03.強行突破とかできないのかな
皆で朝食を取った後、僕達はヘテネトーゼへと出発した。アキがレイの手を握っている。あの短時間でここまで仲良くなっていたとは。アキのコミュニケーション能力が高いからなのか、単に小さい子は打ち解けやすいからなのか。
ライは「まあ無事に帰ってきてくれるならいいぞ」とレイと一緒に行くことを許可してくれた。自分の娘なのに軽すぎる気もするが、きっと彼女の強さを一番知っているからこそ言えるのだろう。
ホルネ遺跡までの鉄道の切符を買い、到着した列車に乗り込む。5人だと1つのクロスシートに収まりきらないので、アキとレイ、そして残りの3人に分かれ、通路を挟むような形で座った。アキとレイが「膝に乗る」と言ってきた時には全力で止めさせた。
2人はアキが出したチェスで遊んでいた。頑張ってレイにルールを教えていたが、伝わっているのだろうか。
それに対し僕を含めた3人は窓の外を眺めながら、今後について話をしていた。
「その……魔王軍と戦うってことは、必然的に三将ってのと戦うってことだよね」
魔王を討とうとすれば、確実に三将が立ちはだかるだろう。避けては通れない道だ。
「そうね。だって三将を倒さなきゃ、魔王城に入れないらしいし」
「えっ?」
僕の驚く顔を見たルナがエリーの説明に付け足す。
「魔王城には……三重の城壁があって……その門は三将を倒さないと……開かないんだよ」
なるほど。三将が魔王を直接守っているというよりも、魔王の城の門を守って冒険者を通さないということか。
「それ、強行突破とかできない感じなの?」
「無理よ。三将が本気を出して作った魔法の結界があるから。壁の素材も色々な属性に耐性がある結晶を入れた超硬い石らしいし、例えカズヤが三将を倒す前に逆演算して結界を打ち破ったとしても、壁を壊そうとしているうちにまた結界張り直されちゃうでしょうね」
強行突破はできないか。もしも僕、それか同じように逆演算ができる人が結界を解けると仮定し、力に自信がある冒険者を沢山集めたところで、三将に、或いは直接魔王に一掃されてしまうに違いない。数で押すのは危険が伴う。
やはり、段階的に三将を倒して結界を解除するしか方法は無さそうだ。いや、待てよ。
「三将の誰かを倒したとして、そのポジションに別のモンスターが就いて結界を張り直す、なんてことは起きないの?」
もし、そんなことがあったら三将を倒そうが永遠に魔王のところに辿り着けない。流石にやる気無くす。
「たぶん大丈夫だよ……三将って魔王軍の中でも……飛びぬけて強い3体のモンスターだから……その代わりが務まるのは居ない……と思う」
最後の「と思う」で信頼度が一気に落ちたが、その可能性は高い。だって、同じくらい強いモンスターがまだ居たら、普通は三将ではなく四将にするだろう。
「三将がどんなモンスターなのか、どこまで分かってるのかな」
敵の情報無しで乗り込むのは危険すぎる。最低でも種族や特性は把握しておくべきだろう。この前会ったグレイスに関しては、種族がヴァンパイアってことを知っているが。
僕の言葉が聞こえていたのか、チェスをしていたはずのアキが急にベラベラと喋り始めた。
「三将の名前や種族などは大体判明しています。海で私達が遭遇したヴァンパイアのグレイス=テケ……何だっけ、まあいっか。そして、レイスのロザイン。あとは機龍のラスターです」
ヴァンパイアは言わずもがな、人の血液を吸う怪物だ。流石の僕でも知っている有名なものである。
レイスというのは、文学同好会のとき「モンスター図鑑」という本を、執筆を手伝うために仕方なく読んだから覚えている。魔法使いが肉体と魂を切り離し、変貌した姿だ。
最後に、機龍っていうことは……機龍?
「ねえ、機龍ってどういうこと?」
「そりゃ、そうなりますよね。順番に説明しますから」
流されてしまったが、ここは素直にアキの話を聞くことにした。さっきも今も、話しながら駒の動きを考えている。この子、本当に器用だな。
「グレイスは三将の中で最もバランスが取れていると言えます。あの時見たように、剣の腕は魔王軍最強。魔法に関しても、ロザインの次に得意なはずです。普通のヴァンパイアなら日光が弱点になるので、あんなところで出くわすはずがないんですが……紫属性魔法を使って光への耐性を得ているんだと思います。でも、弱点の銀に関しては魔法でも防げないかもしれません」
それを聞いたルナがチラリと視線を下に向けた。何かあったのだろうか。
「ロザインは先ほど言った通り、魔王軍最強の魔法使いです。しかもレイスの体は魂ですから、物理攻撃が一切効きません、というか武器がすり抜けちゃいます。魔法を使う者の欠点は近距離の物理攻撃に弱いことですが、種族で見事にカバーされています」
幸運……なのかは不明だが、僕達のパーティには物理攻撃をする人が居ない。ルナの魔法の剣は魔法攻撃に当たるので、ロザインにも通じるはずだ。
ただ、魔法に長けているならばその防御も得意なはずだ。魔法攻撃も殆ど効かないだろう。
「最後にラスターですが、古代兵器なんですよ、龍の形をした。大昔に王様の命令で天才結晶技師が作り上げた兵器です。時が過ぎるうちに機能を停止したそれを、魔王軍が発見し改造したものです。表面には特殊な合金で出来ていて、魔法が全然効かないんだとか……。定義的にはモンスターでは無いのですが、人間に敵対するのでモンスターの括りに入れられています」
機龍ラスター……三将の中で最も手こずるはずだ。不幸にも、魔法が効かないとこのパーティでは攻撃ができない。それでは逃げ続けるしかないではないか。
「これだけの情報でも、何人もの犠牲によって把握できたことなんですけどね……」
今まで沢山の冒険者が三将に挑み、偶然生き延びた人が町に帰ってその情報を伝えたのだろう。目の前で殺されていく仲間を置いて、皆の為に情報を持ち帰る勇気も大事だと僕は思う。
「これから、ロザインに会わないと良いですけどね」
「「「!?」」」
さっきまで暗い話をしていたアキが突飛な独り言を放つ。チェスに集中しているレイを除いて全員が驚きの表情を見せた。それに対するアキの言葉はさらに衝撃的なものだった。
「あ、ロザインはヘテネトーゼ周辺に住んでいるらしいですよ」
「「「「!?」」」」
丁度、クイーンを斜めに動かしたレイもこれにはビックリである。
「ちょっと、そういうのは『フラグ』っていうのよ!」
「大丈夫ですよ。魔王軍三将がのこのこと出てくる訳無いじゃないですか」
その反例を昨日この目で見たのだが。ヘテネトーゼが特別警戒エリアになっている原因、どう考えてもそれだろう。ああ、もう嫌な予感しかしない。