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sky the step  作者: 綾野 朱凜
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空へ

体を裂くような高音が周辺に響き渡る。

痛いほどの日光を避ける場所もなく、辺たりでは日陰を求め、格納庫の陰へ向かう人、日焼け止めや傘、帽子などを被っている人などで溢れかえっている。

しかし、彼らは皆、同じ姿勢をしていた。

空を仰ぎ、カメラを上に向け、歓声を上げる。上空を切り裂く飛翔体を追いかけて皆、体の向きを変える。

空を切り裂く飛翔体---蒼き翼、『Blueimpulse(ブルーインパルス)

空を愛する者の憧れであり、夢である。

私が初めてコレを見たのは3歳ぐらいの時だっただろうか。

あまりの人の多さに、駐車場に止めた車の上に乗って見た覚えがある。

それから何年かは雨だったり、悪天候で飛ばなかったり、私の都合が合わなくていけなかったり…。

再び会えたのは高1の時。近年稀に見る晴天だった。(後から知ったのだが、その年の入場者数は過去最高を記録したらしい。)

その時、初めてファンシードリルを見た。

洗練された動き、リズムの取れたドラム。

ハッキリ言って「感動」の一言しか出てこなかった。

そして今日のメインイベント、ブルーインパルスの展示飛行。

運良く最前列に座ることができ、私は、カメラのシャッターを切り続けた。

展示飛行が終わり、サイン会が始まった。

たまたま並んだパイロット

--5番機、EDENーー

アクロバット飛行で疲れているはずなのに、今日の直射日光のように眩しい笑顔で、サインと写真を撮ってくれた。別れ際の握手は力強く、ドルフィンライダーの自信そのものだった。

次の年。

生憎の曇り。そして、まさかの部活。

空港に着いたのは昼だった。

まだやっていればいいのだが………。

隣接されている空港の第3駐車場に車を止め、空を見上げた。

少しずつ晴れて行く空を6機の青い翼が飛んで行った。

運が良いとしか言えないこの出来事に、少なからず幸福感に浸った。

その年、夏休みの1日を利用し、私は父と基地見学に来た。

いつも入る基地とは違う、人の少ない航空基地。その日は晴天だった。

基地の人に色々な場所を案内してもらった。

ふと、私は足を止めた。明らかに年季の入った飛行機。おそらく、今ではもうこのような設計はされないであろう白い飛行機だった。

「この飛行機は……?」

「YS11です。今ではもうこの基地でしか飛んでないんですよ。」

「レトロな飛行機ですね。」

「この飛行機は、堀越二郎が設計をしたんです。」

堀越二郎。あの、世界的に名作と歌われた、昭和の代表作、零戦の設計者だ。

なるほど。目を惹かれたのも分かる。美しいのだ。細長いフォルムに、二基のエンジン。

レトロな作りにも関わらず洗練された機体。

F15や、T4とは違った魅力。

やはり、堀越二郎は凄いと実感した。

輸送機の格納庫前を歩いていると、顔のイカツイ(怖いと言った方が正確だろうか)自衛隊員が、案内の人の名前を叫びながらズカズカとこちらへ歩いてきた。

「おい!足立!基地見学に来てるなら早く言えよ!」

「すいません。」

私は、その隊員の迫力に圧倒されながら、なにかまずかったかな、と心配になった。

すると彼は

「お嬢ちゃん。こっちおいで。」

と、だけ言うとエプロンへ向かった。

「え?あのっ…」

「ほら、付いてきなよ。」

戸惑いながら私はその人の後を追った。

「本当なら10人以上じゃないと見せないんだけどな。今日は特別だ。」

そこにあったのは、C1輸送機だった。

彼はC1のドアを開け、中に入れてくれた。

中にある機材の説明、何人ぐらいが乗れるか、パラシュート部隊の話など色々聞けた。

「ありがとうございました。」

「まだ終わってねぇぞ。」

「えっ?」

「何だ、乗らないのか?」

「どこにですか?」

「ほら。乗せてやるからこっちに来な。」

そう言うと彼はコックピットの中へ入った。

戸惑いつつも好奇心が背中を押し、私は恐る恐るコックピットに移動した。その時危うく転けそうになったとき

「おっと…気をつけな。」

と支えてくれた彼の手はとても大きく、がっしりとしていた事を今も覚えている。コックピットの椅子に座ると何だか妙にドキドキした。

「どうだ?凄いだろう。」

そう言う彼の顔はとても楽しそうだった。

「はい。凄いです…!こんなに目線って高くなるんですね」

「ちなみにそこは機長席だ。」

「えっ!」

「案外、乗り心地は悪いだろ。でもまぁ、このゴツイ感じが、俺は好きなんだけどな。」

ニコニコしながら喋る彼は本当にこの飛行機が好きなんだなと感じさせた。

「これが、高度を表すメーター。それが速度、それが方位で……」

と、機材や、メーターの説明をしてくれた。

「その操縦桿、握ってみてもいいよ。」

私は恐る恐る手を伸ばした。操縦桿を握った瞬間、鳥肌が立った。この、両手に収まるような小さな舵がこの大きな飛行機を操縦しているのだと思うと、とても感動した。

「じゃ、飛ぶか。」

「えっ!?」

「嘘だよ。写真撮らなくてもいいのか?」

私は慌ててケータイを出した。すると、いつの間にか来ていた足立さんに

「写真を頼む。」

と言ってケータイを渡された。

「はい、チーズ」

足立さんに写真を撮ってもらった後、C1を後にした。彼も付いてきていて、私は彼に、

「戦闘機に乗りたいとは、思わないんですか?」

「うーん。どうだろうな。最初の頃は思ってたけど、今は思わねぇな。確かにカッコイイと思う。だけど俺の飛行機はアイツだ。アイツも悪くない。」

「羨ましくないんですか?」

「そりゃ羨ましいさ……いや、羨ましかっただな。今は尊敬してるよ。特に、ブルーインパルスのパイロットにはな。俺にはあのGには耐えられねぇし、あんなアクロバット飛行は出来ねぇよ。」

私は、思った。

この人は強いんだな。と。そして、ブルーインパルスの偉大さを改めて感じたのだ。

同じ自衛隊員からも尊敬され、日本中の脚光を浴び、アイドル並みに人気のあるブルーインパルス。2011年に、ホームベースが被災しながらも、日本中に元気を与え続けた。

本当に凄いと思った。

この時だっただろうか。

自衛隊員になろうと思い始めたのは。

昔から、興味はあった。だけど、なりたいとまでは思わなかった。

しかし、今日の経験が、少なからず私に影響を与えた。

家に帰り、早速調べた。どうやったら自衛隊員になれるのか。どのような試験なのか。

「ムリだ……」

私には致命的な弱点があったのだ。

私は、長い距離が走れない。

長年の剣道による、腱膜炎により、1キロを超えると足に鋭い痛みが走り出し、いくら完走が出来てもタイムがかなり下がるのだ。

そして、膝と腰が悪かった。これも剣道によるもので、腰にいたっては、ひどい時は椅子に二時間座っているだけでも辛いのだ。

そんな私は、自衛隊員にはなれない…。

なぜ、もっと早くに自衛隊員になりたいと思わなかったのだろう。とても、とても悔しかったのを覚えている。

それからと言うもの、私の航空自衛隊に対する憧れは強まって行った。

次の年。

ブルーインパルスを撮りたいがために一眼レフのカメラを母と、私ようで買ってしまったのである。2人して馬鹿なことをしたなと思いつつ、後悔はしていなかった。

五月。例年より暑い日だった。

つばの広い帽子を親子してかぶり、家を7:00に出て、基地へ向かった。

車の中で日焼け止めをしっかりと塗りたぐり、車を指定された場所へ停め、シャトルバスに乗り込み、基地へと向かった。

基地につき、オープニングを見た後、ブルーインパルスのパンフレットをもらい、早速サイン会へと並んだ。

母が並んでいる間に、私は1人、整備士さんの元を周り20をこえるサインを集めて回った。

ブルーインパルスのメンバーが写っているページを出し、

「サインをお願いします」

と言って渡すと、その人はページを1つめくり、1番最初の飛行隊長のページを出した。

そう。この人は、1番機、DOMさんだったのだ。あまりの驚きにしばらく固まっていたが、彼は優しく、

「どこからいらしたんですか?」

「あ、地元です」

「そうなんですか。楽しんでいってくださいね。」

と、声をかけてくれた。

次に、お目当の列に並んだ。

5番機、EDENさん。

今年がラストシーズン。最後に写真を撮りたいと思った。

ようやく順番が回って来た。

「サインをお願いします」

といってパンフレットを渡すと、

「凄い!たくさん集めてるんですね!」

「ブルーインパルス、大好きなんですよ。」

「ありがとうございます。」

書き終わって、パンフレットを返してもらうと

「写真は撮りますか?」

と聞かれ、私はお願いしますと言ってスマホを出した。

私のスマホのロック画面を見て、EDENさんが、

「あ、その写真。僕ですか?」

と嬉しそうに聞いてくれた。

2年前に撮ったあの時の写真をロック画面にしていたのだ。

ブルーインパルスのマークを手で作り2人で写真を撮った。

あの時よりも眩しい笑顔で。

今年もあの時のように、最前列でシャッターを切る。ただし、今年は主に、5番機を多めに。



高校の時に書いた小説が今になって出て来た。

私は今、カフェ店員をする傍ら、趣味程度に写真や、小説を書いている。小説の方は、何回も

賞を取り、そこそこの賞金を集めたりしている。しかし、その賞金の半分はカメラと、日本の基地巡りに費やされていた。



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