01.髪の毛もこもこ魔法ビリビリ系女子
ノナテージに到着し列車を降りると、僕達の到着を待っていたかのように、駅の外ににミアが立っていた。町の人々も明らかに慌てている。討伐依頼を受けている間に何かあったのだろうか。
「あ、エリーさん達! クエストお疲れさまでした。ちょっと緊急事態でして……えーと、この子は……」
そう言って、ミアが目を移した先は僕の横にいるアキ。今朝出かけた時には居なかったのだからミアが知っているはずもない。「ほら、自己紹介」という意味を込めてアキの背中を軽く前に押した。
「あっ、あのアキっていいます! さっきパーティに入れて貰いました!」
「そういうことですか。では、あとで冒険者情報を確認しておきますね。」
冒険者情報というのは、ギルドとやらが管理している冒険者一人一人の名前や年齢などのデータのことで、クエストの報酬を渡したりする時の個人認証でよく使われるらしい。僕の情報は昨日の夜に伝えておいたので登録されている頃だろう。ちなみに指紋も取られた。
アキは隣町で登録したようだが、冒険者情報はギルド間で共有しているため、登録した町が違えど認証に利用できる仕組みだ。想像以上に魔法を使った技術が発展している。
「それで、緊急事態って……」
「ああ、失礼致しました。皆さんが出かけている間に、ギルドにこのような物が届きまして……」
僕達3人は一斉に、ミアの広げた紙を覗き込む。
『本日の午後7時0分にノナテージを攻撃する。魔王軍第二騎士団 騎士団長レグイド』
そこに書かれていたのは、この町を攻撃するという宣言だった。送り主のところにある「魔王軍」というのは何なのだろうか。
「「魔王軍!?」」
エリーとアキが同時に驚きの声をあげる。だから、何なのそれ。
「カズヤは知らないよね。簡単に言えば、人を滅ぼそうとしている集団よ。言葉を話せたり、ある程度知能の高いモンスターのね」
彼女の説明から考えると、頭のいいモンスター達の頂点に君臨する魔王という存在が居て、この世界の人々を倒すために統率している軍のことを魔王軍と呼んでいるのだろう。
それなら、送り主の騎士団長とやらはかなり手強いモンスターなはずだ。町の人々の慌てようを見れば分かる。
「その、カズヤさんとアキさんは知らないかもしれませんが……この町で一番強い魔法使いはエリーさんなんですよ」
ミアが言っている以上、本当のことだろうが、どうしても信じられない。というか信じたくない。まさか町で一番強い人とパーティを組んでいたとは。
つまり、僕達は町で最も強いパーティということだ。敵からの攻撃があるとすれば、間違いなく前に出されてしまうのではないだろうか。
「そんな訳で、エリーさん達には戦闘時に前線に出て頂きたいのです。できれば、その場で冒険者達の指揮もとって貰えると……」
見事なまでに予想が的中した。しかも、それ以上の仕事を任されてしまった。
失敗したら町が滅んでしまうのだ。そんな大役を僕達がしていいのだろうか。
「勿論、頼みすぎだということは分かっているのですが、あなた達くらいしか頼れる人が居ないもので……ここ、ノナテージは王都から離れた小さな町ですから」
「分かった。頼られてあげる!」
そしてエリーはちらりとこちらを見る。完全に「作戦は任せたぞ!」の目だ。
「それでは、お願いします。緊急事態ですので、作戦に必要な道具などはギルドから経費が落ちますので」
そう言ったミアは軽くお辞儀をし町の中心部へと駆けていった。
騎士団の攻撃から町を防衛し、あわよくば騎士団長のレグイドを倒す。ミアが言っていたことが本当なら、この町はかなりの戦力不足ということだ。
僕は取り敢えず作戦を考えてみることにした。
魔王軍というだけあって、その騎士たちは剣術は勿論のこと、ある程度は魔法に長けているに違いない。ならば、属性耐性などの効果がある補助系魔法も当然のように使ってくるだろう。それでは、中途半端な魔法は通じない。
そして「騎士」というのは大概、鎧を身に着けているものだ。その硬い装備で剣による攻撃を防ぐ。
すなわち、魔法を撃っても効果が弱められしまい、武器を持って突撃しても全滅するだけだ。
魔法を直接使わずに、そして敵に接近せずに鎧を貫通できるような武器……。
閃いた。前にエリーから聞いたことを利用すれば、確実に騎士を倒すことができる。
「ねえ、エリー。この町に、電気系の魔法が得意な人と、設計図を渡したら作ってくれそうな鍛冶屋って居る?」
「え? 別に居るけど……何で?」
「いいから、案内して」
エリーに説明しても絶対に通じないだろうし、アキは理解不能だろう。
僕がやろうとしているのは、魔法と結晶科学と物理学の融合だ。
この世界の主な物質は、元の世界と同じように原子で構成されている。武器の殆どは鉄製だし、少し離れたところには鉱山もあるらしい。第一、僕達が呼吸できているのだから、空気中には酸素が存在しているはずだ。
それに対し、結晶のような物質は「魔素」という原子とは違う、別の粒子から成っているのだ。その為か、魔法においては今まで常識だと思っていた物理法則が成り立たなくなる。燃料無しで火炎放射したり、空中から鼓膜が破れそうな程の爆音を鳴らしたり、そんな例を見聞きした。
だが、それを上手く利用すれば、物理的に不可能だったことを可能にできるかもしれない。
「ライさんいるー?」
エリーの案内で連れてこられたのは、裏路地にある小さな鍛冶屋だった。看板に金床の絵があるから間違いない。
エリーが名前を呼びながら扉を勢いよく開けると、木の椅子に大柄な男性が座っていた。
「おう、エリーか。今日は連れが居るのか?」
「ええ。私、パーティを組んだの」
「へえ、あのエリーがパーティか。今まで『1人の方が動きやすい!』って言ってたのにな」
ライと呼ばれていた男性は、わざと高い声を出して似てもいないエリーの真似をしている。すると奥の扉がギイっと音を立てて開き、アキと同じくらいの女の子が出てきた。黄色の瞳にもこもこした白い髪。多分、エリーは一度くらい頭を突っ込んでいそうだ。
「パパ、お客さん来たの……あ、エリーさんか」
すると、その子は僕とアキの方を見て首を傾げる。「この人達誰?」って思っているのだろう。
「仲間のカズヤとアキよ。紹介するね、そこのおっさんが鍛冶屋のライさん。それで、この子が電気系の魔法が得意なレイちゃん」
この2人は僕の必要としていた条件と一致している。凄い偶然だ。
そして僕は彼らに、先程考えていた作戦への協力をお願いした。
「この緊急事態で、どうしてもライさんの技術とレイさんの魔法が必要なんです。協力して貰えませんか?」
「レイを魔王軍と戦わせるってことか? 父親としては、娘に危険なことはさせたくないのだが」
確かに、小さい女の子に頼むのもどうかと思うが、この武器を扱うには電気系魔法が必須なのだ。電気系魔法は黄属性魔法に分類されるが光系魔法と違い、この世界には電気の利用方法が存在しない。多分「ビリビリする何か」みたいな感覚だろう。それでは戦力にはならないと思ってもおかしくはない。
「レイさんにしか使えない、電気を利用した鎧も貫通できる武器があるんですよ」
「電気を利用するって……そ、それはどんなものだ? この紙に図面を書いてくれ」
ライは少し乗り気になってくれたようだ。紙に線を引く僕の後ろでは、アキとレイの楽しそうな声が聞こえてくる。小さい子同士って、すぐに仲良くなれるんだね。あれ、僕って小学生の時の友達何人居たっけ……あ、数える必要も無かったか。