第三話
ただただ続く草原、そこにポツリとある墓標
“双眸の輝き、春の季”
リーリア・ストルトーズ、ここに眠る
この下に、リーリアは眠っている。
助けられなかった俺の妻が眠っている、
「遅くなってすまんな」
「……」
「ジェムは元気にやってるよ、お前はどうだ?」
「……」
「……すまない……」
「……」
俺は何をやっているんだか……喋りもしない墓標に話しかけて
答えを求めるなんて……
「なぁ、お前がもしも生きてたら俺って変わってたと思うか?」
「……」
「……なぁ……なんでお前は俺について来たんだ、なんで俺の傍で笑ってくれたんだ」
「……」
「……ほら、花、お前結構好きだろ」
そう言って俺は持っていた花束を墓標の前に供え、苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
俺に出来る事はそんな事しかない
微笑むアイツを見て、癒され、抱きしめる事が出来た。
昔の俺は幸せだったんだ、
アイツを守れなかった、そんな言葉に縛られ生きて、
偶然であったジェム、
何でこんな偶然を神は導いたのだ、ただただ人を殺し生きてゆく俺に
息子を引き合わせたのだろうか
誰も分かるはずが無い
分かる者がいるのなら教えて欲しい、なんでもするから、
分かる者がいるのなら……
(ねぇ、アナザーは何でいつも悲しい詩しか口にしないの?)
アイツの口癖、確かに俺はたまぁに詩を口ずさむ
アイツにせがまれ何度か読んだ事もあった。
せがんだアイツの口癖、
何度も何度もせがまれた……
「―悲しみと共に堕とされ
私の近くで死神は微笑み
罪を背負う私に貴方は死の鎌を振り翳す
微笑みすらも死の輝き
貴方の束縛を私は喜んで受けよう
貴方が望むなら貴方が望むなら
私は貴方を守りましょう―」
なぜか読んでいた。
アイツのためにだろうか、
よく分からないがなぜか読んでいた
なぜか涙を流していた、
ぽつぽつと雨が降ってきた、
「……ぁ……あぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!」
その場に泣き崩れ、墓標にしがみつく、
だらしなくても良かった、
苦しくて苦しくて、泣くことも許されなかった。
ただ殺して、自分の感情を押し殺して仕事をこなした
そんな自分が嫌いだ、
何年ぶりかに流した涙は、海の味がした。