4話 俺とフィリーダとブーシェさん
「コイツ、一切嘘をついてねぇぞ。」
「はぁ!?何言ってんのよブーシェさん!」
俺達は今キィーラにある冒険者ギルドの一室に連れ込まれている。
1つの机で無精ひげ生やしたおっさんと対面し、いくらか質問を受けた。
そんで今に至る。もちろん俺は嘘をついていないし、このブーシェさんとやらは虚断官、嘘を見抜き裁く役職だそうだ。
俺の言葉はその虚断官様のお墨付きという事で全くの真実だという事になる。
「うるせぇなぁ……お前はもうちょっとギャンギャンするのを控えたらどうだ。部屋の外まで聞こえちまうぞ。」
「ギャンギャンって犬みたいに言わないで!」
「知るか。それよりお前……罪のない人間を自分の勝手な言い分で罪人認定したのはどういう了見だ?しかもこんな青い顔した坊主を。」
ブーシェさんの言葉に喚いていたフィリーダが吐きだしそうになった言葉を呑み込む。
ふむ、言われてみれば確かにフィリーダが仕出かしたことは冤罪で名誉毀損ともとれる。
この世界に名誉毀損の概念があるのかは分からんがブーシェさんの言い方じゃあそれなりに罪には問われるみたいだ。
「え、えぇーっとその……」
フィリーダはというと先程の勢いはどこに行ったのか目に見えて動揺し額に冷や汗をかいている。
うーむ、罪人に思われたとは言え街まで連行してくれたからなぁ……別に俺怒っているわけでも無いからしょうがない、助け舟出してあげるか。
「あ、別にそういうのいいですよ。罪が晴れただけで俺は言及する気はありません。」
「あン?いいのか?」
「えぇ、全くもって構いません。あーでもそうですね……せめてこの街の宿の3日分くらいの宿泊代を払うってので手打ちにしません?俺、金持ってないんですよ。」
ゴブリンを駆逐しても金らしき物は一切出てこなかったという事はこの世界での金の稼ぎ方はここのようなギルドでの依頼をこなすことや物を売るくらいか。
あっ、ゴブリンの装備とか剥ぎ取っとけばよかったな。
「ふぅん、なるほどな。お前さんがそれでいいんなら俺は何も言わねぇよ。オイ、フィリーダ。お前はどうなんだ?選択肢はひとつしかなさそうだが。」
「も、もちろんそうしたいのはやまやまだけど……私2日位のお金しか払えないわよぉ今回の依頼もおじゃんになったし。」
「しょうがねぇなお前は……」
この様子から見るに結構フィリーダは面倒事を持ち込んでいるみたいだな。
しかし金がないというのであればもらえばいいじゃん。
丁度良くいいものがあるんだしな
「フィリーダの今回の依頼ってゴブリンの殲滅だったのか?」
「えっ?殲滅じゃないわよ。数匹狩ってくるって依頼だったけど……」
「じゃあいいじゃん。俺が倒した分で依頼こなしたってことにすれば。ブーシェさん、そういう行為ってありなんですか?」
「出来るぞ。だがいいのか?お前の手柄をこいつにやって。」
「俺自身は依頼受けてないですからね。それにどうせ達成金は俺の宿泊代に消えるんですから問題ありませんよ。」
ブーシェさんはチラッとフィリーダを見る。
そのフィリーダはというと涙目でウンウン頷いている。
よしよし、これで俺は3日だけだが生き抜くことが出来るぞ。
いやぁ、安心したら口から血が出てきちゃったよーヨーヨー飲んでいいよ。
そんな奇妙な目で見ないでくださいよ2人とも。仲間のスライムとのコミュニケーションじゃないですか。
「さっきも聞いたがお前、喀血症か。何で生きてるんだ?そいつぁ発症したが治るまでの間、血を供給し続けなければ死に至る奇病だぞ?」
「あぁ、俺どうにも病気じゃ死なないみたいなんですよね。そういうスキル持ってるんで。」
「見た目と反して化物ね、アンタ……」
化物とは失礼な。れっきとした人間だし、俺を化物というのであればヨーヨーはそれ以上のスライムだぞ。
まぁスキルが異常ってのは認めるけどさ。
「フィリーダ!お前は呑気にしてないでさっさと依頼完了を報告して来い!」
「は、はぃ!」
本当に、何で普通に会話に参加してんだアイツ。
ブーシェさんのお叱りを受けてようやく焦ってこの部屋を飛び出してったよ。
さて、次はフィリーダに宿屋に案内してもらうことになるな。楽しみだ。
「おぉ、そうだ。お前見たところ職無しだよな?もし冒険者になりたかったらいつでも来な。俺が窓口に言っておくからスムーズに登録できるぜ。」
「それはそれは、助かります。」
「体が辛かったら薬草摘みの依頼や子供に勉強を教えるってのもあるからな。まぁ考えといてくれや。」
フィリーダの金で宿屋に泊まったとしても3日だけだ。それからの事を考えるとやっぱり働いた方がいいし、病気持ちじゃどこも雇ってくれないだろう。
それを踏まえたら冒険者ってやっぱり都合がいいな。前向きに検討しておこう。
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「着いたわよ、ここがアンタの泊まる宿屋よ。」
ほう、中々にいい雰囲気そうな宿屋じゃないか。
ちょっとボロ宿を覚悟していたがこれは期待できそうだな。
「そろそろケンって呼んでくれないか?」
「う゛っ……分かったわよ。さっさと入るわよ。」
フィリーダが先行して扉を開けると
「いらっしゃい!おんや、フィリちゃんじゃないのさ!依頼は終わったのかい!?」
おぉう、元気のよさそうな女将さんだ。実際声もでかい。ギャーギャー騒いでいた時のフィリーダよりもでかい声だ。
だが不思議と不快に感じさせないのは女将さんの人柄ゆえか?
「そ、そうね!無事に終わったわ。」
「そうかいそうかい!おや、後ろの男の子は誰だい?……あぁ、なるほどね?」
おばちゃんや、その察したような顔はなんじゃい。口に手を当てておほほと笑うんじゃない。
「もう、おばちゃんが思ってるようなんじゃないわよ!彼はケン、依頼で世話になったから宿代を奢ってあげるの!」
「奢ってあげる?」
随分な言い様だな、どっちかというと俺が奢られていると言った方がいいんじゃないかなぁ?
ねぇ?フィリーダさんよ?
女将さんに良い格好見せたいのは分かるんだけどね、君、立場というものが分かっているのか?
なんてまぁ意地悪なこと言ってやろうと思ったけど……
「えぇ、そうなんですよ。と言っても荷物持ちくらいなんですけどね。でもお金が無く病を患ってる俺をフィリーダさんはここまでしてくれて……」
「そうかいそうかい!ケンだっけ?フィリちゃんに感謝しないとねぇ?」
いやいや、本当にね?