7話 俺とギルド登録とパムルさん
「えっと、はい!どのような御用でしょうか。」
お、すぐに表情を取り直したぞ。
冒険者登録とは言え客みたいなものだからな。
「冒険者登録に来ました。ブーシェさんから話が通っていると聞きましたが。」
「あぁ、ブーシェさんの言っていたケンってあなたの事でしたか。」
ちゃんと伝えてくれているみたいで安心した。
見た目は強面だが仕事はちゃんとしているようだ。
さて、早速登録をさせてもらおうかな。
「あの、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「あぁ大丈夫です。死ぬわけじゃないんで。」
「そ、そうですか。おっと失礼しました。私の名前はパムルです。」
最初は色々書類を書かされると思ったが、流石は異世界。
紙に手を置くだけで冒険者登録は完了らしい。
何でも魔法で俺の情報を読み取り、過去に犯罪を犯したかとか奴隷かどうかを分かるらしい。
もしかして異世界から転移されてきたというものばれるのかと思ったがそこに関しては突っ込まれなかった。
「はい、ご苦労様でした。これでケンさんは冒険者ギルドに登録されました!早速ですが何か依頼を受けますか?」
お、話が早くて助かるわ。
パムルさんが冒険者なりたて向きの依頼らしい3枚の紙を取り出し、俺の目の前に並べる。
ふむ、荷物の配達に魔物の討伐に薬草採取……ん?
薬草採取?
「あの、この薬草採取って今渡してもいいんですか?」
「え?持っているんですか?あるのでしたら依頼は成功となりますよ。」
俺は森から連れ出されるときにこっそり採取していた薬草を取り出し、アウィさんの目の前に全部置いてみる。
1つずつ採取してはアイテムボックスにぶち込んできたからこんなに貯まっているとは思わなかったな。
これで足りるだろうか。
「あの、ケンさん。これ多過ぎですよ?依頼の薬草は10本でいいので……とりあえずその分だけいただきますので残りは持ち帰ってくださいね?あとこれ報酬です。」
持ち帰ってもいいのなら薬として飲めそうだから有難くいただこう。
……まぁ病気に効くとはあまり思えないんだけどな。
もらった報酬はアイテムボックスに入れると、他のアイテムとは別の所に収納されたみたいだ。
金は違うところに収納されるのか。
結局俺は魔物の討伐の依頼を選んだ。
魔物の名前はブラック・ディアーという鹿型魔物1匹とのこと。
その名の通り、真っ黒の姿をした鹿だそうで、その鹿肉は庶民に人気らしい。
ちなみに依頼人は料理人。少しでも新鮮な物ならなおよしとのこと。
魔物でありながら駆け出し向けというのは森の中で生息する魔物の中でも比較的弱い部類に入る魔物で最初の実戦に持って来いと聞かされた。
依頼を受けたのなら早速行動に移そう。
森というのは俺が転移された森だからどこに行けばいいのかは分かる。
というかそろそろ外にでなきゃ喀血しそうな気がする。胸の奥から込みあがる何かを感じる。
「じゃあ行ってきますね。」
俺がパムルさんに軽く挨拶をして外に向かおうとすると
「っとと、ケンさん待ってください!ブーシェさんからあなたにと渡されたものがあったんです!」
「え?ブーシェさんが?」
何かと思い、布に包まれたそれを受け取って慎重に開けてみると小さなナイフがあった。
「これは……ナイフですよね。」
「はい、ナイフです。ブーシェさんがケンさんは武器を持っていないようだったからこれを使ってくれと。」
そう言えば俺自身の武器って何も持っていなかったな。
ヨーヨーを除くと持っててアイテムボックスとその中にある薬草とティッシュくらいだ。
よくもまぁこれで冒険者なろうと思ったな俺!
だからこそこのブーシェさんのくれたナイフは本当に有難い。次会ったら礼を言っておこう。
パムルさんに礼を言い、今度こそ外に出た。
……まだ筋肉ハゲ達磨達は気絶していたな。俺が話している間に誰か介抱なりしてくれるだろうと思っていたが放置だった。
彼らは他の冒険者たちからも嫌われていたみたいだな。
あぁ、外に出たことで思いっきり血が吐き出せる。もちろん人目の付かないところで吐いていますよ?ゴフッ
さて、このナイフだけど一応鑑定してみるか。素材も分からんしな。
鑑定鑑定っとー
ノコギリキバザメのナイフ
ん、んー?あれ?これただのナイフじゃないの?
……ありがとう、ブーシェさん。次あったらお酒でもプレゼントしておこう。
俺はナイフをアイテムボックスに収納し、森へと向かった。
・
・
・
・
いねぇなぁーブラック・ディア―。
かれこれ1時間近く探しているんだが鹿っ子一匹見つからない。
ゴブリンとかはたまに遭遇しているが、ヨーヨーが瞬殺。
これで何体目かもう覚えていないゴブリンの死骸から持ち物を物色してみるが薬草以上にいいものは持っていなかった。残念。
試しにナイフの切れ味を死骸で試したところ、まるでゴブリンの肉が豆腐にナイフを差し込むがごとくスムーズにナイフの刃が通った。
すげぇ切れ味だな……
ナイフの切れ味に戦慄していると背中にピシピシと何かが当たる音が。
ヨーヨーが叩いたようで俺がヨーヨーの方を向いたところで体の一部を伸ばし何かを指し示す。
その方向には――あ、いた。
まさに真っ黒な鹿の姿をした、奴が。




