならよろしい」


 そう言って、アキの頭を右手で撫でるエリー。言ったら殺されそうなので本人には秘密にしておくが、彼女の酷い寝相のせいで下着その他もろもろは数回目撃している。正直、僕からすれば目の前で着替え始めようが、どうだっていいことである。


「ところで、腕に包帯巻いてくれたのは……」


「ユーラさん……だよ……そこに……」


 ルナが指で差した先には、ソファの上で爆睡するユーラ。僕がユーラさんへの感謝を無理やり所長の前で並べまくったら、何とか今日と明日だけ休みを貰えたらしい。やっぱり労働基準法作ろうよ。


「そういえばアキ、あれ今日初めて見たんだけど……」


 僕の言う「あれ」とはロザインから僕達を守る為に召喚した壁のことである。ルークを模したものなのは想像がつくのだが……。


「ああ、それについては……その……一応ポーンとかビショップなどのパターンもあるんですけど……私はナイトが好きなので!」


 ブレないのはいいと思うのだが、フレキシブルな使い魔達それぞれの良さを「好み」だけでぶち壊している気がする。この子は頭が良いのやら悪いのやら。


「レイは幸せの羽、ちゃんと持ってる?」


「うん……ほら」


 レイが小さめの鞄から取り出した、その羽は照明の光を受けて洞窟の中よりも一層キラキラと輝いていた。高値で取引されるのも納得がいく程だ。


「で、結局誰に渡すの?」


「えっと、まだ秘密!」


 僕の問いに対し、元気にそう答えるレイ。何故そこまで秘密にしたいのだろうか。女の子というのはやはり、謎が多いものである。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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