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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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04.けんきゅういんのおしごと!

 列車を降り駅を出ると、そこに立っていたのは見覚えのある白衣の女性、遺跡の研究をしているユーラだった。今日はこの前以上に髪がボサボサで目の下のくまも酷かった。日焼けしていない真っ白な顔もさらに青白くなっている。


「何でユーラさんがここに?」


 エリーがそう尋ねると、ユーラは最後の力を絞り出すかのような声で答えた。


「さっきミアから連絡があって……ヘテネトーゼまでの案内を頼まれたので……」


「案内してくれるのは嬉しいんだけど……大丈夫ですか?」


 元々低めの声が余計に聞き取りにくくなっている。足取りもフラフラしているし、体調でも悪いのだろうか。心配な僕は彼女にそう問うたが、返ってきたのは当然過ぎる理由だった。


「実は物凄い量の仕事を回されて……3日間、一睡もしないで仕事してたので……」


「案内はいいので、とにかく寝てください」


 流石に寝不足の人を危険地帯に連れていく訳にもいかないので寝るように勧めたが、ユーラはそんな言葉を華麗にスルーして白衣の胸ポケットから小さなガラスの容器を取り出す。硬そうな栓を力ずくでこじ開け、中に入った緑色の液体を1滴だけ舌に垂らした。


「ふぅ……これであと1日は……持ちそうです……」


 先程までしょぼしょぼしていた目が妙にパッチリしている。その液体ってもしかして……。


「これ……夜間に行動するモンスターから手に入れたマジックアイテムが溶かされていて……飲むと凄い目が冴えるんですよ……まあこんな状態でも寝付けなくなるくらいには……」


 やっぱり、エナジードリンク的なアレだった。多分、大量のカフェインではない何かが含まれているのだろう。眠気は吹き飛ばせても、体力と疲労は変わらなそうだ。


「これが噂のブラック企業ってやつですかね……」


「アキちゃんもレイちゃんも……将来こういう会社には……入っちゃダメだよ……」


「会社って何のこと?」


 後ろでコソコソと将来の職業について話し合うアキとルナとレイ。そりゃ、この世界に労働基準法などある訳無いのだが。きっと回復系の魔法の存在によって過労死なんてことは起きないのだろう。


「では……行きましょうか……」


 遺跡から歩くこと数分、木々に阻まれていた視界がパッと開けると目の前にあったのは深い崖と少し古めの……率直に言うとボロボロで今にも落ちそうな丸太の吊り橋。その横に建てられた看板には「この先特別警戒エリア」と書かれている。


「これ……大丈夫なんですか?」


 風に煽られ、ミシミシと音を立てながら左右に揺さぶられている。こんな橋を渡る度胸など僕には無い。というよりも、気持ちの問題ではなく物理的に無理な気がする。


「アイアンチェーン……」


 ユーラがボソッとそう呟くと、彼女の手からジャラジャラと2本の鉄の鎖が出現し、切れかかった綱の代わりに丸太をがっちりと縛り付けていく。唯一頑丈そうな金属の杭に端を結び、ボロボロだった橋は見事な復活を遂げた。


「す、凄い……」


「これで渡れますよね?」


 今の魔法に感動しているエリーをよそに、ユーラはこっちを向いて聞いてきた。


「その、これでも怖いのですが……手すりも無いですし……」


「私も……無理かな」


 そう、あくまでも足場となる丸太をきつく縛ったのであって、関係のない手すりはボロボロな綱のままなのである。落ちたら確実に死ぬであろう高さの崖を渡るのに手すり無しは、小さい子には辛いだろう。アキとレイはどうしてもこの橋を渡りたくないようだ。


「じゃあ……この子たちは私が運ぶから……みんなは頑張って……」


 ルナはそう言うと2人を両手で抱きかかえ、少し後ろに下がる。そして一気に駆け出し速度を上げて……崖に向かってジャンプ。


「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 そして対岸にトンと着地した。走り幅跳びで十数メートルを飛ぶなんて人間を超越している気もするが、相手がルナなのでここは突っ込まないでおく。

 アキは2度目でもう慣れたのか大丈夫そうだが、いきなり体が宙を舞うという恐怖体験をしたレイの目はかすかに潤んでいた。

 ユーラが「何ですか今のは」と言いたげな目でこちらを見ているが、説明の仕様がないことを察して欲しかった僕は無言で頷いておいた。


「高いなあ……」


 いつの間にか渡り始めていたユーラの後を追って恐る恐る踏み出してみたが、魔法で組まれた橋は思った以上に丈夫そうだった。風が吹いても鉄の鎖で固定されているからか殆ど揺れないので、簡単に渡ることができた。勿論、下は見ないように目線を前に維持しながら。


 常に危なっかしいエリーも渡りきり、僕達は特別警戒エリアに足を踏み入れた。先頭には案内役のユーラと急なモンスターの攻撃に対処できるルナ。後ろには攻守のバランスの良いアキと攻撃特化のエリー。そして、それに挟まれるように僕と絶対に守らなければならないレイ、という配置である。


「そういえばユーラさん、さっきの魔法って……」


 エリーがずっと気になっていたであろう話題を自ら切り出した。正直なことを言うと、僕も結構気になっていた。


「ああ……粒子魔法のことですか?」


 いきなり聞いたことのない言葉が飛び出してきた。何と言うか、凄く興味をそそられる響きである。


「粒子魔法は無属性魔法の1つで……魔力を使って魔素と他の物質を強制的に組み替えたり……魔力過剰状態にして膨大な魔力を取り出す魔法……のことです」


 サイエンティフィックな言葉がズラズラと並べられていく。よく考えたら、ユーラも所謂リケジョに分類できるのか。中身は違えど科学ではある……気がする。

 すると、それを聞いたアキがいつものように喋り出した。


「魔素を含む物質をマジックアイテムと呼びますが、私達は基本的にそれを魔力の増幅に使っています。魔法をマジックアイテムに入力すると、中の魔素から一部の魔力を奪い取り増幅して出力します。エリーさんが持っている傘がその例ですね。ただこの場合、魔力を奪われた魔素はそのまま自然消滅し、余った魔力は空気中に放出されるので大きなロスがあります」


 エリーの傘ってそんな意味があったのか。ずっと、単なる日よけかお気に入りの物なのかと思っていた。まさか魔法を強化するための道具だったとは。


「それでは粒子魔法について。例えば魔法金属の場合、あれは金属の塊の中に魔素が含まれているのであって、金属と魔素が直接結び付いている訳ではありません。魔素は他の物質とは結合しません、普通は。しかし、非常に強い魔力によって2つの粒子を強制的にくっ付けることができるんです。それによって生まれたものは『あり得ない物質』ですから、『あり得ない性質』を持ってしまうんですよ。それを利用したのが前者です。勿論、非常に不安定な状態なので一定時間が経つと消滅してしまいますが」


 ユーラに通じないことを見越してアキは遠回しに言っているが、つまり原子と魔素を強引に結合させるということだ。その原理なら橋を固定した物質は、空気中の何らかの気体と魔素が結び付いたもので、「あり得ない性質」というのは鉄のような硬さなのだろう。


「それに対し、魔力を用いて魔素同士を強制的に押し縮めると、体積が減っても含む魔力の量が変わらず、魔力過剰状態になります。すると、その魔力を放出すべく魔素が一気に崩壊を起こします。これによって入力に比べて非常に大きな魔力を取り出すことができるのです。私達の魔力増幅とは比べ物にならない程です。ロスがほぼ0なので。ただ、そのパワー故に制御が難しいようです」


 要約すると「魔素に含まれる魔力をほぼ完全に取り出す」ということだろう。その説明からして、原子力並みのパワーがあるのかもしれない。もしかしてユーラ、実は物凄く強かったり……?


「アキちゃん、だっけ……凄く詳しいんだね……将来、研究員になってみたら?」


「お断りします」


 ユーラの勧誘に対し即答するアキ。まあ、あの寝不足っぷりを見れば誰だってそう言うだろう。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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