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大変ご無沙汰してます。

この話はフィクションです。なので実際の病気や治療法、病院や医師の行動として問題があったとしても、あくまでフィクションです!

 コン、コン…


 そろそろと扉が横に動く。


「やっほぉ〜!こんにちは〜」


 覗いた顔は心優(みゆ)が小学生の頃から良く知る人だった。


「里…英、せ…ん…せぇ…」

「あ、無理しないで。声出すのしんどいでしょう?」


 そう言うとベッド脇までやって来て繋がれたコードや機器を一通り見やると椅子を開いて座わり、背もたれを起こしたまま横たわる心優の手を握る。


「とりあえずは落ち着いてるようで良かった。今は色々痛いししんどいでしょうけど徐々に回復しているから大丈夫よ」

「でも、痛…いの……」

「痛み止めは効いてない?いつ飲んだ?」

「わからない…」


 痛いのか心細いのか涙ぐむ心優に微笑んで、


「ちょっと待ってね。外科は私の管轄外だから」


 と、心優の新しい主治医に内線をかけてくれた。

 心優は幼い頃から身体が弱く何かと入退院を繰り返す小児科病棟の常連患者で紀井里英医師(本名は清水里英(きよみずりえ)、職場では旧姓)が学生時代に実習担当になってから、何かとよく関わってきた患者だ。

 今回は自然両肺気胸で緊急手術が行われた為ICUで数日過ごした後、外科病棟に入院している。通常小児科は15歳までだが、心優は17歳。幼い頃からの治療の延長で現在も小児科にかかっている。今後の治療方針も含め移行期にさしかかった為、微妙な時期に入っているのだが、その診療科は多岐に渡り正直どこの誰をメインの主治医に置くかで悩む患者だった。コーディネーター的な人材が必要なのだ。


「あのね、紀井…先生…恥ずかしい…の…」


 17歳とは言うものの、病気がちで食が細く華奢な心優は幼く見えるが年頃の少女だ。まだ若いイケメンドクター相手に慣れなくて戸惑っているのかと思えば青白い頬を朱色に染め潤んだ瞳で訴えかける。


 あらま……まだまだうぶで可愛いらしいわぁ〜

 ちょっと、おばさんじみた感覚でにんまりしてしまう。


 と、そこへ心優の主治医がやって来た。


「お待たせしました。ごめんね。そろそろ痛み止めが切れる頃だったんだ。水は……」

「ここにあるわよ」


 すかさず里英がテーブル上のペットボトルの蓋を開けて手渡した。心優がゆっくりとした動作で薬を飲み込むのを二人して見守る。そして先程の里英と同じように若いイケメンドクター紀井篤は機器や管をチェックするとホッとしたように頷いた。


「心優ちゃん、痛い時は我慢しなくて良いから言ってね。看護師さんでも、ブザーを鳴らしても良いから遠慮しないでね」

「…はい…」


 蚊の泣くようなか細い声だが、ちゃんと返事が返ったことに安心する。


「ん、顔赤いけど、熱上がってきた?ちょっと計ってみようか?」


 枕元の体温計を渡しながら、おでこに手をやる篤に里英は苦笑いした。これはまたしばらく面白いことが色々ありそうと一人にんまりする。


「37度8分かぁ〜、術後である程度の熱は仕方ないけど、氷枕でちゃんと冷やしてね。この薬で熱も下がるはずだし。氷枕はぬるくなったら、これも遠慮しないで看護師さんに言ってね。ここ、個室で人通りが少ないけど、なるべく覗くように頼んでおくから。一人は寂しい?」


 真っ赤な顔でうつむきがちに首を横に振る姿は愛らしい。


「一人は寂しいから、篤先生、ちょくちょく顔出してあげてくださいね」


 姉の茶化すような台詞に篤がうんざりする。


「こんなところでのんびりしてて良いんですか?里英先生…

 柾んところに、さっきから何度も連絡入ってますよ」

「あらやだ!でも放っておきましょう。今日は心優ちゃんに篤先生の主治医ぶりを聞かなくちゃ」

「姉さん……」


 患者の前、患者の前、患者の前……

 篤は呪文を唱えながら出て行った。

 心優がホッと息を吐く。

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