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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第二章 教官の試練場 6

 カールが宿に戻ると、はた迷惑な一団が木剣を振り、道の往来を邪魔していた。

 なんでも、まず部屋の中の神官さまに邪魔だと廊下に追い出され、次に宿の主人に邪魔だと追い出され、一人木剣を宿の前で振っていると、なぜだか訓練生たちが横並びになり、いつの間にか見世物の列が出来ていたらしい。

 ときおり、「頑張れよ!!」の声と共にギルムが振り込まれる新しい商売の始まりだ。

 考えてみると、ギルムの受け取りの拒否は出来ないという事実に気が付いた。

「なぁ、カール。クラスを戦士にして以来なんだか剣を振りにくいんだが、お前なにか知ってるか?」

「……ねぇ、マイト、師匠の教えくらい覚えておこうよ。クラスで戦士を購入すれば剣でも槍でも棍棒でも正しい使い方が解るようになる。ただしその正しさは、どの状況の正しさかは解らない。ギルムで楽して手に入れた剣は、綺麗すぎて使えないって戦士の師匠が言ってたじゃない」

「すると何か? 俺は戦士になって……弱くなったってのかっ!?」

「見てる限りは、かなり弱くなってるよ。剣の振り自身は少しだけ早くなったけど、綺麗すぎて次にどう動くか丸わかりだもの。たぶん、師匠に怒られるよ? 師匠の教えはそんなに綺麗な剣じゃなくて、考える前に思いっきりぶん回し続けろ、だったでしょ? あとは剣の方が優しく教えてくれるって」

「……やべぇ。俺は戦士のクラスになって、強くなったと思ってた……。思いあがってたぜ……なのに、ギルムの無駄遣いってひでぇじゃねぇか!! 神様よぉ!!」

「マイトくん!! 大丈夫だよ!! キミならきっと乗り越えられるさ!!」

「マイトさん!! 貴方なら大丈夫だ!! 絶対に大丈夫だ!!」

「おう、みんな、見ててくれ!! これが俺の本当の剣だっ!!」

 なんだかよく解らないうちに観衆が出来て拍手が鳴り響いていたので、カールは逃げた。

 マイトの傍にはよく人が集まる。なんだか、村の戦士派閥を思い起こさせる風景だった。


 部屋に入ろうとすると木の扉の内側から鍵が閉められていた。

「リ、リーベレッテさま、扉をお開けください」

「信徒カールよ、合言葉の祈りを捧げなさい」

 それはどんな合言葉かと思いつつ、カールは祈った。

「神官リーベレッテさまはとても清らかなお人です。いつもいつもお世話になっており、感謝の念に堪えません。あぁ、女神ルミナスさま、彼女のような素晴らしきお人を地上に遣わしてくれたことに感謝いたします」

「心が籠っていないのでもう十回」

「無理だよ!! 心なんて籠められないよ!! そんなことを言われちゃ!!」

 神官さまには、部屋の鍵を開けて頂いたことにも感謝しなければならなかった。

 こうして、感謝と信仰を強要されるたび、女神さまのなかでリーベレッテの評価はガタ落ちだと思うのだが、当のリーベレッテは今の生活を悔い改める気はないらしい。そもそも、今以上に落としようがないからだと語るが、爪を刺さないことくらいは出来るはずだとカールは思う。


 †


「わたしねっ! 旅にでようと思うんだっ!」

「それは奇遇だね。僕も今日、旅に出るところだったんだ」

「わたしねっ! ノイスカステルで神官と冒険者になろうと思うんだっ!」

「それは奇遇だね。僕も今日から仕事探しを始めるところだったんだ」

「わたしねっ! カールが後ろから着いて来ても、良いかなと思うんだっ!」

「それは奇遇だね。どうせ、街までの道は一本だから、そうなると僕も思ってた」

「それじゃあ……行こう?」

「うん……」

「ほら、涙を拭いてシャキッとするっ! あぁっ! 袖口で拭いちゃ駄目っ! これだから男の子は! なにか洗える綺麗な布の一枚も持って来なかったの?」

 頭の中の旅支度は、随分と間の抜けたものであったことに、ようやくにして気が付いた。

 戦いと、戦いと、戦いと、戦いに必要なものばかり。自分は今から戦場にでも行くのではないかと思うほどの装備類で固められていた。なのに、その中には布切れの一枚すらなかった。

 自分は、一体何処に行くつもりだったのか……決まってる。

 村の付近に潜んで、いずれ来るかもしれない災厄を待ち侘びるつもりだった。

 けれども、その儚い糸もプツリと切れてしまった。

 例え村を救ったとしても……父を喪った母の心は救えない。カールの魔眼に始まる災いだと信じる母の心は、カールの方を向くことは無い。父が亡くなったあの日、カールは母も共に失ってしまっていた。

 リーベレッテが年少の子供の面倒を見るように、自分の拭き布でカールの顔面をグシグシとするものだから、余計にいっそう涙と鼻水が止まらなかった。

 それは、拭いているのか、顔面に塗り付けているのか解らないほどであった。


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