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幻想遊戯のエンブリオ<注・ギブアップ>  作者: 髙田田
第一部 教官の試練場
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第一章 旅の三人 3

 神聖魔法、これは光の女神ルミナスか闇の女神ノワールに祈りを捧げる、簡単な魔法である。

 精霊魔法、これは神々の代わり、精霊と呼ばれる存在に、お願いを聞いてもらう魔法である。

 元素魔法、これは十二の要素を理解し、緻密に組み上げられた芸術作品のギルム魔法である。

「魔法師匠! ギルムを使わずに魔法を使う方法は無いのですか!?」

「あるよ? でも、お勧めはしないよ? アッサリと死んじゃうからね?」

「え? あるんですか? 死ぬんですか?」

 あると聞けば使いたい。

 でも、死ぬと聞けば使いたくない。

「魔法の式が解っている。なら、その式のイメージに従って、自力で魔法を造り上げて放てばいいんだ。星見派とは対になる伝統派の魔法使いは、そうやって魔法を使うんだけどね……これがまた危険な魔法なんだよね……」

「どう、危険、なのでしょうか?」

「例えば、魔法を造っている最中にレモンと聞いて、レモンを想像しないでいられるかい?」

「…………む、無理です」

「例えば、魔法を造っている最中に自爆や失敗って言葉を囁かれると、その魔法はどうなるんだろうね?」

「自爆や失敗のイメージが加わって……魔法が暴走して、きっと死にます」

「ただ火を着けるくらいなら良いだろうけど、強い魔法の構築に失敗すると自分が死んじゃうことは解るね? だから僕達、星見派の魔法研究はギルムが掛かるのさ。伝統派の魔法使いは魔法研究にギルムが掛からない代わりに、常に命懸けだ。カールは死ぬ為に魔法を覚えるんじゃない。生きる為に魔法を覚えるんだから、その順番を間違えちゃ駄目だよ? わかったね?」

「はい! わかりました! 魔法師匠!!」

 もちろん、全く解かって居なかった。

 神官さまからギルムを巻き上げる真の悪党の善人面に、魔法使いの彼も騙されたのである。

 火くらいは良いし、風くらいも良いし、秩序くらいもいいし、ファイアボールくらいもいいよね? 心の中の言い訳も完璧であった。

 やっちゃ駄目と言われてやらない子供は居ない。

 それは、子育ての経験のない男やもめの盲点であった。


 魔法の師匠も居れば、狩人の師匠も居た。

 魔法使いと狩人の関係はとても近しい。飛ばすものが魔法から矢に変わるだけである。

 狩人の主な役割とは、相手よりも先に発見することだった。先に見つければ、先に攻撃が可能である。飛ばすものが魔法であれば一撃で全滅だ。先に見つかってしまえば、こちらが一撃で全滅だ。

 冒険者の戦いとはそういうものであった。

 個人戦でも集団戦でも軍団戦でも、これは変わらない。

 攻撃優先権というものは、斥候の質によって大きく左右されるものであった。

 本職を相手に回した雪合戦。幸い、投げる魔法の雪玉には困らなかった。顔面や胴体に雪玉が当たれば負け、顔面や胴体に雪玉を当てれば勝ち。雪玉が同じ大きさの石に変わればそれだけで武器になる――それは、軍事教練であった。

 もしも、白い大猿サンジュアルジャンの目に石の一つも当てられたなら、もしも、白い大猿サンジュアルジャンの目に見つからなければ、もしものもしもが子供達の心を動かし、一人一人に強さを求めさせていた。


 狩人の師匠は昔々、軍人だったらしい。

 冒険譚の一つに出てきた先端の見えない灰白色の石壁の上から、魔物の目を一撃で射抜く魔弾の射手と呼ばれるほど優れた兵士だったらしい。

「……先が無かった」

「狩人師匠、何の先でしょうか?」

 狩人の師匠は寡黙で口下手で、常に言葉足らずの人だった。

 それでも村人に教えるなら剣の振り方よりも石の投げ方だと、戦士の師匠と大口論を交わしたのである。魔法の師匠に関しては、ギルムという物凄く高い壁が存在したため、熱心に話を聞いたのはカールくらいのものであった。

 一人だけ、少し、拗ねていた。

「……軍人としての先だ」

「狩人師匠! もう少しだけ詳しくお願いします! せめて五十文字くらいで回答を!」

 狩人の師匠はとても寡黙で口下手な人であった。

 ようやく聞き出せたことは、軍人としての先が無かったという話である。

 偉い兵士には成れても、偉い将校には成れないという冷たい現実である。

 生まれが貴族の身分ではなかった。髪に銀色を纏っていなかった。ただそれだけで、自分よりも若く、弱く、頭の回転も鈍い人々に使われることに嫌気が差して兵士を辞めた。

 冒険者にも限界はあるのだろうが、それは自分の力の限界であって、生まれの限界ではない。

 だから、「三人そろって逃げちゃった!」と暇を持て余していた魔法師匠が翻訳してくれた。

 村を出て、軍で出会い、冒険者となり、世界を駆け巡った三人の旅の通過点の一つがこの村であった。彼らの旅の行く末は、彼等自身も知らない。

 いつかどこかで力尽きるかもしれないし、いつかどこかで別れるかもしれない。それぞれに家庭を持って、こんなこともあったっけなと話し合う日が来るかもしれない。そんな長閑な日が来るのも悪くない。と、狩人の師匠が心のうちを語ったところで理解の出来ない子供たちは首を傾げ、「良いから雪合戦!!」とねだるのである。

 狩人師匠は寡黙で口下手で心が繊細で、その日の雪合戦では手酷い目に遭わされる子供たちなのであった。子供を相手に宙づりとなる本職の罠は無い。

「雪合戦だからといって雪以外が使われないと思ったか! 馬鹿どもが!!」

「キミは相変わらず大人げないね~」


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