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夕方、清水家をお暇し車に乗り込んだ。出来たらこのまま食事に行きたいところだが心優の体力体調を考えると無理をしない方が良いように思えた。それにお腹はいっぱいだ。
車を走らせながら問いかける。
「心優ちゃん、来週時間ある?」
「来週?週末ですか?」
「うん、知人が個展をやるんだ。良かったら一緒に行かない?シルクスクリーンなんだけど……」
「版画……ですか?」
「そう。興味ない?」
「いえ、そんなことはないです。美術館にはよく行きますし」
「良かった。じゃあ来週はデートしよう」
「えっ!?デ、デート…?」
「そっ!二人で」
「あ、あの…」
「僕とじゃ、いや?」
「そんなことは…」
「良かった。じゃあ決まりだね。また連絡するから」
はかったように車は心優の家の前に着いた。車を停めると篤が助手席側に来てドアを開け手を差しのべてくれる。
恥ずかしくてドキドキしながら左手を乗せれば、軽く握ってエスコートしてくれるのだから始末が悪い。
一回りも年が違えば大人と子供みたい。
言葉のキャッチボールどころか、トランポリンに落とされてピョンピョン知らないところへ着地させられた気分だった。
なんか、ずるい………
走り去って行く車を見つめながら呆然と呟く心優だった。
一週間はすぐに過ぎた。
迎えに来た篤の車で10分、地下駐車場に車を入れ徒歩数分。こじんまりした画廊があった。注意していなければそのまま通り過ぎてしまいそうな然り気無さ。壁には蔦の葉がいくらか覆っているが紅葉しているのでまもなく落ちてしまうだろう。
ドアベルを鳴らしながら入ってみれば奥行きはあって意外と広い空間があった。
壁には作品が並べられている。
単色作品が多くシンプルで控えめな印象の作品が多い。
大きなインパクトはないが落ち着く感じで違和感はない。どんな部屋のどんな壁にもすんなり受け入れられそうな…個性がないようで実はしっかり土台はあって主張しているような、妙に印象に残る作品で不思議感が漂っている。
作品のテーマはヘブリティーズ諸島の古代遺跡。
作者がイギリススコットランド沖合いの島々を廻って来たらしく、中央にあるテレビに島々の風景が映し出されていた。
美しい風景だった。
自然豊かだが、その自然はかなり厳しそうだ。
「紀井、よく来たな」
よく通る男性の声に振り向けば、175〜6cmくらいの人懐っこい笑顔の男性が近寄って来たが、篤の後ろに隠れていた心優を見てぎょっとばかりに立ち止まり、篤と心優を見比べ面白そうににやにや笑う。
「そうゆう趣味だったのか」
「客に向けてずいぶん失礼な態度じゃないか」
返す篤も面白そうに笑っている。
「いや、失礼。ようこそおいでくださいました。私、田中恵一郎と申します。で、そちらのお嬢さんは?」
「心優ちゃん」
篤が一言だけ返す。
「おい、なんだそれは?他にも色々あるだろう」
「お前にそれ以上の情報は必要ない。
心優ちゃん、こいつは高校の同級生で東京の芸大出た後ふらふら放浪しながら作家活動をしている気ままな奴だ」
「あの、初めまして、高杉心優です」
心優がぺこりと頭を下げた。
「可愛いねぇ〜頭撫でて良い?」
「触るな!」
と、すぐさま心優を後ろに隠すが、悪態つきつつからかいつつ二人が楽しんでいるのはわかる。とても気安い関係のようだ。
一通り作品を見た後、奥のソファに腰掛けた。すぐに女性スタッフがお茶を入れてくれる。
掛け合い漫才のような会話が続くのを眺めるのも面白い。
こんな素の篤さんなんて初めて知った。
なんか、可愛い……
うふっ…
思わず浮かべた笑みを二人が目を見開いて凝視する。
「いやぁ、ホント可愛い!お前ホントマジでどこで見つけて来たんだ?」
「内緒。ずぇ〜ったい教えない」
個人的内容には踏み込ませず、旅先の話を色々伺い楽しく歓談する。最後にあちらで買い込んで来たウィスキーを試飲する約束を取り付けて画廊を出た。
恵一郎は心優も誘いたがったが、酒席はお断りと代わりに面白い奴を紹介すると約束して。




