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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.1 できれば平穏に異世界を満喫したかった
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11.ナイトはさいきょーですから

 それから僕とアキはしばらくの間、チェスを続けていた。一度も勝てなかったけれど、久しぶりに勝負が楽しいと感じた。

 だが、そんな時間の終わりを知らせる声が車内に流れる。


「まもなくホルネ遺跡に到着します」


 このアナウンスも実は魔法が使われている。音を出す魔法は魔力よりも経験が必要で、昨日、町の中央で舞っていた踊り子が奏でていた音楽も魔法によるもののようだ。

 ちなみにエリーがやってみると「鼓膜が破ける程の音量でシンバルの音が鳴る」らしい。「あ、これ戦闘に使えるかも!」って洒落になっていません。


 前方から汽笛の音が聞こえ、列車は徐々に速度を落としていく。エリーが起きずに降りれなかったみたいな事故を避けるためにも、僕は床に突っ伏しているエリーの肩を軽く揺さぶった。が、そんな簡単に起きるはずもない。


「うーん……アキ、何やってもいいからコイツ起こして」


「了解です!」


 そう言うとアキは、エリーをごろんとひっくり返し仰向けの状態にして、腹に見事なストレートを叩きこむ。


「う゛……ん? ああ、私寝てたんだっけ……って誰この子!!」


「あ、アキっていいます! カズヤさんにパーティに入れてもらいました!」


「ちょっと何で勝手に……まあ、カズヤが良いって言うなら……」


 多分、この文は「アキをパーティに入れることが最も合理的であるはずから、私も良いと思う」と続くのだろう。分かっているじゃないか、エリー。

 お互いに挨拶を交わしているのを見て安心した。エリーとアキの仲が悪かったらいきなりパーティ壊滅の危機に瀕してしまう。


 列車を降りると、目の前に現れたのは石で出来た建造物。奥には階段のようなものが続いている。


「あの……」


「うわっ!」


 突然の呼びかけに驚くエリー。いつの間にか僕達の横に立っていたのは、茶色の髪がボサボサに伸び、目の下にくまを作った白衣の女性だった。


「あ、驚かせちゃってすいません……遺跡の研究をしているユーラです……昔から影が薄いもので……」


 その口から零れるのは、疲れきってボソボソとした低めの声。おそらく、研究が忙しくてあまり寝れていないのだろう。


「ミアから話は聞いたと思いますが……ちょっと事情が変わりまして……」


「変わった?」


 確か、ミアは「遺跡の周辺にモンスターが大量発生している」といっていたはずだ。だが周りを見渡してもモンスターの姿は見受けられず、他の研究者たちもあまり警戒している様子は見られなかった。


「その……モンスターが今日の3時くらいから……急に姿を消してしまいまして……」


「え、この依頼どうなるの?」


「その代わりと言っては難ですが……これも今朝、遺跡の新しい通路が発見されまして……でも、モンスターが大量に潜んでいて進めず……それを倒していただければ……」


 するとエリーがユーラの前にスッと手をだす。その形はお察しの通り、親指と人差し指をくっつけた「金」を表すものである。アキ、見ちゃだめだ。


「それに関しては……元の依頼よりもモンスターが強いはずなので……さらに20万シルン上乗せします……」


 喜ぶエリーをよそに、僕はその原因を考えていた。急に消えてしまったモンスターと遺跡の新たな通路。この2つ果たして関係はあるのだろうか。


 遺跡の中は何も見えないほど真っ暗だった。すると、エリーが傘を上に向け光の球を出した。彼女が魔法で作り出した光源は、まるで主を追いかけるかのようにエリーを追尾するように動いた。


「わー! 凄いです!」


「こんなの簡単よ。ほら」


 小学生に褒められ調子に乗ったエリーは同じ魔法を連射する。光源は多くて損は無いが、魔力の無駄遣いにも程がある。

 その結果、僕達は迷わずに目的の場所に到達できたのだった。アキが「怖いです」と言いながら僕の腕をギュッと握りしめているせいで少し時間はかかってしまったが。


 通路の奥からは、何やらドシンと重いものが動いでいるような音が聞こえてくる。横ではアキが「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫……」と唱えながら震えていた。

 意を決して通路を進んでみると、その大きな音の正体が目の前に現れた。


「ゴーレムね。しかもこんなに……」


 ゴーレムというのは自ら動く泥人形のこと。小学生くらいのころ、友達が貸してくれたRPGを遊んだ時に出てきた記憶がある。まあ、そのゲームも一日で飽きたのだが。一応、僕も小学生の時は友達はギリギリだけど居たからね。

 だが、僕達の前に立ちはだかるのは泥ではなく、石で組み上げられたものだった。その数およそ10体。


 すると、急に腕に触れていたものが無くなった。アキは僕から離れ、戦う気満々なようだ。


「いきますよゴーレムさん!」


 アキの声でこちらに気づいたゴーレム達は一斉に僕達に目を向ける。そして、1歩を踏む毎に重い音を立てながら歩みを進めてきた。


「ナイト召喚!!」


 その言葉と同時にアキの左右は青白く光りだし、地面から徐々に形が構築されていく。そして現れたのは、青い鎧を纏った馬とそれに騎乗する騎士が2体。チェスの駒でも出てくるのかと思っていたが、それは遊ぶときだけのようだ。


「使い魔!? この子凄いじゃない!」


 使い魔というのは、「半永久的に使用者が操作できる魔法」のこと。エリーが使う攻撃魔法のような敵に向かって撃ちこむ魔法は、使用時のみ大きな魔力を消費するが、アキのナイトのような使い魔は、召喚時には余り魔力を消費しないものの、使い魔の形の維持及び操作が必要なため、継続的に魔力を消費するようだ。

 エリー曰く、一概にどちらが強いとは言えないが、使い魔の方が集中力が必要らしい。


 「出撃!!」


 アキが人差し指を前に突き出すと、左右のナイト達は同時に馬を走らせゴーレムに向かっていった。先頭のゴーレムが大きく振りかぶると、片方のナイトが飛び上がり、馬の前足でゴーレムを地面に押し倒す。そして胸に剣を突き刺してフィニッシュ。

 倒されたゴーレムの目からは光が消え、ただの石となってその場に崩れ落ちた。


「ナイトはさいきょーですから。まだまだいきますよ!」


 2体のナイトはそのまま突き進む。ゴーレムの重いパンチを盾で防ぎ、その脇から剣で斬ったり、馬の機動力を利用して背後に回って、首に斬撃を加えたり、アキのナイト達はどんどんゴーレムを倒していく。


「エリーさん、魔法の準備を!」


「えっ?」


 だが、残る1体のゴーレムは天井スレスレの高さを誇る、大型のものだった。石の体も、比べ物にならない程分厚い。果たしてナイトの剣が通るのだろうか。

 しかし、そんな心配は要らなかった。アキは2体のナイトをゴーレムの後ろに回らせると、何とその場で剣と盾を自ら地面に落とさせた。攻防の手段を失った敵を無視するはずもなく、ナイト達はゴーレムの一撃で粉々に砕け散る。


 その時を待っていたかのように、エリーが本気の魔法をゴーレムの背中に向かって放つ。光の束はゴーレムの腹部を突き抜け、命中した点からガラガラと大きな音を立てながら崩壊していった。


「やりましたね!」


「ええ。でも、最後のって……」


「ナイトの剣があのゴーレムに通りそうになかったので、わざと殴らせてエリーさんが後ろから攻撃するスキを作ったんです」


 アキは最後のゴーレムに攻撃が効かないことだけでなく、その後の立ち回りまで読んでいたようだ。彼女にとっては戦闘も遊びの1つとして楽しんでいるのかもしれない。


 そして戦いを終えた僕達は、ユーラから依頼の報酬をしっかりと貰い、ノナテージへと3人で帰えることにした。


 帰りの列車内で寝ていたら、膝にアキが乗っていて驚いた。なんでも、机が高いから僕の膝の上が丁度良いんだとか。それによって、その後の睡眠が妨害されたのは言うまでもない。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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