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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第三章 帰郷への永い旅路 10

 偽りの太陽の下、マイトが鉄剣を片手に飛び出した。

 相手はレベル60、ただし魔法使いだ。

 さらには眼も見えぬとなれば、レベル1の戦士にすら劣る存在。

 つまりはレベル60の棒振り素人にすぎない。

「こうやってよく見れば、弱点ばっかりだなぁ!! 膝ぁっ! 肘っ! 手首っ! ド頭っ!」

 かつては豪奢であっただろうフードを身に纏い、髑髏が飾り付けられた悪趣味な長杖を振り回すも、戦士である前から戦士であったマイトにとって、恐れるべきところがまったく無かった。

 素人の棒振りに振り回されるほど、眼が鍛えられた戦士は弱くない。

「一つ一つの動きが大袈裟なんだよ!! その御立派な棒切れから動きを学んでねぇのか!?」

 大袈裟な振りのそれは、簡単に受け止められる、避けられる、弾ける。

 振りは速い、だが、早くない。打つ前から振り下ろされる先が解っている剣の筋は、恐ろしくもなんともない。

 フードの下は骨一つ。鉄より硬いということは無いだろうし、何よりも、肉が無いぶん細くて良い。

「魔法? 使わせねぇよ!!」

 魔法の詠唱を始めたなら、その口の中に鉄剣を一本突き刺すだけだ。

 喉奥を突かれては、生者も死者も問わず魔法も何もあったものではない。

 唐突に割れた月。世界の亀裂から姿を現した異形。奔る怖気に屈する心。

 それを掻き消す天の光と共に現れた一人の戦士。その姿に、訓練生たちは英雄の姿を見た。

 光の女神が遣わした英雄、マイトオストの姿を目に焼き付けた。

「あれは……マイトさんだ!!」

「マイトくんだ!! マイトくんが戦ってるぞ!!」

「しかも勝ってるだよ!! あの強そうなのを相手にして勝ってるだ!!」

 急に弱体化したアンデッドたちを、尽く討ち果たした訓練生たちが見守る中で、マイトの剣が走り、剣と共に踊る。こうなれば、踊る相手が素人であることが残念でしかたない。

 ≪英雄幻想ヒーロー≫。それは、背負った命の数だけ、弱き者たちの数だけ、マイトオストを強くする。いまだ英雄ならざる彼を、英雄の領域にまで引き摺りあげるタレントスキル。

 いつか目に焼き付けた、あの日の戦士の背中を、はたしてマイトは見せられただろうか。

 マイトの握る鉄剣が折れたなら、近くまで来ていた誰かが新しい鉄剣を放ってくれた。

 古戦場の主が放つ恐怖の効果は、確かに未だに場を支配している。

 だが、カールの与える活力が、マイトの与える英雄の幻想が、二つの力がそれを凌駕し訓練生たちに、それ以上の勇気を与えていた。

 夜の半分を生き残った勇者が総勢六百名ほど。守りから攻撃に、いや侵略に転じた蛮族たちの怒号が戦場の勢いを決定づけた。

 もはや、恐れなければどうということもない屍の群れだ。ギルムの元だ。

 目の前にあるのは恐ろしい魔物か? 

 いや、黄金の穂をたらした麦の畑だ。

「喰らうだよっ!! これが、オラの剣だぁ!!」

「しっかし、こいつ等、急に弱くなったな? この光のせいか?」

「マイトさんだよ!! 全部、マイトさんがやってくれただよ!!」

 浮かばれぬカールが、神の御業の模倣という、人の身にそぐわぬ大魔法の維持のためにふらつきながら、一人で拗ねていた。

「魔法使いとは、こういう役回りなのですか? 師匠たち?」

 心の中の師匠が、二人揃ってウンウンと頷いているのを確認し、カールはがっくりと膝を折った。蛮族たちが奮い立つ中、カールの心だけが折れていた。精神力の摩耗とは、激しく気力を損なわせるものなのであった。


 偽りの太陽の輝きは、即席の砦のなかまでを、その光で満たしていた。

「なにです? 何がどうなってるですか!?」

「わかんない! 月が天頂に輝くとき……なのに、その月が急に居なくなるんだもの! 精霊たちも大騒ぎしてて、うるさいのよ~!!」

「ええいっ! 相変わらずの役立たずです! そんな助言はいらないです!!」

 喧嘩を続ける二人を他所に、リーベレッテが偽りの太陽を前にして祈りを捧げる。

「女神ルミナスよ、あの光を、あの希望の光を、どうか支えたまえ!!」

 不格好な太陽を依り代に、さらなる光の女神の恩寵をリーベレッテは誘いだしていた。

 女神ルミナスがその祈りに応えたのか、歪んだ太陽が、より正しき姿を取り戻す。


 ニルダの古戦場、その主に相応しいのは英雄マイトオストか、それとも薄汚い骸骨か。

 そのレベル差は59。だが、ニルダの古戦場という忌まわしき地に君臨する王も、目が見えなければ、魔法を唱えられなければ、賛美する配下の力が居なければ、ただの弱々しい、魔法の使えない魔法使いでしかなかった。

 己と共に蘇えり、己の盾となるはずの高位アンデッドの配下たちも、蘇える端からルミナスの命の光に蝕まれて滅び、盾にはならず。だが、マイトの剣は鋭く激しく攻め立てる。

 配下を失った廃嫡の王は、六百名からの訓練生と八人の教官の期待を背に受けた、英雄マイトオストの敵ではなかった。

 こうして順当に、あまりにも順当に、その勝敗は決したのである。

 マイトの手で最後に振り下ろされたのは、何の嫌味かカールが携えてきたクワであった。

「農家舐めんなあっ!!」

 英雄である戦士が口にする言葉ではなかったが、周りを囲むのも似たような出自の田舎者だ。

 マイトの一言が実に爽快に決まり、エルダーワイトの頭蓋をカールのクワ諸共に粉砕したのであった。


 生者と死者、一方の王が失われたことにより、戦場の勝敗は完全に決した。勝敗が決したなら、後に続くのは残党狩りである。

 魂をこの地に縛り付ける主を失ったことで、殺しても殺しても再び戻ってくるはずのアンデットたちの魂が、肉体の崩壊とともに解放されていく。

 彼等の魂は帰りたい土地に帰り、そして、故郷の姿を見ることに満足をしたなら、魂の巡りの中に還っていく。道草は百二十年以上喰った。満腹だ。それは、長い長い帰郷への旅路を支えるには十分すぎる道草の年月。

 明け方を迎えるころには全ての魂が解放され、発生しない魔物を相手に蛮族たちが苛立ちすら覚えていた。

 どうやら勇気と活力を与えられた蛮族たちにとって、用意された獲物の数が少なすぎたらしい。


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