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オープニング

「――はい、先生。すんません、また熱出しちゃいまして……ン゛ンッ……ハイ。ご迷惑をおかけして……ハイ。これから薬を飲んで寝ますんで。」


朝、俺こと藤間健は週に何回目となる担任の教師に欠席の連絡を取った。

当初こそこの教師は心配はしていてくれたが何回も何回も休むため、対応がだんだんおざなりになっていった。

だが諦めてほしい。

これはサボりではなくて本当に病気なんだよなぁ……今日のはただの風邪で、熱は37度8分。

あぁ頭が痛いわ、寒いわ、関節が痛いわでもうやんなっちゃう。

頼りの両親もさっさと仕事にいってしまっている。

まぁコンロの上に作り置きされている御粥と薬が置いてあるだけまだ有難い方か。


俺は昔からこんな感じだ。

小さいころから色んな病気を体験しており、病院では常連扱いされている。

お、また来たのかと言われる始末。


さて、さっさと御粥食べて薬飲んで寝ましょうかね。そんで起きたら少しでも勉強しないとな。

授業に遅れちゃいかん。

コンロに火をつけ、お粥を温め直す。


コトン


ん?ドアのポストに何かが入った音。何だ何だ、水道代の請求か?

一旦コンロの火を消し、ポストの中身を確認すると――ふむ、予想と外れたな。

一枚の封書だった。しかも宛名が俺、でも送って来た相手の名前は一切かかれていない。


不幸の手紙の類かと不審には思ったがそれ以上に好奇心が勝ってしまった。

早速ハサミを取り出し封を開けてみる。

その瞬間、封筒の中から眩いほどの強烈な光が放たれ俺の視界を支配する。

反射的に目を閉じるが、それでも光が俺の目に突き刺さる。


「くっそ、誰だよこんなくだらない悪戯しやがったのは!病気が悪化したらどうするんだ!」


悪戯に対する怒りから大声が出てしまう。あぁ病気以前に喉が悪化する。

ん?何か変だな。俺戸締りしてるはずだよな……何で涼しい風を感じるんだ?

あれ?俺家の中にいるはずなのに足元に土の感覚あるんですけど。


ハハッ、なるほど。病気がついにここまで来たか。

あれだな、いつの間にかショックで倒れて、今夢を見ているんだ。そうだろう?

いやぁ感覚まで支配する夢なんて珍しいなぁ。

どれ、目を開けてみましょうかね。


……何だここは……森?

凄い草木生い茂っているなぁ……これは誰にも手入れされていない森だな。

うぅっ寒気がする……頭痛もする。

酷い夢だな。せめて夢の中なら健康体でいさせてほしいよ。しかもご丁寧に服も寝間着のまんまだしさ。裸足だよ?森の中裸足って自殺行為じゃん。


ふと足元を見ると一枚の紙が落ちていた。便箋のようだがもしかしてさっきの封書に入っていたものだろうか。

何が書いてあるか気になったため、手に取ってみたが……んん?


『この手紙を読んでいるという事はあなたは異世界に行っていることでしょう。』


これまた凄い導入の仕方だな。


『さて、あなたは今の状況を夢か幻覚かと思われているでしょうが、ところがどっこい夢じゃありません。これが現実……!試しにほっぺあり得ないくらい抓ってみてください。』


何を言って、いや何を書いているんだこの手紙を書いた奴は。

だが実際に頬を力一杯抓ってみると本当に痛かった。時間置いてもまだひりひりしている。

……え、マジで夢じゃないの?


『その通り、貴方は剣と魔法と魔物入り混じる異世界に転移する権利を得ましたので早速、飛ばさせていただきました。』


許可は?


『取りません。権利というより強制ですね、本当にありがとうございます。』


さっきからこの手紙俺の頭の中をのぞいているかのような文面が綴られているな。

ちょくちょく入れられているネタが俺を苛立たせてくる。


『しかし私も鬼じゃありません、神です。とりあえずあなたの今着ている寝間着。この世界で生きていけるような装備にさせてもらいました。あ、あとそこらへんに靴――というかつっかけですね。それ履いてくださいね。』


待て、寝間着を装備にしたって何だよ。それすっごい間抜けな絵面じゃないか!そこはもうちょっと冒険者風な服にするとかしろよ!

しかもつっかけって!あ、本当にある。じゃなくて……サンダルとは言わずつっかけって呼ぶんだな。


『服選ぶの面倒だったんですよねー。あ、武器はありませんから。そこまで神様優しくないですから。』

おう、神様そこ優しくして置こうぜ。

俺病人なんだからさ、異世界に放り込むんならせめて武器位使わせてくれよ。魔物出るんだろ!?


『あ、ステータスって念じたら貴方の今の状態知ることが出来ますよ。結構面白いことが書いてあるかも?』


反応したような文面どこへ行った?

俺、神何某におちょくられているような気がするんだが……頼れる存在が今この手紙しかないのは確かだ。

書かれた通りステータスと念じてみると目の前に文字が現れた


ケン・フジマ

Level 1

状態異常:風邪(熱・喉の痛み・鼻水・関節痛)

体力 5

魔力 40

筋力 10


スキル

病弱 症状図鑑 接触感染(タッチ・インフェクト) 症状学習 不死(病気に対してのみ) 鑑定(名前のみ)


うわ、何これ酷い。

ステータスの低さもさることながら状態異常が風邪って。実際風邪だけどさ!

スキルも何だこれ?病弱ってこれスキルと言ってもいいのか?不死って、病気に対してのみってそこは治してくれるとかしてくれないのか?苦しめと?他のスキルとやらもよく分からないしさ!

自分に突っ込みを入れ終わると再び手紙に視線を戻す。


『読みました?いやぁ、凄い奇異なスキルですね。私初めて見ましたよ。最初は風邪、いや病弱くらい失くしてあげようかと思ったんですけど甘やかし過ぎもいけないかなって。』


さっきからこの神何某、飴と鞭のバランスがおかしい。

少なくともこの森を脱出するために冒険しなくちゃいけないのに病気持ちって絶対途中で生き倒れるだろ!あ、でも病気だから死なないな。


『じゃあそろそろ冒険始めましょうかね。』


ちょいと神様、いきなり過ぎませんかね?


『安心してください。最後に少しだけ神様の慈悲というものをご覧に入れましょう!では、再び足元をご覧ください。』

と、書かれてあるので足元を見ると……さっきまで無かったはずのポシェットが落ちているじゃないか。

拾い上げて手を突っ込んでみると、うわ、見た目以上に中深いぞ?


『俗に言うアイテムボックスって奴です。これでいろんなものを入れまくってくださいね。あ、でも生き物は入りませんので悪しからず。』


ふむ、これは便利なものをくれたな。

まぁこれくらい頂戴しないと生きていける気もしないのだが。というか俺貧弱だからな!これですら役に立たない可能性だってある。

まぁ便利には違いないのでもらっておく。


『おっと?もしかしてアイテムボックスだけが私の親切だと思いました?』

なぬ!?

『ふっふっふ、中を探ってみてください。2つあるものが入っているはずです……』


勢いよくアイテムボックスに手を突っ込み探ってみると本当に2つものが入ってるじゃないか。

何だよ何だよ!神様ったら本当は武器とか用意してくれてるんじゃないか!

わくわくしながら中の2つのものを取り出しその正体を確認すると――



無限ティッシュボックス

無限ポケットティッシュ


『これで鼻水も鼻血もいつ出ても問題ありませんね!』


「ざっけん゛な゛くそ神゛ーーーーーーーーー!!!」

俺の憎しみが籠った叫びが森に響き渡った。そして無駄にまた喉を酷使してしまった。

加え大声を出したために頭がくらくらときてしまうが何とか取り直し手紙に目を向けると


『P.S もうお話しすることないのでこの手紙消滅します☆』

「は?」


バシュンッ!という音とともに本当に手紙が消滅してしまった。まるで最初から無かったかのように。

頼れるものを失い、呆然とする俺。

いや、本当に俺どうすればいいんだ……ただでさえ俺御粥食べてないんだぞ?それなりに腹は減っている。


途方に暮れてしゃがんでいると何やら奥の方からガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてくる。

え、まさか魔物!?ちょっと待て、魔物に襲われなんかしたら俺死んじゃうじゃん!


慌てていても相手は待ってくれない。

段々と音が近くなり草影からそのある者は姿を現した――!!


ポヨン


「え?」


それは何とも間抜けな音が似合う瑞々しさを感じさせる水色の目も鼻も口も無い体。

それはかの有名なスライムであった。

鑑定で確認しようにも間違いない。

ただのスライムでした。

ベスとかホイミとかついていない、ごく一般的なスライムのようだ。


そのスライムはというとポヨンポヨンと身体を弾ませて俺に迫っている。

もしかしてその行動、威嚇のつもりなのか?怖くなく、むしろ可愛いともいえる。

あらやだ、この子可愛いじゃないの。あれだ、ぐるぐるパンチをしてくる幼稚園児を連想させるな。


「ほーらこっちにおいでー」

思わず犬を受け止めるかのように手を広げスライムを待ち構える。

それを好機と思ったか、スライムは俺目掛け飛び込んでくる。

ふふ、そんな体絶対痛くもかゆくも――ごっふ!!


割といてぇ。


だ、だが倒れるほどじゃないぞ……ふふ、この俺、ただでは倒れぬ!あ、ごめんちょっとフラフラしてます。

スライムはもう一度飛び込まんと再び俺から距離を取りポヨンポヨンと跳ね始める。


よし、今度は避ける。華麗に避けてやる!

俺はそう意気込み、スライムと対峙する。

その時だ。


「ゴホッ」


咳が出て咄嗟に両手が口元を抑えた。

周りに人がいないからしなくてもいいと思ったが反射的に手が出てしまった。

手を口から話すと、何か違和感を感じる。


俺の手……赤くないか?

あれ?俺の口の中、何か鉄っぽい味がするぞ?

あれ?何か目の前がぶれて見えて来たぞ?

あれ?さっきよりも寒気がきつくなってきたような――

あ、意識が――


薄れる意識の中で俺の頭に無機質な声が流れて来た


『――喀血症を取得しました。』

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