第一章 狩人達の夜(9)
勝負は一瞬、瞬きのうちに終わっていた。
マイトオストが瞬きで目を閉じた、開いたときにはカールグスタフの姿を見失っていた。
お互いに武器はなし、素手のみという約束で始まった決闘なのに、カールは短刀とも呼べない包丁を首筋に突き付け背後からマイトの耳元へ勝利を宣言した。
卑怯だ、ズルイ、と口にしかけ、マイトは鳥肌を立て固まった。
ここでカールの勝利を認めなければ、首筋にあてられた包丁の刃はきっと喉を切り裂くだろう。
決闘という言葉を、喧嘩の延長線上にあるものだとマイトは考えていた。
カールのなかではきっと、殺し合いという意味でしかなかったのだろう。
勝てばいい。
殺してしまえば良い。
あとの理屈などどうにでもなる。
マイトオストが剣を構えて決闘を申し込んできたから、誠実に刃をもって対応した、と、口にしても、それはそれで通ってしまうことだった。死んでしまったマイトの口から真実が漏れることはない。
それでも納得しないなら、そいつらも殺してしまえば良い。
あとの理屈などどうにでもなる。
それでも納得しないなら、そいつらも殺してしまえば良い。
あとの理屈などどうにでもなる。
リーベレッテを守るためであれば、カールグスタフはなんだってやる。
リーベレッテがその場に居なければ勝利宣言もなく首を切られて命が終わっていたかもしれない。
マイトがカールに別れを告げたその日から、カールのなかでマイトは仲間ではないものになってしまっていた。恐怖の色で嫉妬が塗りつぶされた頭になって、ようやく冷静な目で見ることができたカールの瞳は、純粋な闇の色を宿していた。
人間とは思えなかった。
ゴブリンや虫のほうが、まだ人間らしさを持っていた。
食べるだとか、生きるだとか、死にたくないだとか、そんな理由を持ってゴブリンや獣が人を襲うこともある。人間だってそうだ。けれどもカールのそれは、そんな理由すら持っていなかった。
あまりにも純粋すぎる殺意の塊。
殺すことが手段で、殺すことが目的。
人間とは思えなかった。
ニルダの古戦場で出会った魔物たちの方が、恨めしい感情があり、まだ人間味があったくらいだ。
決闘という言葉を力比べだと濁してみても結果は同じ。こと戦いとなればカールというマイトの幼馴染だった少年は、簡単に人間であることを辞めてしまう。常に最速で、もっとも効率的な手段で、敵を殺すためだけのナニカになってしまう。
戦いでもない。狩りでもない。ただ一方的に惨殺するだけの、アンデットよりも死に近いナニカ。
古戦場でアンデットを相手にそうならなかったのは、敵ではなかったからだろう。
あのときは、地中から湧いてくる野ウサギを相手に狩りをして遊んでいただけだ。
カールの眠る姿に目をやると、目を瞑りながらも本当に眠っているのかマイトは心配になる。
リーベレッテの逃亡を助けたことで、もう一度、仲間の内側に入れてもらえたのだと思いたかった。もう一度、幼馴染に戻れたのだと思いたかった。
だが、剣しかないマイトオストにはその真意を知る術が無い。
友人で、仲間で、幼馴染の顔をしているが、本当のことはわからない。
人の本心は、わからないものだ。
どれだけ長く付き合っていても。
カールの持つ、この世で最も忌まわしい魔眼なら、それを確かめられるのかも知れなかった。
この世で最も忌まわしいと世の人々に言わせるのは、自分も欲しいという渇望の裏返しなのかもしれないな、ともマイトオストは考えた。
それから思い悩んだ。この村を襲った盗賊達のほうが、楽しみのために人殺しをした彼等の方が、まだカールよりも人間に近いのではないかと考えてしまう自分自身のことを、マイトは少しだけ嫌いになった。




