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ヤロートークが入ります。

 キーボードを叩く手を止め時計を見る。

 柾が戻って来ない。姉貴を呼びに行っただけのはずがいったい何をしているのやら……

 手元のコーヒーを一口含めば、


「ぬるい……不味っ… 」


 まったく、イラつく。アイツ、仕事は終わったのか?

 仕方ない、篤はとりあえず様子を見に行こうと席を立つ。

 心優の部屋の前に立てば、珍しく心優の笑い声が聞こえた。と同時に


「いたっ……笑ったら…響きます…」


 慌ててノックして部屋に入れば、すっかり打ち解けた二人がいた。


「おい、患者の傷に響かせて何やってるんだ?

 心優ちゃん、大丈夫?」


 心優は真っ赤な顔して慌てている。


「あ、あの…だ、大丈夫です。ちょっと笑い過ぎてしまって…あの、響いただけですから…清水先生、ごめんなさい」

「「心優ちゃんは悪くないから」」


 篤と柾の声がかぶった。

 そこ、笑えば良いとこだけど、突然の篤の登場に心優はあたふたしていてそんな余裕は無さそうだ。


「ん?それで、何か用か?」

「ミイラの回収に来ただけだ」

「おぉ、そりゃ悪かったな。

 じゃあ、心優ちゃん、またな」


 柾はひらひらと手を振りながら出て行った。


「まったく……」

「あ、あの……清水先生は、里英先生に言われて私の相手をしてくれていただけで……あの……」


 突然のことにどうやら心優を驚かせただけでなく慌てさせ気を遣わせたらしい。


「大丈夫だよ。わかってる。清水先生はいつもあんな感じだから気にすることはないから。楽しかった?」

「…はい…」

「それは良かった。

 じゃあ、今日は僕はもう帰るけど、当直の先生はいるから、何かあればちゃんと対応してもらえるから大丈夫だからね。

 じゃあ、また明日。おやすみ」

「おやすみなさい」


 おずおずと微笑む心優に安堵と何か物足りなさを感じつつ部屋を後にした。

 詰所まで戻れば柾がメシに行こうと待っている。

 やれやれ、こいつは自宅に帰れば夕飯が待っているだろうに。

 でも、一緒に食べる相手がいるのは有り難い。




「「お疲れ」」


 お互い言い合ってビールをあおる。やはりこの最初の一口が美味しい。


「お前、家で食べなくて良いのか?用意してあるんだろ?」

「独身息子の行動に煩く言わないから大丈夫。兄貴だって毎日里英姉のところで食べて泊まってまったく帰って来なかったからな」


 それには二人で沈黙する。


「で、お前は誰かいないのか?いつも僕のところに入り浸って……だいたい女の着替えならともかく、なんでお前の着替えが一式うちにあるんだか…」

「ん、女の着替え置いてるのか?」

「ないよ!知ってるだろ」

「まあね、お前絶対自分の部屋に入れないよな。なんで?」

「他人の臭いが嫌だ」

「はあ?部屋の換気とかスプレーとかあるだろ。そんなに潔癖症だったか?」

「そんなことはないんだけどね〜部屋開けた時に香りって色々感覚とか感情にダイレクトに訴えるものがあるじゃん」

「本命じゃないってことか……」

「そうなんだろうね。なんか、棗さん見てるとさあ、そこまで想えないっていうかのめり込めないっていうか、恐ろしいっていうか……」

「いや、あれは規格外っていうか通常の想定外だから……」

「うん、それはわかってる」


 二人してこれまでの諸々について思い出し、どよよ〜んと暗くなる。


「まあ、お互い幸せそうだからね。良かった良かった。お前には色々気を遣わせてすまないな」

「いや、あれくらいは。里英姉のお陰で我が家は平和だからね。有り難いよ」

「で、柾君?人のこと色々聞いといて自分はどうなんだ?」

「今のところ本命はいないな」

「それはわかってる。お前ものめり込みそうだよな〜」

「一途と言ってくれ。まだそこまで想える女に出逢ってないだけだ。出逢えばわかる」

「そうか……でも、なんでわかるんだ?」


 ここで柾は腕を組み真剣に考え込んだ。


「まだ出逢ってないからわからないけどな、こいつだ!って自分の魂が叫ぶような気がする。多分理性とか世間体とか頭で考えることじゃないんじゃないかな。そいつのことしか見えないっていうか考えられないっていうか……とにかく気になる?みたいな……」

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