06.このまま出られるはずだったのに
グリフォンを倒してから数分歩いたところで僕達の前に現れたのは、「危険」という看板が幾つも貼られた、如何にも危険そうな洞窟だった。
「ここが……その洞窟?」
「ドウクツシロイロチョウが生息しているのは……ここだと思います……」
ヘテネトーゼ周辺の特別警戒エリア内には大量の洞窟が存在しており、中には地下で繋がっているものもあって、年に1人は行方不明者が出るらしい。つまり入り口を間違えると、まずドウクツシロイロチョウとやらに出会うことすらできないのである。
まあ、ユーラが言うのだから、ここで合っているのだろう。多分。
「あれ、『ヘテネトーゼ西の洞窟』って名前らしいけど、ヘテネトーゼを通過してないような……」
鉄道はここから東側を走っている。つまり、ヘテネトーゼの西側の洞窟に行くならばヘテネトーゼを必ず経由するはずだ。
「この入り口……実はかなりマイナーなところでして……中で繋がっているんですよ……。こっちから入った方が道も平坦で楽だと思います……」
洞窟の入り口にマイナーとかあるんだね。すごいぞ、研究員。でも、ルナの背中に乗ったままなのは格好悪いと思う。
遺跡の時と同じようにエリーが魔法で足元を照らしながら、暗い洞窟の奥へと進む。驚くほど静かで、僕達の足音が壁で反響してよく聞こえる。
怖いのか、手をギュッと握りあっているアキとレイ。そして何故か僕の手を一方的に掴んでくるエリー。
「ねえ、歩きにくいんだけど」
「べ、別にいいでしょ! ちょっと怖いとか、そういうんじゃないんだから……」
これは何があっても放してくれないパターンのやつだ、そう確信した。何故なら、文学同好会の活動という名目で遊園地に連れて行かれた時、彼女の希望で入ったはずのお化け屋敷でもこの状態になったからである。1回驚かされるごとに強く握られ過ぎて腕の血流が途絶える感じだ。外に出て見たら、握られた部分が真っ赤になっていた。
「しっ……あそこにいますよ」
アキが人差し指を口の前で立て「静かに」と合図する。そして、その指を目の前に向けた。
そこにいたのは、真っ白な羽に包まれた高さ1メートルくらいの鳥。エリーの出す光によってではなく自ら発光しているその羽は、「幸せの羽」と呼ぶにふさわしい程キラキラと輝いている。
「レイちゃん……いいよ」
アキが小声で指示を出すと、レイは2つの小さな手のひらを前に突き出し、それに向かって電撃を放つ。背後から不意打ちを食らったドウクツシロイロチョウは、パタッと倒れ青い光となって消えた。そこに残されていたのは純白の輝く羽。それを拾ったレイはこちらに満面の笑みを浮かべた。
「これで……目的は達成できたのかな……」
ずっとユーラを背負い続けるルナ。このままでは剣も使えないので、そろそろ降りて欲しい頃だろう。
「帰りましょうか」
アキの言葉で、僕達は踵を返す。来た道は、流石はマイナーな入り口、という感じでかなり複雑だったが僕はハッキリと道順を覚えている。
そういえば、エリーは凄い方向音痴だったな。遊園地にて、彼女に「買い物をするから先に食べ物買ってきて」と言われたので「じゃあ、買い物終わったらこっちに来て」と集合場所を指定したのだが、30分くらい待っても現れず捜索に出て、最終的には迷子センターで発見した覚えがある。地図、持ってたはずなんだけど。
そんな面白エピソードを回想していると、頭上から空気を切る音と爆発音がした。
「危ないっ……!」
天井の石が崩れ落ちてくる。
咄嗟の判断で背中に乗っていたユーラを降ろしたルナは、先行していたエリーを後ろから引っ張り、間一髪下敷きになるのは免れた。
「あ~あ、残念。外れちゃった」
男性とも女性とも言えない変な、そう、少し前の機械音声のような声が背後からした。
「だ、誰ですかっ!?」
僕達の背後に立っていた声の主は、僕よりも年下であろう茶髪の少年だった。緑色のローブを着ているが、中学生くらいの身長の彼は少し引き摺ってしまっている。
アキの問いが聞こえていないのか、左手を真上に挙げる少年。そして、その手から無数の光の弾丸が四方八方に放たれた。
「伏せて下さい!!」
頭上を通過した弾は残された洞窟の道を悉く粉砕し、僕達を完全に閉じ込めた。
「特別に教えてあげるよ。ボクね……」
場に緊張が走る。軽々と強力な魔法を乱射してみせるこの力。まさか……でも、こんな少年が……?
「ロザインって言うんだ」