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きみよりも  作者: 日高
1/5

どういうこと

フィクションかなかなー?

「こんちゃー」

放課後始まって15分、すこし遅れて美術室に入る。

さっきまで教室で話していた会話も笑ったネタも、美術室に入った途端ぜんぶ忘れてしまって、私はただの美術室部員になる。すんなりと美術室の地味な空気と同化しながら挨拶をした。

ちわーと挨拶してくる同級生と、こんにちはと上目遣いで頭を下げる男の子。

唯一の一年生であり、部に2人しかいない男の子の一人。白石君。

もう一人は二年生で、コミュ障代表森下。

森下は愛すべきパシリで特に興味無い。

私は一番後ろの長机にカバンをどさっと下ろして見渡し、はぁめんどくさと愚痴をこぼしながら棚の上からキャンバスをおろして、パーカーに着替える。

白石には見えないように、自分が収まるほど大きなキャンバスで壁を作ってから服を脱ぐ。

「山中、人が来ないか見ててね頼む」

そう言うと山中はちらっとこっちを見て頷いてからいそいそとまた窓の外を向いた。

片思いの相手でも探しているのだろう。

山中は一言で説明すると向上心のある虫です。

パーカーに着替えた私は教室の一番後ろに、教室の前を向いてキャンバスを地面に立てる。次から次へと絵の具と道具を出してiPhoneを傍らに、新聞の上に座った。

久しぶりに見る絵と向き合ってじっと見る。

半月前と変わってないその筆跡にため息をつきながら、イヤホンをさしてフードをかぶる。先生にばれないようにね。

私はその瞬間から苦心する。筆使いに苦心するわけでもなく、絵の具の混ざり具合にでもない。

ただ視界の右端に見える人物を、一生懸命見ないように目の前の作品に集中するのだ。

そう眼球に仕向けても、どうしても見てしまう、意識してしまう。

着替えている頃は意識なんてしていなかったのに、おかしいな。そう思いながら絵の具を混ぜる。耳から聞こえる好きな音楽と世界観が、より一層その人を魅惑的に見せる。

白石は私の視界の端で、長机に置いた全版に手をついてしたを向き、ペンを動かしていた。


***


白石が入部してきたのは、一年生が入学してすぐだった。

我が美術部は、吹奏楽部と家庭科部とやらに部員を取られてしまい、入ってきたのは白石一人。

二年生については2人やめた今、確か6人。3年は多分10人くらい。忘れた。

それでもうちは、男子が決定的に少ないこともあり、白石の入部を部員総出で歓迎した。引かれるくらい歓迎した。

災難なことに白石はなかなかにかっこいい。イケメンじゃないけどなんというかこう、背も高くて顔もスッとして、運動部っぽいくせに姿勢は悪いけど無口で、先輩部員は入ってきた途端からちやほやした。

当の本人は見かけによらず真面目で、先輩にちやほやちやほやされてたのに羽目を外す事なんて一切無かった。

ちやほやされた白石は無口で戸惑いながらもにこにこ笑顔で先輩に受け答えしながら楽しそうだった。でもちょっと引いていた。

私も最初はいろいろ聞いたりしていたけどやめた。

あの先輩僕に興味ないのかなーって思わせたかった。笑。残念ながらめちゃくちゃ興味あります。

目の保養だとかかっこいいとか、私は割と言っていたので、今ものすごくピンチなのであります。まぁまぁ結構ピンチなのであります。

なんと、白石のことを好きになってしまったかもしれないのでありますます。


***


めちゃくちゃかっこいいなあ。

下を向いてペンを動かす白石を横目で見た。めっちゃ逆光で神々しい感じの白石を見ながらため息をついている自分に気づいて思う。

私、彼氏居るのになぁ。

付き合って二年、遠距離の彼氏に対しては最近刺激が足りず、かっこいい男を見つけては見て楽しんでいる。見るだけ。

それでも一度、そのかっこいい男たちにフラフラして居るうちに、その中の一人と付き合うことになってしまった。その時は流石に今の彼氏とは別れた。その2ヶ月後また復縁してしばらくは気持ちも安定して、その話はお互いのタブーになった。

それから三ヶ月たった今、二つ年下であり、自分よりはるかに背の大きな後輩を見ながらため息をついている。

だめだなあ。懲りないなあ。

そう思っても、白石の綺麗な横顔を見ていると意識せずにはいられない。

相手に悟られないように、フードの中でちらっと横顔を覗き見る。

こっちに気づいては居ないようで、もくもくとペンを動かす。それはそれで虚しくてだんだん悔しくなったので、白石の方をじっと見た。

こっちを見ろ、ほら、先輩が見てるぞほら見ろよ目を合わせうわアブナ。

目が合うところだった。

私は左下を向き、絵の具を混ぜるふりをした。


***


目の位置もうちょっと下かな。唇難しいな。白石かっこいいな。いや、もうちょっと上かな。

しばらくは真剣に手を動かした。途中、白石の視線を感じたけど気のせいだと思うので作品に集中するふりをしてすごいテンション上がっていた。

フードをかぶってイヤホンをして教室の一番後ろで絵を描く私は完全になりきり野郎だ。普通に見ると痛いとは思うけど、形から入るタイプなんですよ。モチベをね。

音楽の音量を少し上げて集中しようとしたとき白石が動いた。

丸椅子の上で身体をこっちに向けてから、膝の上にスケッチブックを置いて絵を描き出した。

その姿勢だと見られてるような気がしてどうにも集中できないのだけれど、と思いながらも見られてるわけはないので気にしないふりをして少々興奮しながら私も作業に戻る。

そのとき、白石が自分の前にあった丸椅子にスケッチブックをパシと置いてそこにガッと手をついて、また描き出した。

下品かもしれないけどその行動が私には、女性を押し倒す仕草に見えて思わず腰を大きく曲げた。

キャンバスで死角を作って白石を視界からシャットアウトした。

涙目になった。美しいものを見たときの感動の涙かどうかはわからない、けど。

とにかく私の動きが完全に止まった。時間も、思考も、呼吸までもが止まった。呼吸をするのがもったいなかった。あの姿をいつまでも逃がしたくはなかった。

かっこよすぎる。これは、大変やばい。

白石よ、あんた魅惑的すぎる。


***


白くて長い指。それに繋がった長い腕にすらっと長い脚。切れ長の目に血色のいい薄い唇。そこからたまに覗く舌。白い肌。綺麗に刈られた目にかかる程度の黒い髪。真剣に全版を覗き込む鋭い目つき。男の子らしくおおきい、猫背な背中に薄い身体。

いままで目をそらし続けた愛すべき後輩。あくまでも、先輩として愛すべきだった、後輩。

私は、完全に恋をしてしまったようだ。


***

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