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病棟の朝は早い。六時過ぎには看護師が回って来て検温し血圧を計って簡単な問診をして行く。
なのに、朝食後はまた回って来て色々チェックしていく。
一回で済ませてくれたら良いのに………
看護師さんは優しいし親切なんだけど、ちょっとうっとおしい。特に朝食後は紀井先生が顔を出す確率が高いからかついつい長居する看護師がいて、親切の押し売りとかどうでもいい会話が続いて面倒臭い時がある。
コンコンー
ノックの音がして、目を輝かせ返事をした看護師がドアの向こうに同じ紀井先生でも里英先生の姿を見て明らかにがっかりしたまま退室した。
それを横目に見ながら里英がベッド脇までやって来た。
「おはよう、心優ちゃん。調子はどう?」
「おはようございます。まあまあです」
「ねえ、もしかして篤目当ての態度露骨な看護師っているのかしら?」
「紀井先生は人気ありますから……」
里英の眉間にシワが寄った。
「不快な思いしてない?嫌な時は言って良いのよ。我慢しなくて良いからね。だいたい仕事中に思いっきり私情挟むなんてとんでもないんだから」
「大丈夫です。皆さんとっても親切ですから」
と、そこへ篤がやって来た。今朝は柾も一緒だ。
しばし篤と心優のやり取りを見守って三人揃って退室しそのままカンファレンスルームに連れ込むと開口一番、
「諸悪の根源、諸々自分で刈り取りなさいよ」
ぼそっと呟く姉の言葉にぎょっとした篤だが、先に柾が察したらしい。
「なになに?篤目当ての女が何かやらかしたの?」
「まだそこまでは。でも、毎日同じような時間帯に来てれば下心いっぱいの浅はかなのがどうするか、誰が迷惑被るかは察しなさい。それに下手打って逆恨みするのも困るから。
あなたに直接アタックしてるのは全然気にしないし笑ってられるけど、巻き込まれるのは可哀想過ぎでしょう?」
「あちゃー……ホント、女って面倒臭いね」
思わずこぼれた柾の言葉に里英が反応した。
「そこ、性別で一括りにしないでもらえるかしら?」
「はい、申し訳ありません」
確かに里英はそんな浅はかなバレバレな行動を取るタイプではない。そこらの男より男前な性格だしフラグを立てるより立ったフラグを蹴倒して進んで行くタイプかもしれない。
それなのに、自分のことは鈍いくせして他人のことには目敏い。
今回も複数の名前を上げていく。
「そんなに……?」
さすがに篤も驚いたらしい。そんなに沢山の看護師達が心優の回りで動いていればさぞうっとおしいことだろう。
姉である里英にも何らかのアプローチをしていそうだが、里英は自分でどうとでもする。しかし心優は担当患者というだけで全く関係ない。しかも身動きできないんだから逃げようがない。
「まったく、仕事しろよ〜」
「同感ね。浮き足立って些細なことでもミスされたら大事なのよ。とにかく、早急にどうにかしてちょうだい。師長もそれなりに把握しているみたいだけど、こちらもそれとなく伝えておくから。とにかく早急にどうにかしなさい!」
そう言い捨て、とっとと出て行く。
残された二人は頷き合い小児科を後にした。
「合コンでも設定するか〜」
篤の提案に柾が笑う。
「ずいぶん直接的だね。新しい男に目を向けさせるの?」
「手っ取り早いだろ」
「悪どいねえ〜なんか、誰かさんに似てきてない?」
「そう思うんだったら協力しろ。イケメンの高収入を集めろ」
「実家のドクターが沢山いるじゃん」
「明らかにわざとらしいだろ。だいたい勤務医の給料なんてしれてる。平の公務員なんだから。医者=金持ちって時代じゃないし、僕達以上の高収入なんてそれなりにいるはずだ」
「今はね。彼女達が見てるのは将来の院長夫人」
「馬鹿馬鹿しい。そんな見え見えの馬鹿を選ぶわけないだろ。人の苦労した稼ぎを湯水のごとく使われてたまるか!だいたいかなり堅実な生活だったぞ。」
「………」
篤がどんどん壊れていくことに可笑しさを感じる。
相当きてるよな〜
まあ心優ちゃんを巻き込んでるのが余程堪えてるんだろうけど。
可笑しくて可笑しくて嬉しかった。