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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
33/55

第三章 帰郷への永い旅路 6

 完全に日が没する頃には、他のアンデッド達も目覚めてきた。

 夜が深まるほどに、人からより遠ざかっていくような感覚を覚えた。

 ゾンビはまだ人に近く、生理的嫌悪を感じさせる。見た目が怖かった。

 スケルトンは人から肌や肉、臓腑に眼球を取り除いたもので、逆に怖くない。

 レイスに至ると、霧のような姿で、人と骸骨が半々に混じった姿を見せ、まったく怖くない。

 一番弱いゾンビが、腐臭を放ち気持ち悪いという一番の強さを持っているのはいかがなものかと、カールは思うものの、訴え出る先が無かった。邪神とされるトワイライトに祈るわけにもいかない。

 もっと、アンデッドを怖くしてくださいと祈り、人類の敵に回る気は無い。

 アンデッドと訓練生が交じり合うニルダの古戦場では、それぞれの教室ごとに分かれて、それぞれのやり方で生き残りを図っていた。

 まるで軍隊のように方陣を敷いて、近づいてくる敵を叩き、疲労が溜まれば後列と交代する戦士たちの集団。

 狩人が相互に支援し合って、襲われているパーティを別のパーティが十字の射撃で助ける、狩人たちの集団。

 それらが混在し、三つ四つの陣を張り、陣同士で相互に助け合う混成集団。

 ほぼ全ての教室の生徒たちが、集団を基本とし、待ちの体制に入っていた。

 ヴァイスメイヤーの教室はと言えば、バラバラだった。集団だったり個人だったり、お互いを利用し合ったり、協力し合ったり、集散離合を繰り返し、無尽蔵に湧いてくるアンデッドたちの後頭部を狙った。

 一人を追い駆ける敵が居れば、別の誰かが頭を殴り、魔物が振り向り返ると、追い駆けられて居たものが頭を殴りつけるのだ。もはや、敵の強さも関係しなかった。魔物相手に騎士道精神は不要である。


・名称:スケルトン

 レベル:3 クラス:エネミー アライメント:黄昏/混沌/悪

 生命力:18/18 精神力:12/12 状態:不死者

 筋力:13 体力:13 敏捷性12 知覚力:7 魔力:10

 ギルム:80 ドロップ:鉄の剣

 スキル>> 剣を振り下ろす 飛び掛かる


 説明:ニルダの古戦場に魂を囚われてしまった戦士の成れの果て。魂は望郷を望むが、それは永久に叶わぬ夢。ただ近くにある命に斬りかかるだけの骨と成り果てて未だ解放されることは無し。彼等の魂が古戦場の主の手から解放される日はいつか?


 肉と骨よりも、骨と剣の方が強かった。だが、後ろから殴りつける分には似たようなものであった。

 それよりも困ったのがレイスの対処である。フワフワと浮き、身体は霧か雲のようで、剣で斬っても、矢で射抜いてもなかなかに倒せない。

 そして生まれた新しい魔物が、聖水泥棒である。

 水濠の聖水に鉄の剣や矢を浸してみると、効いた。

 そして、俺も俺もと砦の聖水を僅かずつに盗んでいくのだ。

 これにはメイが怒鳴り散らしていた。

「泥棒は泥棒です! 対価はちゃんと払うです! あとで鉄の剣を十本払うです!」

 なんてボッタクリなと考えつつも、戦場ではそれが適正な価格の気もした。なにせ、スケルトンを背後から襲い、運が良ければ鉄の剣が手に入る現状なのである。支払う分には事欠かない。

 街で買うものとどれほどの違いがあるのかは解らないが、一本が一万ギルム。合わせて十万ギルムだが、命の値段に比べれば安いものであり、なにより後払いだ。メイの言葉の真意は生き残れという意味なのだろう。と、カールは思いたかった。


・名称:レイス

 レベル:5 クラス:エネミー アライメント:黄昏/混沌/悪

 生命力:10/10 精神力:18/18 状態:不死者

 筋力:6 体力:7 敏捷性5 知覚力:10 魔力:15

 ギルム:200 ドロップ:エクトプラズム

 スキル>> 物理効果激減 神聖魔法


 説明:ニルダの古戦場に魂を囚われてしまった神官の成れの果て。魂は望郷を望むが、それは永久に叶わぬ夢。ただ近くにある命に斬りかかるだけの骨と成り果てて未だ解放されることは無し。彼等の魂が古戦場の主の手から解放される日はいつか?


 魔物が神聖魔法を使うというのもおかしな話だったが、邪神も神のうちなのだろう。恐らくは魔法だと思われる球を吐き出して、それに触れると激痛と共に生命力が減るようだ。

 初めは、メイ達と共に砦の中に閉じこもる気でいた。

 だが、それはマイトが、「男らしくねぇ」の一言で却下された。却下以前に、ゾンビが発生すると共に飛び出して行ったのだ。仕方がないとクワを片手にカールは手伝っている訳なのだが、ヴァイスメイヤーの生徒たちは自分たちのやり方を見て、その場で学んでいるようであった。

 自分達よりも数が多ければ逃げる。そして追い駆けるアンデッドを追い駆けて闇討ちを仕掛ける。

 単純な足の速さならこちらの方が早いのだ。そして、アンデッドたちはどれもこれも知覚力が低かった。つまり、こちらが無意味に音を発てでもしなければ見つかることも無い。後ろから頭に一撃。

「なぁ、カール、別に砦を造らなくても良かったんじゃねぇか?」

「マイトはティーの頑張りを否定するのかい!? 僕はキミを見損なったよ!!」

「俺はお前を見損なったよ!!」

 メイとティーは、砦を守るというよりも、給水係のリーベレッテを守っていた。

「男は外で働くです。女は家で働くです」と、良いように使われている気もした。

 何せ、魔物を倒して得られるギルムは五等分。リーベレッテを任せるにあたって、正式にパーティを組んだのだが、自分たちの稼ぎは彼女たちのもの。彼女たちの稼ぎは彼女たちのものである。

 メイがアイテムボックスから取り出したのは、なんとAコースの元。随分、重たい思いをして持ってきたらしい。思えば半日かかる仕事なのだ、一度や二度は腹に何かを入れなければやっていられない。

 それを聖水を満たした鍋に入れ煮込み、器に入れて提供していたのだ。二重に有難い食事であり、対価はやはり鉄の剣だった。もはや砦なのか休憩所なのか、カールの砦は乗っ取られ、当初の計画から大幅に狂っていた。


・名称:エクトプラズム

 効果:一時的に魔力が向上

 説明:レイス系のモンスターから採取されることのある珍味。つるつるとした食感がたまらない。食べ方には冷やし、茹ででもどうぞ。額に張り付けると冷たくて気持ちが良い。


 もはや、戦場も戦場ではなく、狩りの場所であった。拾いあげたエクトプラズムはプルプルとしており、枕にすると気持ちが良さそうな感触である。だからと言う訳ではないのだが、何かがおかしいとカールは感じていた。

 順調すぎる。それは良い事なのだ。

 だがしかし、これで卒業試験なのかと問われると、あまりに難易度が低すぎる。調べ、聞いていた話では、もっと壮絶な試練のはずであった。

「ねぇ、マイトなんだか楽すぎると思ない?」

「そうか? いつも通りだろ?」

「そう、なのかな?」

 確かに、そうなのかもしれないと思いなおした。カールが砦を造り上げた。メイとティーが食材を持ち込んだ。逃げ場があるという安心感が、ヴァイスメイヤーの教室の生徒たちを強くしていた。

 真っ先に、木剣とクワでゾンビを倒して見せた、という事実もある。

 いの一番から、攻めっ気が激しい。敵の数が増え続ける戦場では、攻め続けなければ押し込まれる。敵の増援は、尽きるところをまだ見せない。

 その証拠として、他の教室の生徒たちは色々と限界を見せ始めていた。

 戦列を交代、交代、交代、交代、確かにそれで身体の疲れは癒せるだろう。

 だが、空腹は癒せないし、喉の渇きも癒せなければ、精神を休める時間も安全も無い。

 魔物退治という言葉から想像されるものは、魔物を倒すことだった。けれども、その実態は魔物を倒すことよりも生き残ることが重視される戦場だった。その食い違いが、他の教室の訓練生たちを徐々に追い詰めつつあるのであった。


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