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火曜午後は教授回診がある。
テレビドラマだと白衣を着た偉そうな集団が行進するあれだが、実際には隣り合った部屋に順番に入って行くんだから、あんなに長い廊下をずらずら歩くことはない。
各部屋の前で主治医が患者の状態を説明し、教授が診察して続いて研修医が緊張した面持ちで聴診器を当てるだけだ。一人一人はあっという間に終わってしまう。
さて、心優のところへも当然ながら回って来た。
研修医は順番に当たるのだが、順番でいくと心優にご執心の寺田が当たることになる。篤の前で見るからに嬉しそうににやけているところがムカついた。
そんな顔で下心丸出しじゃないか。心優が恥ずかしがるから女の子に代わるよう声かけしようかと本気で考えていれば、教授も気付いたのか
「年頃のお嬢さんだからね。若い男性は恥ずかしいでしょう。女の子に代わろうか?えっと……あ、君、有村さん、貴方がやって。傷口に気を付けて」
「は、はい…」
慌てて有村が前に進み出て「よろしくお願いいたします」と聴診器をかける。
寺田は明らかに落胆し、チッと舌打ちした。
これを当然篤以外も見逃すはずはない。柾はもちろん病棟長他数人の医師が目をやった。
これは回診後説教行きだな……しばらく監視しようかと本気で篤が考えていると柾が肩に手をやりニヤリと嗤う。
案の定、寺田は病棟長と担当医に呼ばれカンファレンスルームへ連れて行かれた。心優に執心していたから尚更だ。
医師も人間、多少の好き嫌いは仕方ないが診察に個人的な感情は持ち込まない。まして執着などもってのほか。心優の主治医としても気になる。しばらくはやはり気を付けようと思い直す。
これは、主治医として、だ。
その翌日事件は起きた。
寺田が当直だったので篤は深夜まで残ることにした。柾も考えることは同じなのか、それとも篤をからかうためか一緒になって残っている。
消灯も過ぎ、静かになった22時、篤と柾は席を立ち帰るふりをしながら空室になっていた心優の隣の部屋に隠れた。このまま何事もなく過ぎれば良い。本当にそう思っていた。ただの杞憂なら…と…
だが残念なことに深夜0時を回ったところで寺田が動いた。
足音を忍ばせ………この時点でクロだな。静かに歩くように努めるが忍ばせる必要はない。
そろそろと心優の部屋の扉を開けて侵入した。
様子を伺っていた二人は目配せして立ち上がると静かに病室から出て廊下から窓越しに覗く。
ゆっくりベッドに近付いた寺田は手を伸ばし心優の髪に触れる。しばらく髪の毛をいじっていたが、そろそろと頬に手のひらが触れゆっくり顔を近付けた。あと十数センチというところで、気配に気付いた心優が目を開け小さな悲鳴を上げた。
ダンッ!!!
「何をしてる!!!」
篤と柾が踏み込んだ途端、寺田は後退りしたが、二人して両側から捕まえ締め上げる。
武道の達人でもある柾がそのまま寺田を引き受け引き摺って部屋を出て行った。
篤はブザーを鳴らし看護師を呼ぶ。
心優は?と見れば、驚き過ぎて目を見開いたまま固まっていた。
「心優ちゃん……」
そっと声をかけてみる。
ゆっくり篤の方を向くので、大丈夫と微笑み手を握る。拒絶反応がないことにホッとする。
「驚かせてごめんね。もう大丈夫だからね」
直前まで眠っていたし事情が飲み込めない様子だ。見たところ驚いたけどそれほどの恐怖は感じなかったようだが、事情がわかるに連れて後から恐怖感を感じることもある。
部屋に入る前に止めていれば、こんなことにはならなかったが、それだと寺田を野放しにすることになる。
これは仕方なかったんだと自分に言い聞かせる。
そこへ看護師がやって来た。途中柾と寺田を見て簡単に事情を聞いたらしい。
「桜井さん、ちょっと心優ちゃんと一緒にいてもらえるかな?
心優ちゃん、ちょっとだけ用事を済ませてくるから桜井さんと一緒にいてもらえるかな?なるべく急いで戻って来るから……ね」
心優が頷くのを待って、そっと手を離すと直ぐそのまま桜井が心優の手を包む。
もう一度心優の目を見て頷くと柾と寺田のところへ向かう。
二人はカンファレンスルームにいた。とりあえず詰所にあったロープを渡せば、すぐさま柾が後ろ手に縛り上げ椅子にくくり付けていた。それを見て別室に向かい病棟長に連絡すると深夜にも関わらず直ぐにやって来てくれた。教授にも既に連絡済みらしい。
心優には睡眠導入剤を処方して眠るまで傍にいた。
しつこいですが、これはフィクションです!
通常こんなことはあり得ないはずです!
スタッフとしての動きも、想像でこんな感じかな?で書いておりまして、正しいかどうかもわかりません。
なので、そこは突っ込まないでくださいませ。