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第一話 迷生寂乱

2026年4月16日、その日、自転により次々と闇夜に包まれる国々の人々が皆同じ夢を観た。

小さな島国、日本のどこかの神社で大地が破れ、黒々とした霧が噴き出し空間が歪み家々が崩壊する夢を。

そして世界中で腐った雨や雪が降り、世界中のメディアが自国のみならず同じ現象を共有した世界の国々の情報を発信し、終末論を展開した。

その前日、日本では安倍晴明神社周辺の住民が警察の誘導によって避難し、SATと自衛隊と米軍が銃器を所持し展開。その周囲を機動隊が封鎖した。

法的な規制上爆撃機を持てない日本であるが、その日、主に阿倍野区上空を米軍攻撃機23機と同空中空輸機2機が滞空し、遠方を飛んでいる航空自衛隊のヘリが民放ヘリと対峙している異例の事態なっていた。


木笹義圭吾きささぎけいごは、腐った雨のあまりの悪臭に鼻を顰めつつ中々変わらない信号機に対して悪態をつきたい気分だった。

阿倍野に実家のある圭吾は、携帯で家族が大阪城公園に避難していると聞き、終業のチャイムと同時に教室を飛び出し、一足早い電車に乗りこんだ。更にいつもと違うのは降りる駅が、ちょっと先の森ノ宮で、その駅で下車し信号待ちをしている次第である。

周囲を見ると悪臭対策にマスクをしている人が多かったので家族と会う前に一先ずコンビニに寄ってマスクを買おうかと考え、駅に引き返した、しかし皆同じ考えだったのか、そもそも品薄だったのか残念ながらマスクを手に入れることは叶わなかった。ついてない。

轟音に空を仰ぐと戦闘機が編隊を組んで低空飛行していた。生まれた頃から大阪に住んでいて初めてみる絵だった。大阪城に高層ビル、そして戦闘機。どんな絵面だよと心の中でつっ込んだ。


一体何がどうなってんな?せめてテレビを観ることができれば事の次第は解るんやけど。


携帯にテレビ機能があるが、しかし電池のことを考えて使わないことにした。避難生活がどのくらいの期間になるのか解らないが、少なくとも数時間で電池切れは避けたいところである。

それに幼なじみの安倍紗綾あべのさやと連絡が取れないのが気が気でしようがなかった。神社の娘巫女なのだが、ちょっと前に足を骨折する事故を起こし家から出られない不自由な生活を余儀なくされていた。圭吾としては入院してはどうか、と勧めていたのだけど、彼女は神社から離れられない訳があった。正確には神社に祀られている法具「蛙火娑杜宮の御剣あかさとみやのみつるぎ」の鞘がカタカタと鞘鳴りを起こすという異変を起こしていたからだ。

この世界的な異常をその剣は予兆していたのか、と圭吾は今更ながら感嘆した。しかし、となると彼女の予言が気になる。

彼女は以前こう言っていた。


「蛙火娑杜宮の御剣は飛鳥時代に作られた剣やねんな、鉄隕石を材料に鬼を切る為に鍛造された特別な剣なんやけど、随分昔の話やね。それでね、その剣は結果的に天武天皇てんむてんのうに密かに献上された法具らしいんやけど、後に安倍兄雄あべのあにおっていう爺さんが猛毒を吐くオオムカデを斬って一度は錆び付いたのだけど、打直して、その後、安倍晴明の爺さんが無鬼と言われる鬼を封印する為に使用したとされてるねん」

そこまで一気に言って紗綾はお茶で口の中を湿らせた。

「なんつーか、剣の名前がどうしても覚えられへんが、まあ、それはさて置きなんで封印なんや。殺せない理由でもあったんか?」

「あの無鬼は殺せないらしいんや。なんや、アンデッドとかいうの?」

「死なない化物でも殺す弱点くらいあるやろ、吸血鬼なら太陽の光とか樫の杭で心臓をガツンとってな具合に。どうよ?」

「それがね。文献によると無鬼は実態が有って無いようなものなんやて。見えるが触れられへん、蛙火娑杜宮の御剣を持ってしても駄目なんや。圭吾ならどう退治する?」

「んー、いや、まてまだ肝心なことを聞き忘れている。

なあ、そいつはどんな攻撃をしてくるんだ?」

「漆黒の霧やなぁ。包まれた最後、僅かな砂となって、風に吹き飛ばされるんや。まあ文献に依ればね」

「口から吐き出すんか?」

「なんでも、常に身に纏っているらしいしなぁ」

圭吾は、笑顔を浮かべようとして失敗した。マジだとすればヤバイ。頬が痙攣している。

「なんか俺には無理っぽいな…そんな気がするわ」


そして、鞘鳴りに不安を感じていた俺は、紗綾から退魔のクナイを1本もらっていた。

何も無ければそれでいい。何かあれば、俺に何ができるだろう…。

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