04.JKとJSを因数分解したい
冒険者達の歓声が止まない中、僕達はその間を通り町に戻った。面倒なのが絡んでくるのではないかと少し心配だったが、意外にも言われたのは「お前すげえな!」とか「逆演算初めて見たぞ!」だった。数学と理科以外で褒められるなど滅多にないことだったので、嬉しかった。でも、注目の的になるのは嫌かな。
宿屋に戻ると受付のお姉さんがカウンターに頬杖をつき、こっちを見てニヤニヤしている。
「君たちさあ、今回ので凄い額の臨時収入があるじゃない? だからさ……宿泊費ぼったくていい?」
「ダメです」
堂々としたぼったくり宣言に対して僕の即答し、それを聞いた彼女は溜息を漏らす。まず「いいよ」という馬鹿な人は居ないだろう。
「まあ仕方ないかぁ……エリーはうちのお得意様だし、逃したくないからね」
その気があるなら、最初からそんなことを言わないで欲しい。
「でも、3人で泊まれる部屋無いんだよね……あ、いいこと思いついた! 3階に普段使わない大部屋があるんだけど、部屋ごと貸そうか? 1か月20万シルンで」
それぞれ1人部屋に泊まるという選択肢が無いのが誠に遺憾である。他の冒険者も泊まるから、部屋を圧迫するのは良くないかもしれないが。
しかも月20万シルンというのはかなりお得だ。2人部屋1泊で8000シルン。つまり1人当たり4000シルンだ。1か月を30日と概算すると「4000×3×30=360000」。置いてある棚などの家具も自由に使っていいとのことなので、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「あ、じゃあそれで」
「念願の家賃収入ゲット!!」
宿屋というよりもアパート化しているが気にしたら負けである。
夕食をとった後、階段を昨日よりも多く上り案内された部屋は確かに広かった。アンティーク調のクローゼットが3つに大きめのベッドが2つ。勿論トイレとシャワーは完備だ。
あれ? 毎回ベッドが1つ少なくないかな?
「エリー、その小さい子気にしないで楽しめよっ!」
「な、何もしないですから!!」
昨日から定期的に行われている謎の会話を見届けた後、1日中動き回り疲れた体を休ませるためベッドに倒れこむ。
「う゛っ……」
腹に違和感のある重みを感じ首を上げると、そこにはアキが跨っていた。
「ベッド独り占めはズルいですよ!」
「いや、そこは女子同士一緒に寝ればいいんじゃ……あっ……」
エリーの方に目を移すと、もう1つのベッドの上で足をぶらぶらしながら、知らないふりをしている。だが、そこに追い打ちをかけたのはアキの口から溢れた一言だった。
「いや、流石に公共の場でパンツ丸出しで寝ているような人と一緒なのは……」
「その話はやめてえええええええええええ!!」
この問題はエリーをパーティから追い出さない限り一向に解決できないだろう。ベッドに縛り付けちゃえば良いのかもしれないが、あの寝相で縄ごと引き千切られてしまう可能性がある。
「じゃあ、私ちょっと出掛けてくるから。先にシャワー浴びといてね」
そう言い残して部屋から出ていくエリー。ときに僕が大工達と工事をしていた時に何かしていたような……。
「お先にいいですか?」
「ああ、別にいいよ」
シャワールームの扉がガチャっと閉まる。そして、僕だけの時間がやってきた。
それにしても、曲線作りは飽きてしまった。1人微分大会などという遊びもあるのだが、ただただ疲れるだけである。何をすればいいものか。
パーティに居るのは……JKのエリーとJSのアキ。今まで気付かなかったが、「JK+JS」って「J(K+S)」に因数分解できるじゃないか。個人的にはこの方が纏まりがあって良いと思う。エリーに因数分解スキルが備わっているか分からないから、客観的な判定は不可能だ。
そんな下らない暇つぶしをしていると、アキの声が聞こえてきた。
「あの、カズヤさん……着替え……そっちに置いてきちゃいました」
「別に気にしないし、そのまま出てくれば?」
「えっ……まあ、タオルあるから……いいかな」
扉を開けて出てきたのは、髪を濡らし体に白いバスタオルを巻きつけたアキ。それはどうでもいいのだが、ここで予想外の事故が起きる。
「ただいまーって……アンタ達何してんの!?」
勢いよく部屋に入ってきたエリーが、そのままこちらへ向かってくる。何故だろう。嫌な予感しかしない。
「この変態が!!」
案の定、僕の腹にエリーの拳が直撃する。これも毎度のことだが、断じて僕は悪くない。
「その、言いにくいんですけど……パンツ見せびらかしてる方が変態なのでは……?」
その言葉を聞いて下を向き、それに気づいたエリーの顔はどんどん真っ赤に染まっていく。パンチをする前、閉まった扉にスカートの端を挟んでしまったようだ。
エリーは慌ててスカートを引っ張り、半裸のアキにスポッと服を着せる。
「……それ何?」
僕が指を差したのはエリーが持ち帰ってきた大きめの紙袋。何か買ってきたのだろうか。
「ああ、これ? 2人の為に用意した服よ」
紙袋から出てきたのは……今着ているものと同じブレザーと、これもまたアキの制服と同じもの。そしてTシャツが数枚。
「その制服、オーダーメイドなのよ。カズヤのブレザーには演算高速化、アキのには演算付加軽減の特殊効果付きで……何でそんな顔してるの?」
特殊効果付き、つまりマジックアイテムを縫い込んで作った服ということだ。しかもオーダーメイドとなるとかなり値が張るのではないだろうか。
「これ……全部でいくら?」
「ざっと、50万シルンってとこね」
「「今朝の報酬!!」」
僕とアキの鋭いツッコミが重なる。案外、エリーよりもアキの方が気が合うのかもしれない。