02.でんきのただしいつかいかた
僕が武器の図面を書き終えたころ、時計を見ると2つの針は共に12を指していた。襲撃が行われる午後7時まであと7時間。
ライに制作を頼み、店を出た。アキが「レイちゃんと喋っていたい」と言うので、今はエリーと2人で行動している。
流石に、この武器が有るだけで勝てるとは思えない。限られた時間で色々な攻撃手段を用意する必要がある。
「ねえ、カズヤ。そろそろお腹減らない?」
「別に。作戦考える時間が勿体ないし、1人で食べに行っていいよ」
「はあ。ちょっとそこで待ってて」
そう言い残して、エリーは駆け足で近くの屋台へ向かい、何かを持って帰ってきた。何故そんなに買うのが速いのだろうか。
「はい、これ食べて」
文句を言うと殴られかねないので、取り敢えず受け取った。彼女の手から渡されたのは、パンに野菜やら肉やらが挟まった食べ物、つまりサンドイッチ。値段も安く、サイズも丁度良い。
これならあまり時間も食わないし、まあいいか。と思い、口に入れてみると……硬っ。そういえば昨日のレストランで食べたパンも硬かった。どう作ったら、食パンがフランスパン並みに硬くなるのだろうか。
「で、次はどこに行くの?」
エリーはサンドイッチを齧りながら問いかける。僕の顎が貧弱なのか、彼女の顎が強靭なのか。
「この前言ってたマジックアイテムってやつの店だよ。使えるものが沢山ありそうだから」
マジックアイテムについては、宿屋で結晶の説明をされた時に聞いた。
結晶を含め、その物質を構成する成分に魔素がある程度含まれるものを「マジックアイテム」といい、何らかの効果がある場合が多い。モンスターが手に入れられる物の大半はマジックアイテムに分類される。
鍛冶屋よりもさらに壁際、つまり町の端の方に進むにつれ少しずつ怪しげな店が増えていく。とは言っても佇まいが怪しいだけで、ショーケースに並んでいる物は随分とまともである。意外と裏通りの方が見つかったりするのかもしれない。
エリーがおすすめだという道具屋に入ると目に入ったのは、棚にずらりと並んだ丸底フラスコのような容器。中には色鮮やかな液体が入っている。
「いらっしゃい」
そう僕達に言ったのは、店のカウンターに立っている女性。ローブを着ているから、この人も魔法使いなのだろう。
「これは何ですか?」
僕はひょいと持ち上げた容器は濃いピンク色の液体で満たされていた。いかにも危険そうだ。
「口にすると気絶する薬だよ」
あまり使い道はなさそうなので棚に戻すと、今度はエリーが青い液体を手に取った。
「じゃあ、これは?」
「衝撃を加えると爆発する液体」
「えっ!?」
慌ててエリーはそれを元の場所に、ゆっくりと置いた。落としたら店ごと吹っ飛びそうだ。
この後結局、同じような質問を数十回繰り返すことになってしまった。シールでも貼って用途を書いてくれていれば、こうはならなかっただろうに。
そして僕が選んだのは2種類の液体。それぞれ、店の倉庫にあるものまで全部出してもらった。勿論、領収書は後でギルドに送り付ける。
午後2時を回ったころ、僕とエリーは町の目の前の草原に居た。ミアに頼んで、町中の大工を集めて貰ったのだ。皆が協力して工事に取り掛かれば何とか間に合うだろう。
工事、と言えば工事なのだが、ただ浅い溝を掘るだけである。よく考えたら大工達を呼ぶ意味が無かったかもしれないが、もう呼んじゃったものは仕方ない。
その後は予定時刻まで各冒険者の得意なことを聞き、それぞれに合った立ち回りと今回の作戦を伝える。本当は準備したいことは山ほどあったが、時間というのは無慈悲にも過ぎて行くものだ。
気づけば時計は7時に差し掛かっていた。日が沈み真っ暗になった草原の奥から、鎧が擦れるような金属音が響いてくる。
「午後7時です」
腕時計を見てミアがそう宣言するとほぼ同時に現れたのは、まさに想像通りの騎士団。灰色の鎧が闇に浮かんでいるようで、とても不気味だった。
前列には歩兵が、その後ろには馬に騎乗した騎士たち。その中心に立っていたのは、漆黒の防具を取り付けられた馬に乗り、赤と黒の禍々しい模様の鎧を身に纏ったモンスター。案の定、それは不気味な声でこちらに話してきた。
「我は魔王軍第二騎士団の騎士団長レグイド。今夜、この町を滅ぼす為に来た」
「魔王軍の好き勝手にはさせない!」
エリーがそう叫ぶと、後ろから「そうだそうだ」と声が上がる。
「逃げずに戦うつもりなのか。その点は褒めよう。だがお前らは死ぬ運命にある。行け」
その命令を聞いた騎士たちは一斉に動き始める。こちらの作戦はしっかりと伝達されているようだ。この状況で誰一人、微動だにしない。
「なんだ? 魔王軍を舐めてるのか?」
始めはできる限り皆の力を温存しながら、前衛を崩す必要がある。大工たちに工事を頼んだのはその為だ。
「エリー! 今だ!」
「了解っ!!」
エリーの傘から放たれた光の弾丸は騎士団のほんの少し手前で破裂し、眩い光を浴びせる。
エリーから聞いたが、あの騎士達は「アンデッド」と分類されるようで、大体は光が弱点らしい。
そして、動けなくなった騎士団を襲ったのは足元から起きる連続爆発。
掘った溝には「強い衝撃で爆発する液体」を容器ごと入れて土をまた被せ、その上には少し地面から出るように「強い光で爆発する液体」を設置しておいたのだ。
作戦通り、前に出ていた歩兵は全滅。後ろの騎士達にも傷を負わせることくらいはできたはずだ。
「レイ! そこを持って、フルパワーで電気を流せ!」
ライがギリギリで運び込んできたその武器は、僕が思い浮かべていた通りの出来だった。2本の金属の棒で、同じく金属の弾丸を挟み込み、その周りを絶縁体で包む。この武器がどんなものか、この場で知っているのは僕だけだろう。
「ここかな……ここ、だよね……えいっ……」
バチっという大きな音を伴いレイの手から流れた電流が装置の中を走り抜け、それで生じたローレンツ力によって弾丸が加速し、真っ直ぐ射出された。
レイによって放たれた弾丸は目の前に居た騎士の鎧をいとも簡単に貫き、それはドサッと馬から落ちた。
後ろで構えていた冒険者たちの間に静寂が訪れる。
「なんだよこれ……電気ってこんな使い方ができたのか……」
レイの横で見守っていたライは唖然としていた。そりゃ、そうだろう。自分が作ったものに電気を流しただけで、騎士を一撃で沈めたのだから。
「ねえ、カズヤ。もしかして、これって……」
「ああ、そうさ。電磁投射砲……通称、レールガンだ」
何故エリーがその名前を知っているのかと疑問に思った。あ、生きていたころよく読んでいた「らのべ」に、その類のものが有ったような……。「らのべ」知識凄いな。