第五話
雨が止んだのは俺が泣き止んだ後、月が沈み太陽が出てきたときだった。
「……なあリーリア、お前は何をしたかったんだ?」
雨の染み込んだジャケットが俺の気分まで暗くする
「……」
何も喋らない墓石に俺はもたれ掛かる。泣いていた時の俺はだらしなく
涎を垂らしてたんだろう、そう思うとなぜか馬鹿馬鹿しくなってくるものだ。
「……お前は何を望んだんだ」
「それは貴方の望んだものを望んだのでは?」
「……いつからそこに居た……グロッド」
「雨が止んだ辺りですかね……」
「みっともないですね、貴方らしくない」
「悪かったな」
グロッドと言われた青年は微笑む。そして俺に手を差し出すが俺は手を取らず立ち上がる
「つれないですね」
「お前が嫌いなだけだ」
「貴方は何で彼の元にいるんですか?」
一瞬時間が止まった。俺はアレを人と呼ぶ人間がいたとは思えなかった……
「……アレは人じゃない……彼と呼ぶのはおかしいぞ」
「彼は人です」
「アレは人じゃない、もう一度言うぞ、アレは人ではない」
グロッドの碧い瞳が少しだけきつくなる。
「貴方は分かってない、なぜ彼の能力を認めないんですか」
「お前は本当のアレを知らないから言えるんだ」
「彼は素晴らしい、あの能力を僕は欲しいんですよ」
狂ってる、この青年は絶対に狂っている。
人でもないものを殺し、その力を手にしようとしているのだ
「あの力を手に入れるには彼の骸が必要、彼を殺さなければならないんです……とっても惜しいですが……ね……だから貴方のその剣が必要なんですよ……」
繰り返される生と死の繰り返し、俺が罪無き人を殺め、雇主がそれを見て楽しむ
それのどこが楽しいのか、アレの能力のどこがすばらしいのだろうか
俺にはわからない
分かるはずが無い
「聴いてますか?」
「……」
「聴いてるってことにしておきますね……じゃあ覚悟してください」
「どうして分からない、アレはお前には殺せない、アレの力に呑まれてしまうだけだ」
忠告してもどうせグロッドは聴く耳を持たないのは当たり前だ、子供が駄々をこねているのと同じで
欲しい物があると絶対に手に入れる、それを手に入れるためなら何でもする奴だ
「僕は貴方の剣を手に入れて彼の力を手に入れる……だから大人しく死んでください」
「……糞餓鬼が……」
本当は嫌だ、子供を殺すのは嫌だ……ジェムを思い出す……
「僕は子供じゃないです、貴方の子供と一緒にしてほしくないです、」
「それを言ってるお前に怖気が走るっての……」
グロッドの武器は折りたたみ可能な斧、俺のアトロイに比べかなり重いがそれを軽々と振り回す。あまり相手にしたくない奴の第一候補だ
腰辺りに手を回し、折りたたんでいる斧を取り出し組み立てる。
「本気でいきますね……後悔しないでください」
「……紅き、赤き、紅き、紅蓮の炎の衣を纏い、我ここに彼の者たちを一掃せん……」
意識が遠のく、そして俺を支配する。
……だが今回は違った……周りを見ることが出来る……
「アトロイだっけ? 僕の邪魔をしないですんなりその持ち主を殺させてね?」
「……オマエハワカッテナイ、ナゼコノオトコノコトヲリカイシヨウトシナイノダ」
「キミ喋れるんだ……けどそんなのは気にしないけどね」
俺は大きく剣を振る。それをグロッドはかわし間合いを狭め腹部に一発蹴りをかまされる
「ッッ……」
少しひるんだが体制を立て直す、間合いを充分とって相手の動きを観察、
アイツとは何度か稽古をつけてやったが前よりも充分強くなっているのは分かる、しかし
あまりにも力不足で、その弱点がありそれをまだアイツは見つけきれていないようだった。
アトロイはそれをすぐさま察知した。
武器を使わず何度か打撃を繰り返す、そしてアトロイはこう言った。
「……オマエ……ヒダリアシガフショウシテイルノヲシッテテカカッテキテイルノカ」
「……」
「アマリハナスノハスカン、タダノ(ニエ)ゴトキニカケルコトバナンテナイカラナ」
アトロイは確かに贄を欲し、血を浴び肉を裂きそれを快楽として楽しむ事を生きている糧としている、雇主からはただ
「この剣の欲を満たしてください」としか言われていない、
だたそれだけ、その欲が何かも聞かないで俺はのうのうと付いていったのが悪かった……そのせいで俺はリーリアを……
斧での攻撃を剣で弾き間髪いれずに突き、ぎりぎりのところでグロッドは避けアトロイに話しかける。
「アトロイさん、貴方は何でそんなにこの人間にこだわるんですか」
「ナゼ? ……クダラヌコトシカキケヌノダナ、コノコワッパメガ」
走って少し距離を置こうとしたがグロッドが付いてきた、少し加速し止まる。
そして剣の握り方を変え、突きの構えにする。しかし突きの構えにしてはおかしな構えだ……
(ツキジャナイ、フショウシタアシメガケテケンヲナゲル)
「っ……フンッ!!!」
無理な体勢、これで普通投げれるはずないのに投げた……そして左足に刺さる。
「っぁ……!!」
「ニゲロ、ニゲロ……ナゼニゲヌ、ワレノゴラクニツキアエ」
負傷している左足に刺さった剣は毒々しい色に変色し毒を体内に注入する、
「っ……ぐぁ……」
「カラダガヤケルヨウナイタミムンジャナイカ?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」
グロッドは地面を這い俺は笑っている、正式的に言えば俺の体を乗っ取っているアトロイが笑っている。
「クククッ……ワレヲモットタノシマセロ、ゲボク、オマエハワレノオモチャダロウ、モットアガケ、モットクルシメ、モット……モットダ!!!」
「うぐっ!!!……がはっ……」
グロッドの腹を蹴り、胸を踏む、足の剣を引き抜き血を薙ぎ払う、グロッドの情けない声だけが響く、血を吐きみっともなくあえぐ事しかできていないらしい、
「ハハッ……ハハッハハハッハハハハ!!!!!!!!!!!!モットクルシメ!!!モット、モットダ!!!」
グロッドの左足を剣で切断する、血が噴出し返り血を浴びる、笑い狂うアトロイ、
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
左足を両手で押さえつけて止血しようとしているが無駄だ、頭を思い切り蹴り飛ばし手の平が地面につくと同時に踏み潰す、
鈍い音が響く骨の折れる音がはっきりと
「サイコウダ、……ダガマダタリヌ、ワレノヨッキュウハコンナモノデハミタサレヌ」
剣で腕を切断し足の付け根を切断、グロッドの目の前でグロッドの足を刻みこむ、
「ナァコワッパ、コレガオマエアシナンダゾ、コンナニグチャグチャニナッタラドウニモナラナイナ」
にやりと笑い尻を蹴り飛ばす。
「サッサトシンデシマエ、オマエデハモウタノシメナイ……サラバダオロカナセイネンヨ……」
高々と剣を掲げそれを思い切り振り落とす、
首を撥ねた……
そして満足したのか俺の体からアトロイは消えた……