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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第三章 帰郷への永い旅路 2

 日々は目まぐるしく過ぎて行った。お前らの余命はあと四日だと宣告されて、必死にならない人間は居ない。それも努力次第では助かるとなれば尚更のことである。

 未だに、剣の振り方や、弓の弦の張り方を悠長に教えている教室を横目に、ヴァイスメイヤーは昼寝をしていた。そのぶん、生徒たちが頑張る他なかった。なんて非情な男なんだと他の教室の生徒たちの目には映っていたことだろう。あるいは、その教官たちの目にも。

 ヴァイスメイヤーの他にも、ギルドマスターの甘言に嵌まった冒険者たちが居た。銀であったり、金であったり、白銅であったりしたものだが、そんな教官達が訓練生の命を落とさせまいと必死になって、ヴァイスメイヤーの生徒に教えを詰め込んでくれていた。

 おかげさまで、ヴァイスメイヤーは楽が出来るわけである。

 マイトなどは剣の振り方を教える教官のもとで、筋が良いぞと褒められる始末である。彼が自分の教室の生徒ではないと知った時の顔を考えると、ヴァイスメイヤーはニヤリとした意地の悪い笑みが止まらなかった。

 必死になるべきは教官ではない。生徒だ。

 なにしろ、実際に命を懸ける者たちなのだから。

 包帯の少年が持ち込んだ質問の名を借りた情報で、ギルドマスターが課すおおよその試験も把握が出来た。そして、自分自身も調べてみたところ、白銅の彼には九日、銀の彼には八日、金の自分達には七日の猶予が与えられていたらしい。つまり、試験は一括で一緒に行われる。

 そこから見えてくるものもあった。

 ノイスカステル周辺の地理状況と、それだけの人間を動かせる距離。ケチくさい冒険者ギルドの性質を掛け算していき、最終試験の内容がしっかりと見えてきたころ、釘を刺された。

「やぁ、ヴァイスメイヤーくん。随分と頑張っているみたいだね?」

「ゴードウェルさん、いえ、ギルドマスターですか。今は依頼主ですから」

「ゴードウェルで構わない。訓練生の子たちを驚かせちゃいけないからね。それで、今日キミの顔を見に来た理由なんだが……教えてはいけないよ? これは依頼であり、試験だ。他の教官たちもキミと同じように試験を受けている身だからね。キミたちは冒険者だ、だから、全ては自分たちで動き、調べ、悩まなければならない。……解るね?」

 ヴァイスメイヤーの胃の痛くなるようなことをゴードウェルはサラリと口にする。

 見捨てろ。他の教官と、その生徒たちを。決して手を貸してはいけない。それが依頼主の意向となれば、そうする他ない。依頼主と冒険者の立場とはそういうものだった。

「冒険者は、助け合ってこそじゃなかったんですか?」

 一冬を共に過ごした師弟の教えではそうだった。

 十年ほど前、ヴァイスメイヤーがゴードウェルから受けた指南ではそうだった。

「その通りだ。だからこそ、助けてはいけないんだ。もう昇格が決まったようなものだから言ってしまうけれど、ヴァイスメイヤー。キミがどれだけ魔物を退治しても金で止まっていたのには理由があったんだよ」

「それは、どんな理由でしょうか?」

「後に続くものを育てあげてこそのプラチナなんだ。冒険者なんてのは、死ねばそれまでの消耗品だ。だけど、その弟子、さらにその弟子はその遺志を受け継いでいく。冒険者の卵を孵せるようになって、ようやく一人前なんだよ。つまり、子供を育てられてこその親というわけだ」

「俺は、雌鳥か何かですか?」

「いやいや、雄鳥が卵を温める鳥だって世の中には居るんだよ?」

 自分の子供すら居ないというのに、他人の子供の卵を温めさせるとは酷い話だ。

 結局、釘を一つだけ刺して、ゴードウェルは去っていった。もしかすると、このまま他の教官たちにも似たような話を聞かせて回るのかもしれない。そういう人だったことをヴァイスメイヤーは思い出した。

 ギルドマスターにキミは合格だと言われてしまえば、そこで安心してしまう。

 新しい罠を仕掛けに来たのかもしれないと、ヴァイスメイヤーは話半分に聞いていた。

 ゴードウェルは、「そろそろ身を固めてみてはどうかな?」と勧めに来たのであったのだが、その迂遠すぎる表現は届かなかった。


「先生ぇ!! 教えてくれぇ! このスケルトンってのは何なんだぁ!」

「僕は先生じゃないよ!? 自分で読み書きできるようになりなよ!!」

「それは難しい話だ。たった四日で何ができるだよ?」

「そだそだ、冒険者は助け合ってこそだ!!」

「スケルトンっていうのは、骨だよ! 人間から骨を取った魔物だよ!!」

「したら、こっちのゾンビというのは何なんだ? スケルトンに肉を付けたものか?」

「ゾンビはゾンビだよ!! 肉と骨でゾンビ!! 骨だけならスケルトンだよ!!」

「ゾンビから肉を落とすと、スケルトンになるのけ?」

「知らないよ!! それは自分で試してみなよ!!」

 ヴァイスメイヤーに読み書きの一切を丸投げされたカールの右目が、死んだ魚の目に変わりつつあった。冒険者ギルド、受付嬢のおねーさんの忍耐力と精神力の強さを思い知らされるカールなのであった。


 その頃のリーベレッテと言えば、数少ない女性の訓練生たちを集めて、女神ルミナスを称えるお茶会を優雅に開いていた。

「それじゃあ今日も、女神ルミナスさまが美味しいお菓子をもたらしてくれたことに感謝していただきますかなっ!」

「ですです。無償の甘味に感謝です」

「そうね~、ルミナスさまが居なくちゃ、こんなに美味しいお菓子は食べられないものね~」

 『飢えたものには、これを与えよ』この聖句がリーベレッテの中では、『甘味に飢えたものには、菓子を与えよ』と理解されるものらしかった。これが彼女の布教スタイルらしい。

 これで実際に神官としてのレベルが上がるあたり、女神ルミナスのお心は計り知れない。


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