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午後八時、誕生日ケーキは両親も一緒にと心優の自宅へ上がる。
麻子は目敏く指輪に気付いたが、その場では何も言わない。
ダイニングに座り蝋燭を吹き消しケーキを切り分けたところで篤が切り出した。
「高杉さん、今日は心優さんとの時間をお許しくださいましてありがとうございました。
心優さんにプロポーズしまして、快諾いただきましたので、改めてご両親にお願いに参りました。
心優さんとの結婚をお許しいただけないでしょうか」
麻子は満面の笑顔だが、良介は渋面。
娘を嫁に出すのは心底嫌らしい。
「心優、心優はどうなんだ?本当に篤君で良いのか?
嫌なら無理しなくて良いんだぞ」
横で麻子が苦笑する。呆れたように睨まれても気付いちゃいない。半分すがるように心優を見つめる。
「私、篤さんが良い。篤さんと結婚したい」
「心優宛てには山ほど縁談の話が来ているぞ。そっちを吟味してからでも……」
「だから、もう篤さんに決めたの」
心優のきっぱりとした宣言に良介が項垂れた。
ビジネス面での颯爽とした雰囲気は欠片もないところが笑えてしまうが顔に出さないように堪える。ここで笑ったら何癖付けられるかわかったもんじゃない。
「心優、心優、指輪を見せてちょうだい」
どうしようもない空気に麻子が割り込んだ。心優も嬉しそうに指を差し出すと、麻子が手を取る。
「綺麗ねぇ〜こんなに大きなピンクダイヤ、よくあったわね」
「えっ、これダイヤなの?」
心優が驚いて尋ねる。篤が答えないので麻子が代わりに答える。
「鑑定士じゃないから、そんなに詳しくはないしちゃんとしたことは言えないけど、かなり上位ランクよね。本当に綺麗。
ねぇ、あなた…」
言われて良介も気持ちが切り替わる。
腐っても経営者。しかも宝飾品も扱う百貨店のオーナーだ。
ひとしきり眺めて問う。
「まさか、ローンじゃないよね?」
このクソタヌキ!
「いえ、貯金の範囲内です。すっからかんでも有りませんからご心配なく」
「あなた、失礼よ」
「いや、婿殿の経済状況を把握しておくのも大事だからね」
そんなの、とっくに調べてるだろうがっ!
「で、どうだろう。式や披露宴は当然心優の卒業後だろうが、新居はこの家を改装して同居というのは?」
「同居、ですか?」
「この家は広い。使用人もいる。心優に慣れない環境で苦労させたくないんだ」
「まだ結婚を決めたばかりですから、先のことは心優さんと相談してから決めさせてください。
本日のところは、結婚の承諾をいただけたということで、ありがとうございます」
さっきまで渋っていた癖に切り替えが早い。大方以前から検討計画してたんだろうが、こちらも殆ど策を考えてないところでタヌキと話は出来ない。
篤は実家にも報告するからとお暇することにした。これ以上居ても心優と二人きりにはなれない。
「じゃあまた連絡する」
「篤さん、ありがとう」
「その指輪、学校以外はずっとつけててね。寝る時も…」
「はい」
素早く頬にキスすると車に乗り込み、実家へと向かう。
実家では父の覚の夕食が済んだところだった。
母の成美がお茶を入れて出すなり喋り出す。
「もう、あなた全然帰らないから良いお話がいっぱいたまってるの。ほら、これ見てちょうだい。これはね」
見合い写真と釣書の山から一つ取り出し広げる。
勝手に話をまとめず意向を聞いてくれるだけ、両親も姉の縁談で学習したらしいが迷惑でしかない。
「あのさ、それ全部断って」
「えっ、あなた見てもないのに」
「婚約したから、今日はその報告に帰って来た。
相手は高杉心優さん。高杉グループのお嬢さん。今日あちらの両親に挨拶して来たし指輪も渡したから」
「そ、そんな、親に何の相談もなく……
とにかく一度、そのお嬢さんを連れて来なさい。
話はそれからよ」
「まあ、そのうちね。近々両家の顔合わせをするからよろしく。
式や披露宴は彼女が高校を卒業してからになるから、しばらくは大人しく内密にしておいて」
鳩が豆鉄砲くらったような顔って、こんなのかな?って思うくらい両親揃って間抜け面をさらしていたが、覚がいち早く立ち直った。
「ちょっと待て篤、まさか手を出して責任とかって話じゃないよな?」
あまりの言い様に言葉に詰まったが、誤解だけは解いておかなければ。
「息子を信用してください。高校生相手にまだ手は出してません」
「ずいぶん奥手だな」
多分これは覚の正直な感想だろう。
「箱入りのお嬢さんなんですよ!」
「それで、何年生なの?」
成美がやっと口を開いた。聞きたいことは山ほどあるに違いない。
「三年生、今日で18歳になりました。来年春に卒業してからになりますから、くれぐれも先走らないようにお願いします。
変な噂が流れたら学校での立場も有りますからね。お母さんや姉さんの後輩になるんですから学校の様子はおわかりでしょう?」
「まあ、そうなの?それは大変!」
大変と言いながら嬉しそうですよね、お母さん………
これで母は大丈夫。と、父を見る。
覚は腕を組み考え込んでいる。
「高杉さんとこは確か一人娘じゃなかったか?」
なんとなくあまり気付いて欲しくないところに気付いたようで、篤も慎重に答える。
「そうだね」
「あちらの跡取りはどうなるんだ?」
「それは知りません。
僕は彼女と予てより交際していまして、18歳の誕生日を期に結婚を申し込んで承諾を得たので、あちらの両親に挨拶してお願いしたところお許しいただいた。現時点ではそれだけです」
「将来のことは話してないのか?」
「交際を申し込む前に、僕は紀井の後継だとはちゃんと伝えてますよ」
「そうか、それなら良い。だが、気を付けろよ。お前は医者だ」
「それはもちろん」




