マイノリティの勝利
「先生」
男子生徒Aがまっすぐに手を上げた。
教師は黒板に書いた文字から目を離して、
男子生徒Aを指す。
彼はいつもホームルームの口火をきる聡明な生徒だ。
今日の議題「クラス内のいじめについて」でも、
こうやって一番に手をあげる。
「ぼくはいつでも何でも一番の一番野郎、と
みんなからいじめられます。
一番はいつもひとりです。
必ずぼくがその座を奪うのをみんなが許してくれません」
「なるほど」
教師は頷いた。
「このクラスでいじめを受けているのはキミだというのだね」
「ちがうとおもう」
と、男子生徒Bが手を挙げる。
「ぼくがいじめられの、いちばん。
ぼくはあたまがわるいって。
この前のテストでも、数学が8点だったのを
からかわれました」
「それなら」
と、手をあげ、立ち上がったのは女子生徒Cだ。
「ウチはオトコオンナといわれていじめられています。
ウチは女々しいのがキライなだけなのに」
彼女はそれだけ言うと憮然として椅子にどすんと腰をおろした。
「じゃあ、ぼくはオカマって言っていじめられているよ。
別にぼくは女装が趣味なわけでも、同性愛者ってわけでもないのに。
ただ声が高いだけなのに」
男子生徒Dはやっぱり高い声で、
「悔しいっ」
と付け加えた。
「それはあたしたちのことを差別して言っているの?」
女子生徒EとFが声をあげた。
「あたしたちは真剣に愛し合っているのよ。
カラダだけの、興味本位で付き合うような安っぽい関係じゃないの。
精神で結び付いた本物の愛のかたち」
ねっ、と二人は微笑み合う。
「あらっ」
女子生徒Gが聞き捨てならないといった顔をした。
「いま、私のこと見なかった?
私はね、魅力があるの。
だから男子生徒が寄ってくるの。
私は断れない性格なだけなのよ。
興味本位だなんてそれはないんじゃないの?」
流行のリップクリームに輝く唇を、
彼女はとがらせる。
次から次に、ぼくは、わたしはという意見が連鎖する。
「それじゃあ、このクラスから
いじめをなくすには、
どうしたらいいのかな」
教師は、教室を見渡して言う。
一番野郎がまた手を挙げた。
「少数派意見を尊重すべきです。
少数派の個性を尊重すればいじめはなくなります」
眼鏡のふちを指で押さえて、きっぱりと言う。
そうだ、そうだよね、と
みんなが口々に賛成の言葉を述べた。
教師はざわついた生徒を静めて厳かに言う。
「では、少数派意見を尊重するということに
賛成のものは挙手。」
みんな手を挙げる。
「よし、みんな賛成だな。
今日から少数派意見を尊重するように」
「はい」
みんなが声をそろえる中、
ぼくだけがうつむいたままだ。
ぼくはあまりに普通なので、
どこをとっても少数派の中には入れない。
「じゃあこれでホームルームを終わります」
手を挙げようとして、やめた。
ぼくの意見なんて誰もきいてくれない。
だって、ぼくはどこをとっても
多数派だから。