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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第二章 教官の試練場 9

 教壇に立った、教官歴二日目の新米教官ヴァイスメイヤーが、訓練生の顔に違和感を覚えていた。彼等のその顔は悲壮に満ちていた。で、ありながら、熱意に満ちていた。その温度差が生み出す不思議な表情を前にして、彼は二日目の講義を始める。

「昨日は、アイテムボックス、そしてクラスについて話した。その次となるのはパーティだ。最低で二人、最大は決まっていない冒険者たちで組まれる集団のことだ。いまは弱いお前たちでも数さえ揃えば巨大な暴力になる。だが、このパーティというものはとても繊細なものだ。例えば十人がかりで一匹の魔物を退治したとしよう。その際のギルムの分配はどうするのか? 誰だって一人一人の事情を抱え、より多くのギルムを欲しがるものだ。そんな際に便利なものがこのパーティになる。自動的に、平等に、パーティの仲間に分配してくれるんだ。だが、この平等が気に入らないという者も居る」

「先生? その我儘さんは、どげな人ですか?」

「俺だ。俺のことだ。俺の冒険者としての階級は金だ。青銅、真鍮、白銅、銀、金、プラチナ、ミスリル、オリハルコンと続くなかの五番目の位階で……どうした? なにか質問か?」

 もの静かに百本近い手が高々と挙がっていた。

 さすがにこの光景にも慣れたものである。少し怖がるくらいでヴァイスメイヤーは耐えた。

「先生、青銅ってなんですか?」

「先生、真鍮ってなんです?」

「先生、白銅ってなんなんだ? ……なんですか?」

「先生、プラチナってなにけ?」

「先生、ミスリルちゃ?」

「オ、オリハル棍?」

 青銅は銅に錫を混ぜた合金であり、色は銅よりも黄色がかった色である。

 真鍮は銅に亜鉛を混ぜた合金であり、色は金にも似て偽金とも呼ばれる。

 白銅は銅にニッケルを混ぜた合金であり、色は銀にも似て偽銀とも呼ばれる。

 さすがに銀と金は田舎者達も名前は知っていたらしい。金は女神ルミナスを象徴する鉱物であり、銀は女神ノワールを象徴する鉱物である。正確にはオリハルコンとミスリル銀なのだが、産出量の関係で金と銀が代替物として使われることが多い。

「気にするな。冒険者をやっていればそのうちに本物が見られる」

 とても簡単なヴァイスメイヤーの纏めであった。

 村人たちは、お偉い先生が気にするなと言えば気にしない。

「冒険者には八つの階級があり、その中で下から数えて五番目に偉いのが俺だ」

 ヴァイスメイヤーの一言に百人からの村人たちは、「ありがたや、ありがたや」と畏まる。

 その姿は笑いを誘うのだが、笑ってはいけない。そう思うほどに笑いたくなってしまうものであった。

「さて、この冒険者同士の階級がギルムの分配に諍いを起こすんだ。他にもクラスの差が諍いを起こすこともある。狩人が敵を見つけ、矢で魔物を一匹退治したとしよう。それでもギルムは自動的にパーティに分配される。彼は損をしたと思うだろうな。戦士は敵の前に立って痛い思いをしているのに、全く怪我をしていない狩人や神官と取り分が同じだ。彼も損をしたと思うだろうな。強い奴は多くを倒し、弱い奴は全然倒せなくても取り分は同じだ。彼等は損をしたと思うだろうな。人にはそれぞれの事情がある。冒険者にもある。少しでも多くのギルムが欲しい。だからギルムの分配がもとで喧嘩別れしちまうパーティが多いし、そんなパーティは心がバラバラだから魔物に殺されやすい」

「せ、先生? したら、パーティなんて要らないんでは?」

「そうだ。不公平な平等に我慢がならないなら、最初からパーティを組まない方が良い。だがしかし、いつだって数は暴力で数は安全だ。お前らだって十人がかりで襲われたらどうにもならないだろう? それは魔物だって同じだ。不公平で平等なギルムの分配に文句を言う奴は、パーティの中に入れてはいけないし、入ってもいけない。パーティを組めば安全になり、それは魅力的なことだが、一人の油断が、一人の手抜きが、一人の身勝手が、パーティを全滅に追い込む。要するに仲間にする奴は良く選べってことだ。クラスとレベルが全てじゃない、人格を含めての冒険者なんだ。ギルムが絡むと人は変わっちまうからなぁ……」

 その言葉にまたも教室中の田舎者たちは項垂れてしまった。

 本音を言えば、ギルムは少しでも多く欲しい。強い仲間も欲しい。

 そして、弱い仲間は要らない。なにより不真面目な仲間は要らない。

 余所見に夢中な狩人、仲間を守らない戦士、パーティのことを考えない自称仲間。

 どれもこれも必要ない。必要ないどころか敵よりも始末が悪いものだとヴァイスメイヤーは理解していた。追い出すのは可愛そうだと口にする者が必ず現われる。そして、心がバラバラのままに戦場へ出て、必ず死人が出る。敵よりも身近な脅威、それが味方だった。

「狩人だけでも駄目、戦士だけでも駄目、一人でも駄目、多すぎても駄目、気が合わなくても駄目だ。パーティってのは足りないものを補い合う仲間だ。命を預け合う仲間だ。つまり冒険者未満のお前たちにとって最初の冒険は、仲間を見つけるということになる。命を預ける、命を預かる、それだけの仲間を見つけられるか? さらには、自分に足りないものを補い合う関係でなくちゃいけない。パーティのメンバーを集めるってのは、そう簡単な話じゃないぞ?」

 田舎者たちが互いの顔を見詰める。

 それは自分の鏡であり、足りないものだらけの田舎者の姿であった。

「……そっか、じゃあ、身勝手なマイトとはお別れなんだね……」

「そうね、わたし達を待たせて、ギルドの受付の女の人を口説いてたんだもの」

「いやっ! あれはっ! 口説いてたわけじゃねぇぞ!? 男の話をしてただけだ!」

「つまり、マイトの身勝手でしょ?」

「世のため人の為だっ! 神官のリーベレッテさまなら解ってくれるはずだ! なっ?」

「そういえば、あの日、謝られて無かったかなっ! 神官であるわたしが告解を聞いてあげましょう。信徒マイト、あの日の罪をここに謝罪すると良いかなっ!?」

 決まった家を持たない冒険者にとって、ギルムこそが衣食住の全てだ。そうして手に入れた報酬の中からさらに寄進しなければならない神官は確かに茨の道である。そうやって神官としてのレベルを上げなければ仲間にとっての足手まといになるのだから、二重苦、三重苦の道である。

 いま、カール達が手にしているギルムは、村の仲間たちが、かつての友達がウサギを狩って溜めていたギルムを融通してくれたものである。マイトがそれを代表して預かってきてくれたものだ。村の大人たちはカールを見捨てていたが、村の子供たちは見捨てて居なかった。

 ヴァイスメイヤーの話したことの大半も、違う形で師匠たちから教わっていた。

 絶対に仲間を見捨てるな。仲間を見捨てて生きるくらいなら、一緒に死んだ方がマシだ。どうせいつかは死ぬんだ。納得して、満足して、死ね。そう三人の師匠は共に語っていた。師匠たちが負けるときには、きっとその敗北の中でさえ笑いながら死んでいくんだろう。

 マイトは強い。体の大きさのこともあるが、何よりも思い切りがある。考えずに剣を振るということが出来る。考えてから動くカールのそれよりも勢いがあり、早い。

 カールも強い。魔法のこともあるが、機転が利く。マイトが思い切りよく斬りかかってくるなら、カールは思い切りよく逃げて、陰湿な罠に敵を誘い込む。

 そんな二人に挟まれたリーベレッテは弱かった。「男の子たちって野蛮よね~」と、暢気にお花の冠を皆で作っている間に置き去りにされたのだ。もちろん、それが普通の子供の姿である。

 男は男らしく、女は女らしくという村の慣習も影響していた。

 だが、それでもリーベレッテは足掻いていた。こうしてマイトに罪の告解をさせ、カールに合言葉の感謝を捧げさせ……いったい、リーベレッテにとっての神官らしさとは何なのだろうかと首を傾げるカールであった。


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