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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第一章 旅の三人 8

 モス爺の助言を受けて、走って街まで向かった若者がテイラーさまを連れて戻ってくると、神官のテイラーはカールの左眼を見て血相を変えた。まず、これがよくなかった。

 村人たちが信頼するテイラーさまが血相を変えるということは、それだけの一大事なのだと村中の人間が、思い込んでしまったのだ。

 テイラーが手にしてきた書物を忙しくめくりあげ、そして瞳の輝きの色と照らし合わせ、それから天を仰いで祈りを捧げた。

「カールくん、その左眼で私を見てみなさい」

「はい、テイラーさま」


・ステータス情報

 名前:テイルレイラード・カルフ・グライマー 年齢:39 性別:男性

 レベル:41 クラス:神官 状態:困惑 アライメント:光/秩序/善

 生命力:32/32 精神力:52/52

 筋力:15 体力:18 敏捷性:15 知覚力:16 魔力:20

 ギルム:1,215

 スキル>> 神聖魔法

 タレントスキル>> 裁かれぬ者


「それじゃあ質問するけれど、カールくんには私の名前の全てが解るかな?」

「はい、テイラーさま。テイルレイラード・カルフ・グライマー。本当はとっても長いお名前だったんですね?」

「……そうなんだ。長すぎて一度では覚えられないからね。ここ十年以上テイラーとしか名乗ったことが無かったんだ。それに私は罪を……いや、それはいい。それよりも、カールくんはどうして私の名前が見えたんだい?」

 この時点で、既に質問がおかしかった。

 どうして知っているのかではなく、どうして見えたのか。テイラーはカールの回答を待った。

 お願いだから、違う答えが聞きたいと、自らの信じる女神に祈っていた。

「はい、テイラーさま。左眼に映ったんです。テイラーさまのステータス情報が、これは、何かいけないことでしたでしょうか?」

「いけなくはない。いけなくはないんだ。……だけどね、カールくん。キミのその左眼は魔眼になってしまったんだよ……」

「魔眼?」

 初めての言葉にカールが首を傾げた。

 眼が光り、色々と見えるのは、ギルムを見ようとした魔法の失敗だとばかり思っていた。

「魔法使いが神の領域に足を踏み込んでしまうと、神罰が下される。その一つが魔眼。知りたがり過ぎた者への罰。この世で最も忌まわしき魔眼≪天座主の瞳プレイヤー≫と呼ばれるものなんだ。カールくん。キミはなにか身に覚えがあるかい?」

 ギルムについて、知ろうとした。

 その為だけの、魔法を生み出した。

 それが、神の領域を侵してしまうものだとは露知らず。

 緊張に額から汗を流す神官のテイラーを前にして、カールは、ゆっくりと頷いた。

「うん、わかったよ。でも、キミはまだ子供なんだ。きっと、ルミナス様もノワール様も許してくれるはずだ。僕と一緒に祈ろうか? ごめんなさい、許してくださいと、一生懸命に祈ろう。良いね?」

「はい、テイラーさま……」

 これは、テイラーさまの人の良さに付け込んでギルムを掠め取った罰かもしれないと、子供であったカールは本気で信じていた。

 神官テイラーの神聖魔法を含めた祈りは一昼夜に及び、そして、カールが手に入れてしまった魔眼はどうにもならなかった。

「光の女神ルミナスよ、この子は知らなかったのです、それが神の掟に背く行いであることを知らなかったのです。どうか、お慈悲を、お許しをお与えください。≪呪詛解呪ディスペル≫!!」

 本来はアンデッドと化した人々の肉体から魂を開放するための神聖魔法であったが、テイラーに思いあたる手段はこれのみである。

 人の遺体がアンデッドと化すのは一つの呪いだと言われている。

 呪い、神の罰もまた一つの呪いであり、カールの犯した罪を女神が許すことを祈り続けた。

 神聖魔法は、魔法であって魔法ではない。その本質は祈りだ。

 ただ、女神に祈りを捧げ、女神の恩寵をこいねがうための儀式であった。

 そして、一昼夜に及ぶ祈りの時が過ぎてもなお、紫紺の輝きは煌々と灯火を残していた。

 テイラーさまが、一昼夜に及ぶ祈りを捧げても、神に許されなかった子。それがカール。

 祈りを捧げた一昼夜の間に、この世で最も忌まわしいという部分ばかりが誇張されていた。

 大人たちは自分たちの身にも災いが降りかかるのではないかと心配し、子供たちは友人のことをただ心配して待っていた。

 テイラーが自分の無力を悟ると共に諦め、村人たちへせめてもの説明を行なう。

「皆さん、カールの身に起きたことは災厄ですが、恐れることはありません。カールがその眼を開かなければ、布や何かで覆ってしまえば魔眼が皆さんに影響を及ぼすことはありません。……そしてですが、このことをもってカールを傷つけてはなりません。もしもこれがカールの受けるべき女神の降した罰だというのならば、その眼に触れることは神罰を邪魔することになります。あるいは、その災厄がその者の身にこそ降りかかるかもしれません。貴方がたの手でカールを傷つけることはまかりなりません。解りましたね?」

 大きな嘘だった。だが、それは必要な嘘だった。

 小さな村の中、神に呪われた子の行く末など、テイラーには手に取るように解っていた。

 信心深い者たちは石を投げ、そうでない者たちは無関心を貫くだろう。あるいは、その眼を抉り取ろうとするかもしれない。だからこそ、カールの身を守るために神の罰であるというところを強調し、それを逆手にとって利用した。

 信心が深ければこそ、神の行われる罰の邪魔をすることは出来ない。

 こうしてカールは神童から、神に呪われし子と名称を改めることになった。

 友人たちはそれでもカールとの付き合いを止めようとしなかったが、親たちがそれを止めた。

 神罰が自分たちの子の方にまで向かってきたならば一大事である。誰だって我が子が可愛い。


 カールは村を、救ったはずだった。

 カールは村人のままに魔法使いとなり、ゴブリンたちを撃退したはずだった。

 その果てにあったものは、神の罰。やはりテイラーさまのギルムをくすねた一件が女神さまに許されない理由なのではないかと当時のカールは思い悩み、そして、孤独の中でのた打ち回るのであった。

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