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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第二章 教官の試練場 5

『冒険者として一年後に生き残っているのは何割程度なんでしょうか?』

『申し訳ございませんが、それは冒険者ギルドの機密に当たりますのでお答えいたしかねます』

『冒険者訓練学校を受講して生き残れるのは何割程度なんでしょうか?』

『申し訳ございませんが、それは冒険者ギルドの機密に当たりますのでお答えいたしかねます』

『なるほど、機密にしなければならないほどの割合なんですね?』

 その口は答えなかったけれども、受付のおねーさんの顔色が教えてくれた。

 冒険者訓練学校に集まった行列を見て一番に考えたことが、安全性のことだった。

 訓練という響き、学校という響き、それらが安全を保証してくれているような気がしていたのだが、やはり、そうではなかったらしい。危険となるのは冒険者になってからだと考えていた。けれども、違った。

 それを教えてくれたのはギルムの動き。

 訓練学校をタダで受講させてくれるほど、冒険者ギルドはお優しいところではないらしい。とりあえず、命を懸けさせられる程度の受講料は支払わなければならないらしい。

 リーベレッテは部屋で、昨日、聖書の角で男たちの頭を叩いて回ったことを女神ルミナス様に謝罪していた。

 マイトは、そんな部屋で棒を片手に戦士の訓練。おそらくは物凄く鬱陶しがられているところだろう。

 カールは、冒険者ギルドに乗り込み、堂々と訓練学校の危険性について調べ回っていた。

 春は、志望者の人数も多く質も悪いということで、振るい落としの多い魔物退治。

 夏は、志望者も減り、質も高くなったということで、何かを探してくる採取系の軽い依頼。

 秋は、ほとんど志望者もおらず、少し長めの受講期間と、冒険者の護衛任務の同行になる。

 冬は、まったく志望者が居なくなるため、もはや教官と一対一の関係で指導を受けられる。

 そんな冒険者ギルドの機密事項がペラペラと、冒険者自身の口から語られた。

 未来の同業者にして同業他者にも、冒険者自身は優しい先輩たちであった。

 書面を幾ら読み返しても、冒険者が自身の訓練学校時代を語ることを禁じる文章はなかった。

 そんな簡単な質問くらい、礼儀正しく接してくる後輩に教えてやっても損はない。

 依頼書が張られた掲示板の前での一問一答。訓練学校の未来に後輩が怯えているのだ。これも一つの善行。そうやって相談受付の受付嬢の視線を無視しながら、カールは斥候を続けていた。

 どうやら、春先に訪れてしまった自分たちは、魔物退治を引き受けさせられる予定らしい。

「そちらの眼帯の少年、名は何と言うのかな?」

 その魔物退治を引き受けさせる冒険者ギルドの職員が声を掛けてきた。さすがにやり過ぎたかなと思いつつも、どうやら相手の瞳を見る限りではこの状況を楽しんでいるらしい。

 三人の師匠にも似た余裕を、その壮年の男は感じさせていた。

 体格から見てクラスは恐らく戦士系列。さらに、銀色に光る徽章を付けているが、銀ではなく白金、あるいはさらに上位のミスリル銀なのだろう。しかし、銀と白金とミスリル銀、目で見て違いが分からないというのは何らかの意味があるのだろうかとカールは考えた。

 そして、名を名乗る。

「モストルートです。ノイスカステルでは、まず他人に名乗らせるのが礼儀なのでしょうか?」

「おっと失礼。最近、名前を聞かれること自身が無かったのでね。冒険者ギルド、ノイスカステル支部ギルドマスターのゴードウェルだ。一応は、モストルートくんの上司ということになるのかな?」

「なりません。冒険者ギルドと冒険者の関係は直接雇用の関係にはあたりませんので。仕事の斡旋業者と委託契約を結ぶだけの自由な立場の人間です。その証拠は、冒険者ギルドから1ギルムたりとも給与が支払われていないことが示しています。ギルドマスターは、受付嬢の上司であっても、冒険者の上司ではないと僕は認識しています。もちろん、今後の取引を考えて良い関係ではありたいと願っています。冒険者の先輩と後輩の間柄としても、是非」

 とぼけた顔で、一歩、自分は試された感覚を覚えた。

 契約書の内容文書を正しく理解しているか、それをもう一度試された。

「なるほど……。これは、一筋縄ではいかないようだ。不審な訓練生が掲示板の前をうろついていると聞いて降りてきたのだが、モストルートくんは、いったい何をしていたのかな?」

「斥候です。訓練学校の最終試験に使われる舞台、魔物の種類、その傾向を過去の卒業生、偉大なる先輩たちから聞きとり調査を行っているところです。もっとも、ギルドマスター自身が教えてくださると、とても話が早くて助かるのですが? 訓練学校の先輩として」

「ふむ、確かに答えを知る私に聞くことが一番に手っ取り早い。教えてあげよう。答えはね、サイコロなんだよ。この近隣には五つほど魔物が大量発生する場所がある。その場所で決められた時間、魔物と戦い、そして生き残れれば良い。至極簡単な試験だ。サイコロの目が良い場合もあれば、悪い時もある。さて、キミはこの答えを聞いてどうする?」

「もちろん、相談受付のおねーさんに近隣の魔物の分布状況を尋ねます。その地で発生する魔物の種類や強さやその行動の傾向など諸々。出来る限り詳しく」

 ゴードウェルはカールの回答を予測していたのだろう。

 きっちりと、その回答に足りない部分を補足してくれた。

「残念だが、それは不可能だ。キミは未だに冒険者訓練生だ。その情報を教えて貰える立場にはない。魔物の長所や短所、強さや行動の傾向などの情報は冒険者の先人が積み重ねて来た貴重なものだからね? 未だ冒険者ではないキミにその情報に触れる権利はない。その情報に触れられるのは、試験を通った後になる。さて、キミはどうする?」

「もちろん、教室の訓練教官に聞いて貰うに決まってるじゃないですか。そうすれば、僕達を無駄に死なせないためにも教官は頑張って訓練内容を練ってくれることでしょう」

「なるほど、ただ田舎から出てきたばかりの少年ではないと言う訳か……。キミの教官の名前は何と言うのかな?」

「ホークウッドです。魔弾の射手や、眼球喰らいという酷い呼ばれもしたそうで、心に深い傷を負ったそうですよ? 仲間からも化け物扱いされて、可哀想に」

 狩人の師匠が、軍を去った本当の理由は後者なんじゃないだろうかとカールは思っていた。

 何せ繊細な彼。口下手な彼。生まれの血筋以前に、軍の将校や指揮官には向いていない。

 仲間からの称賛を超えた畏怖と、それをやっかむ血筋だけの御曹司。

 平民が貴族以上に持ち上げられることを喜ぶ、酔狂な尊き血の持ち主は少ないだろう。

 自ら旅に出たのか、追い出されたのか、殺される前に逃げたのか、それも随分と怪しくなってきたものだった。

「それは、随分と酷い名前が出てきたものだ。これではヴァイスメイヤーも苦労するだろう。存分に苦労させてあげるといい。彼も良い生徒に恵まれたと涙を流して感謝するはずだ。それはとっても良い経験になる。やりたいようにやると良い。期待しているよ、カールグスタフくん?」

 やはり眼帯は目立ちすぎだ。偽名の効果に期待はしていなかった。

 かといって、片目を瞑り星見の魔法使いだと冒険者ギルド内で勘違いされても困る。魔法使いとバレれば攫われてしまう。これはカールにとって悩ましい問題であった。


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