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きみよりも  作者: 日高
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最終の空

腕を掴まれていた。

背後から聞こえる息遣いに何事かと振り向くと、白石が私の腕を掴んだまませっぱつまった表情で私の後ろに立っている。

平常心を保って白石の方に向きなおり、どうしたと聞こうとすると即座に腕が引かれた。

私が白石の胸に飛び込む形になり、流石に頭が真っ白になった。

今、白石の胸の中にいて、手を背中に回されて、頭を包まれて、そう考えるだけでくらっと目眩がした。

「あっ」

白石が小さく声を漏らし、ゆっくり倒れた。完全に白石の腰に向き合って騎乗する形になってしまって、もう為す術もない。

下手に動けないまま白石の胸に両手をついて、目を固く閉じて次の出来事を待つことしかできなかった。

突然の白石からの行動に始まり、時折見せた余裕の表情、それらがまるで嘘だったかのように、いっぱいいっぱいの白石がそこにいた。

「なんでいるんですか」

私は思わず見上げて、そのまま目が離せなかった。すると白石が口を開いた。

「なんで、なんで先輩はいつも平常心なんですか、それが大人ってものなんですか」

投げやりに言ったあと、床を見つめる白石の言葉を頭の中で反芻する。

先輩はいつも、平常心。

全く取り乱してばかりだと思っていた自分の行動と照らし合わせる。

平常心をうまく装えていた気もしなくて、ただ唖然とした。

先輩として、ごく自然に接する態度が、白石にはそう見えたのかもしれない。

「そう、だったかな」

「そうですよ」

静かに抵抗する白石を見て、なんだか恥ずかしくなり目を見ていられない。したを向き、白石の体温を感じた。その時白石が振り絞るように言った。


「そんなに、意地張らないでください」


はっとした。

白石にはすべてを見抜かれ、それも全部、わざと平常心を保っていることすら手の内だったのだ。

恥ずかしくなってさらにしたを向く、すると白石が最後の言葉を言い放った。

「でもおれ、先輩よりも意地っ張りかもしれませんね」

「どどいうこと」

こういうことです、そう言って白石の手は再び私の背中を包み込んだ。

突然すぎて目を見開いて体の置き場所に困った。耳元で白石が笑った。

やっぱり変な人。

意地っ張りのお互いの胸のうちは、きっとこうだったに違い無かった。

私は泣きそうになりながら、立ち上がった白石に手を引かれて走った。


***


着いたのは屋上だった。

恥ずかしさと戸惑いばかりの私には、今の空は青過ぎていた。

白い入道雲をみて、夏がやってきたことを再認識する。

白石に握られた手は熱く、まぶしかった。

「先輩が卒業するまで、おれ頑張りますから」

大空に放つように言ってこちらに向き直る。

「先輩よりも意地っ張りですからね」

卑怯な笑顔で白石は言う。恥ずかしそうに目線をそらし、握る手に一掃力が入った。

なにも言わなくても、つないだ手から痛いほど伝わる気持ちを、日差しとともに全身に感じた。

「私の指導は厳しいぞ」

そう言って笑って、二人して大空に向きながら笑う。

夏の入道雲は、形を変えつつゆっくりと流れていた。


高校三年生の夏。

蝉の声を聞きながら、美術室に立てこもる毎日。

いま、同じ部活に気になる後輩がいる。

気になるといっても、ミステリアスで生態が謎なのだ。

だから私は、今日も彼の横顔を見つめる。

いつもと同じ綺麗な横顔を、青い青い夏の空に浮かべて。

とかなんねえかなあ〜笑!

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