03.魔王軍に接骨医は居ますか
レールガンの仕組みを説明している暇もないし、どうせ理解できる冒険者も居ないだろうから、後ろに突っ立ったままの魔法使い達に攻撃の指示を出す。弱い魔法も幾つか集まれば騎士の足止め程度はできる。
「ナイト召喚!!」
アキは自分の周りに、今朝より多い6体の青く輝くナイトを構築した。そして騎士団に向かって一斉に駆け出した。
「アキ、そんなに沢山召喚して魔力は持つのか?」
「今のところは大丈夫です! 万が一、倒れたらおぶって下さい!」
アキのナイト達は敵と激しく剣を交えている。魔王軍というだけあって、騎士達はやはり剣術に長けているようだ。でも、アキの制御はそれを上回っていた。後ろに回り込んでは鋭い刃で首を切り落とす。何だか教育上よろしくない気がするが、気にしたら負けだ。アキだって立派な冒険者なのだから。
そして、騎士を一撃で倒すことができるエリーとレイが援護射撃を行う。エリーの魔法は赤属性と黄属性。それに対し、アンデッドのモンスターの多くは体が紫属性を持っている為、エリーの魔法は大ダメージを与えることができる。
「ねえ、カズヤ! これ大丈夫? 押し負けそうなんだけど!!」
爆薬で前衛を倒したとはいえ、騎士たちは50体くらい残っている。エリーとレイはまだ魔力が残っているようだが、僕の後ろからドサッと何かが倒れる音がした。
「あ、すみません。もうギブです」
いつの間にか、アキの召喚したナイト達は消失していた。やはり持続しないのが欠点か。取り敢えず、アキの体を持ち上げ背中に乗せた。
正直、認めたくはないが……この先はノープランである。何れはエリーとレイにも限界が来るだろう。
よく観察するんだ……何か……何か勝つ方法は……。
見つけた。
「エリー! レグイドを狙って!」
「え、いきなりボスを!?」
騎士団を見て分かったこと。それは、「騎士達の動きが完全にパターン化されていること」だ。剣を振ったり盾で攻撃を防ぐ時は、それぞれ動きが異なるが、こちら側に進軍してくる時の歩行のタイミング、つまり馬の足の動きが完全に一致している。
レグイドが話し始めた時も、一斉に歩みを止めた。
そう、騎士達の動きは「団長のレグイドが制御している」のだ。レグイドさえ倒してしまえば騎士団の司令塔が居なくなり、動きを止めるはずである。
「あ、さっき練習したやつをできるだけ弱めに撃ってね」
「は!? こんな時に弱めに? ま、まあカズヤがいうなら……」
文句を言いながらも、傘から斜め上に向けて放たれたのは細く、弱々しい光。それは放物線を描いてレグイドに向かって飛んでいく。
レグイドは剣を鞘に戻し、上げた右手から鮮やかな紫色を帯びたビームを撃った。空中でエリーの魔法を消し飛ばし、そのまま夜空に消えていった。
流石は騎士団長、魔法も使えるようだ。
「次は僕の合図に合わせて真っ直ぐ本気で撃って!」
そう言い残して、アキを地面に降ろし前に走り出す。僕は武器を持ってなければ、強い魔法を使うこともできない。でも、今この場所で、僕にしかできないことがあるじゃないか!
「丸腰で突っ込んでくるとは……どんな作戦なのかは知らんが、そんなに死にたきゃ殺してやるよ」
レグイドは手のひらを僕に向かって突き出し、先程と同じ不気味な光線を撃ち出した。
「その魔法、さっきも見たんだよね」
そうぽつりと呟き、右腕を伸ばす。僕の手から現れた青白い光がレグイドの魔法に触れるとパリンという音を立て、細かい光の粒となって砕け散る。
「「逆演算!」だと!?」
後ろにいたアキの驚く声とレグイドの叫びが重なる。横には「いつでもどうぞ」と言わんばかりにこちらを見ているエリーが居た。
「今だ!」
「最大出力でいっちゃうよっ!!」
強力な魔法は連射できるものではない。僕が打ち消したその隙を突いて、エリーが魔法を打ち込む作戦だ。初めに弱めのを撃ってもらったのは一度、どのような魔法かを確認するためだ。事前に逆演算をしておくことで2回目はすぐに対処できる。
エリーによって放たれた極太の光の束は一瞬で騎士団の前まで到達し、中央に居たレグイドの胸を貫いた。
その勢いで馬から地面に倒れる瞬間、バキッと変な音が鳴った。
「ん?」
僕は疑問に思いながらも動きを止めて落馬した騎士達の残骸を避けてレグイドの前に立つ。パックリと割れた兜の隙間から見えたのは真っ白な頭蓋骨だった。
「あ、コイツ……スケルトンだったのね」
スケルトンというのは、死んだ人の骨から生まれるアンデッドの一種だ。筋肉が無いのに何故動けるのか。やはりモンスターというのは不思議だらけだ。
「で、なんで動かないのよ」
文句を言いながら鎧の腰のあたりに数発の蹴りを入れるエリー。レグイドの目はまだ赤く光っているので、活動しているはずだ。確かに、動かないのはおかしい。
「……背骨が折れた」
「「えっ?」」
どうやら落馬した衝撃で骨が折れたらしい。それを知ったエリーはレグイドの顔に向かって傘を向ける。その顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「へえ、今動けないんだぁ……」
「あ、ちょっと肋骨も何本か折れてああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
爆発系の魔法を頭蓋骨に向かって連射している。もはやどちらがモンスターなのかも分からない。
騎士団長の残骸は見るも無残な姿になってしまった。頭蓋骨が粉砕され、兜の中に散乱している。ちょっとやり過ぎた気がする。レグイド、ごめん。
僕達の後ろでは冒険者たちが歓喜し、騒いでいた。アキもレイと一緒に喜びを分かち合っている。
エリーが笑顔でこちらに手を軽く上げている。奇跡にそれがハイタッチの構えだと理解できた僕は彼女の手のひらを叩いた。パチンというその音が夜の草原に響いた。