1話 俺とスライムと喀血症
まさか、異世界に飛ばされてすぐ倒れることになろうとは思わなかった。
喀血症って何だよ、そんな病名聞いたこともないぞ?
しかし幸か不幸か、俺は病気で死ぬことは無いみたいだし苦しいだけだよ。
まぁあのスライムに殺されたというのであれば……死ぬな。
……ん?何か額あたりが涼しい……何か乗ってるのか?
というかまさか俺、生きているのか。
目を開くと、あれ、視界が水色なんですけど
何かと思えばこいつさっき俺と対峙したスライムか?
俺の頭の上に乗って何をしているんだ?あぁ、あれか。勝鬨挙げているとかそんなところか?
でもコイツ凄い冷やっこくて氷嚢のように気持ちいい。
「何してんのさお前……?」
俺の声に気付き、スライムが俺の額の上でポヨンポヨンと跳ねる。
まるで俺が目を覚ましたのを喜んでいるみたいだ。その証拠に跳ねているとはいえ全然痛くない。
しかし俺が体を起こそうとすると大きく額の上で跳ね、起こしてくれない。まだ寝てろとでも言っているように。
確かにまだ頭痛が響くし血を出したからか頭が重い。
それじゃあという事でご厚意に甘えさせてもらおう、スライム相手にちょっと変かもしれないが。
改めてステータスを確認してみようか。
ケン・フジマ
Level 1
状態異常:
風邪(熱・喉の痛み・鼻水・関節痛)
喀血症(頻繁に喀血する・失血による貧血)
体力 5
魔力 40
筋力 10
スキル
病弱 症状図鑑 接触感染 症状学習 不死(病気に対してのみ) 鑑定(名前のみ)
やっぱり聞き間違いではなかったみたいだな。
何かしらの病気に発症した時、頭の中にアナウンスのようなものが流れるのか。
病名を知れるというのは有効だな、名前だけでどんな病気かもすぐわかるからな。
まぁステータス見れば症状分かるんだけど。
あ、ヤバイ。何となくまた血出そうってのが分かる。
「カハッ!」
案の定、喀血してしまうが、その血が服に付いたり地面に落ちることは無く
スライムが体を伸ばして血を吸収してしまった。
え、何やってんのコイツ。スライムって人の血飲むの!?
スライムの中に入った血は徐々に色を失い、完全にスライムの一部と化した。味覚があるのかは知らないが、スライムは俺の血が美味しかったのかズムズムと跳ねる。
……もしかして俺、体の良い餌扱いされてる?
スライムに餌認定されたかもしれないことを危惧していると目の前に文字がいきなり浮かび上がった。
ステータス表示していないのに、何事かと思ったらこんなことが書かれていた。
『スライムが仲間になりたいそうです 仲間にしますか?YES/NO』
え?仲間になりたそうにこちらを見ているって奴か?いや違うでしょ。餌場にしたいようにこちらを見ているがきっと正しい表現だ。
ただまぁ、今の俺には少しでも道連れが欲しいところだ。それにこいつ、氷嚢代わりに丁度いいからな。
――それに断ったらこの場で体ごと餌にされそうだし……
YESと頭の中で念じるとステータスが目の前に現れた。
これは俺のものではないな……スライムのものだろう
種族名:スライム(亜種) 名前:「」
Level 10
体力 120
魔力 50
筋力 70
スキル
スライム 吸血 水魔法 氷魔法
スライム先輩強っ!!
そりゃ勝てないわ、こんだけ戦力差があったら手も足も出なかったな。
……あれ、スライム先輩もしかしてあの時手加減していたのか?じゃないとこの筋力で体力5の俺に突っ込んだら比喩じゃなくて俺の体ははじけ飛んでいたかもしれない。
えっとあとは名前の所が空欄なのは……
『スライムに名前を付けてください。』
ですよね、分かりました。
ふっふっふ、ここは俺の素敵ネーミングセンスが輝く時が来たようだな。
俺に任せろスライム先輩、俺が他スライムに自慢できるような名前を付けてやるからな。
んーそうだなーおっ良いの思いついた。
「スラ太郎ってのはどうdボゴゴッゴゴゴゴ」
ちょやめっ先輩、パイセン、すんませんマジごめんなさい。口と鼻塞がないで溺れますからセンパイ。やめ、ちょっ、あっ川が、川が見えっ
し、死にかけた……まさか仲間になってすぐに殺されかけるとは思わなかった。
先輩、反省したんで触手生やしてペチペチほっぺ叩かないでください。今度はちゃんと考えるんで。
そう言えば先輩はスライムの亜種なんだよな。亜種……スライムの亜種……水風船の亜種……水ヨーヨー……おっここだ!
「よし!お前の名前はヨーヨーだ!」
先輩の俺の頬を叩く触手の動きが止まったかと思うと小刻みに振動を始めた。
何これ、名前を吟味しているのか?
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
ピタァッ!っといきなり動きを止め……
『スライムの名前がヨーヨーに決定しました。』
良かった……先輩、じゃなかった。ヨーヨーは名前を受け入れてくれたようだ。
いつまでもスライム呼びじゃ失礼だもんな。
かといって先輩呼ばわりも違う気がするし。
さて、少しは楽になったな。
ヨーヨーも大事なしと判断したのか、俺が起き上がるのを止めずに額の上から頭の上に移動した。
あ、これでも涼しいな。ありがたい。
「カハッ!」
また喀血した――けどまたヨーヨーが俊敏に血を吸収してった。
……最近のスライムは人の生き血をすするのか……怖いな。
こうして俺とヨーヨーの冒険は始まった。
まず最初に目指すべきなのは、やっぱり町か村だよな!どこでもいいから休めるところに行きたいな!
俺は重い足を動かしながら一歩ずつ確実に森を進み始めた。
途中足を引っかけ、転びそうになったらヨーヨーに支えられながら……