第二話
やはり記憶は無い
何をしたか
ただただ体が重くて
堪らなく眠いのだけが分かる。
「っっ……頭がガンガンしやがる……」
酒のせいなのか、アトロイのせいなのか、
そこら辺はよく分からないが兎に角頭が痛い、
「まったく……お前にはいつも迷惑を掛けさせられるな」
「……ヴェルドか?……」
アトロイは俺が抱えていたが、コートが無い=眼鏡も無い、
「俺だったら悪いか?」
やっぱりそうだ、この耳障りな声をしているのはヴェルドぐらいしか居ない
「いいや……頼む、俺のコートを持ってきてくれないか?」
「はぁ?俺はお前のパシリじゃないんだぞ?」
「兎に角よろしくな、」
「おま……ぜってーやだからな!!」
「頼むって、いい加減体も追いつかなくなってきてるしよ……」
「そしたらそれ使うなよ……お前の面倒を見るのなんて御免なんだよ」
汚いようなものを見る目でヴェルドはアトロイを睨む
「……ルオナ、悲しむだろーなー」
ルオナというのはヴェルドの妹の事で、何かと苦労を掛けさせてしまっている。
「う゛っ……わかったよ!!持ってきてやるよ!!」
にやりと笑い、手をひらひらと振り、いってらっしゃーいと嫌味を言うような感じで
ヴェルドに言葉をかけた。
この剣を使って何年経つんだろうか
よく覚えていないが、コイツと初めて対面したのは結構前だったような気がした。
ただなんとなく、雇主に拾われて、ただなんとなく仕事をして
そして俺はコイツに出会った。
ただただアイツが愛おしくて
アイツを意識しすぎて……
剣を手にとって、俺は多くの罪無き人間を殺して……
何でだろう……
あの剣をなぜ俺は手に取ったのだろう……
考えれば考えるほど、俺の中の罪は増えてゆく一方
ただ……アイツと一緒に居れるだけでよかった……
けど……今のこの状況からして、こんなことを考えている暇なんて無い……
雇主をどうにかしなければならない、
俺がこんなところでうだうだやってる暇なんて無い
俺は……必ず雇主を殺す……絶対に……
「そんなこんなでこの有り様か……全く、俺も年取ったな」
昔はこんなのじゃなかった。って言ったとしてもそれは昔の事、
今更一手も遅い事だ、
「はぁ、はぁ、はぁ……おら、取って来てやったぞ……」
息切れしながらやって来たヴェルドからコートを受け取り……というか
投げつけられたのでキャッチ、懐から眼鏡を取り出し装着する。
何も見えないわけではないが、無かったら無かったで困る代物、
「悪かったな、迷惑掛けて」
「……明日は雹が振るぞ……」
ボソリと呟くヴェルドに聞く、
「そんなに俺が礼を言うのは珍しいか?」
するとヴェルドは間髪入れずに頷き、ニコリと微笑む、
「んなん当たり前じゃん♪俺のことは、“屑”か“ゴミ”か“ゴキブリ”か“糞野郎”って呼ぶしな〜」
「ん?なんだ?そしたらヴェルドって普通に呼んでやるか?」
「……キモチワルイ……」
「……失礼なヤツだな……お前って」
俺は苦笑いをし、立ち上がる。
「お、雇主の所にでも行くのか?」
「いいや、墓参りに行くよ」
「誰のだよ」
「リーリアの墓参りだ、悪いか?」
「……気ぃつけろや、あの二人もお前を狙ってるからな」
「はいはい、んじゃな」
「おぅ、じゃな」
そんなそっけない会話を交わせるのもヴェルドぐらいだ、
俺は墓場に行く事にした。
コートを着て歩く、
空は明るく、冷たい空気が肺の中に入ってきているのが分かる。
(さて行くか、アイツの元に……ジェムの事を伝えねーとな)
一歩ずつ歩みを進める。
今は何も考えるな、自分の罪よりも今やる事に集中しなければ……
そう、何も考えなければいい……
俺は歩く、最愛の妻、リーリアの埋まっている場所へと……