Relations of Two meanings
続いて、第八弾。
タイトルは『Relations of Two meanings』
英字タイトルが続きました。
尚、日本語訳としては『二人が在る意味、その関係』となります。
では、今回も御楽しみ下さい。
side:古河商事
「だから! それじゃ本末転倒でしょう!」
「いいえ、それは貴方の思い過ごしです。」
「貴女は考えなさ過ぎだ! これじゃ、リスクが大き過ぎる!
確かに得られる利益は莫大だろうが、本当にこれで承認を得られると思っているんですか!?」
「それをどうにかするのが、私の仕事です。何より、何事にもリスクは付き物です。
貴方は、少し臆病過ぎでしょう。慎重と臆病を履き違えないで下さい。」
怒声が飛び交っていた。
片や大声で、女性に喰って掛かる男性。
片や、声は大きくないものの、言葉は非常に辛辣な女性。
それを遠巻きに眺めてる人達がいた。
だがその表情は、ハラハラ二割、またか…という顔が八割、という具合だった。
どうやら、ここでは二人のぶつかり合いは日常茶飯事の様である。
「…まだ話は終わってませんよ!!」
「貴方と話した所で得られる物は、もうこれ以上何もありません。
私はこれから、この企画案を提出してきます。通常業務に戻って下さい。」
そう言うと、女性は何枚もの書類を抱え、部屋を出て行った。
すると、男性は「クソがッ!」と言いながら、女性の机を一回蹴った。
だが、誰もがそれを黙認していた。それは女性を嫌っている、という訳では決してなく、
寧ろ、それが或る意味通過儀礼の一つの様なものだからだ。女性もそれを知っている。
そんな風にカッカしている男性に、二人の男性が近付いて声を掛けた。
「相変わらず荒れてるねえ、高那。お前さんも、もう少し大人になったらどうだ?」
「……あの人は、自分の意見を押し通しすぎる。営業にはもっと引く事も大事なのに。
あれでは、あの人のみならず、この部署すら窮地に立たされかねない。
内外に敵を作るのは、最も好ましくない事だというのに。」
「まあまあ。嘉内部長を心配する気持ちは解るけど、取り敢えず今は落ち着こう。
もう提出されてしまったんだし、後、俺達に出来るのは部長のフォローをする事だけだよ。」
「……俺は、心配なぞしていない。俺の邪魔をされるのが気に喰わないだけだ。」
「「…………。」」
同僚らしき人に宥められても、高那と呼ばれた人は、一向に収まりが付かない様だ。
二人の同僚らしき人は、二人同時に肩を竦めて、呆れた溜息を付いた。
その後、無理矢理頭を切り替えた男性は、仕方なく女性が戻って来る迄、通常業務をしていた。
女性が戻って来た後、また二人が言い合いになったのは、最早御約束と言えよう。
side:自宅
そして、この日もいつも通り仕事を終え、先程の同僚二人と呑んだ後、
夜遅くに自宅に帰って来た男性。幸い、今日は金曜日。翌日は休みである。
そう思いながらも重い足取りで、取っ手に手を掛けた部屋の表札には、こう書いてあった。
『高那蒼空・――――』
右の名前には、真っ黒なペンで塗り潰した跡があり、全く文字が読めなくなっていた。
「…ただいま。」
蒼空は、以前からの癖で帰ると必ず、誰もいない部屋に向かってそう言っていた。
蒼空は、そんな自分に嫌気がさしながらも鞄をそこらに放り出すと、
リビングにあるソファーに寝そべった。そして、腕で顔を伏せながら、長い息を付いた。
そして……虚しい自身の心情を、誰にでもなく吐露した。
「……お前、一体何考えてやがんだよ……飛鳥。俺には、お前がさっぱり解んねえよ。」
嘉内飛鳥。今日、蒼空と口喧嘩をした女性で、彼直属の上司である。
実は、蒼空と飛鳥は元恋人であった。
だが、数年前、彼女の一方的な都合で別れる事を余儀なくされた。
その原因を蒼空は未だに知らない。だからこそ、その別れに未だに納得出来ないでいた。
その証拠として、今蒼空が住んでいるマンションの一室は、
以前彼女と付き合っていた際に同棲していた部屋であり、
彼女の部屋の内装も、全てその儘にしてあり、掃除も欠かさない様にしていた。
それ故、蒼空は今迄、一度も彼女以外の女性と付き合った事は無い。
自分でも未練たらしいとは思っている。だが、どうしても彼女の事が忘れられないでいた。
丁度そんな時だった。新たな人事異動で上司となって来たのが、嘉内飛鳥だった。
蒼空は驚愕を通り越し、文字通り『魂消た』。
しかし、何とか正気に戻れた蒼空は逆にほくそ笑んだ。これでやっと真相が聞けると。
だが、蒼空の思惑は悉く破れてしまった。
飛鳥は、蒼空の事を全て無かった事にしていたのだ。全くの他人として、彼と接していた。
最初は戸惑いの連続だった蒼空も、その内彼女の態度にも慣れ、
今では彼女と、部下と上司としてぶつかり合う毎日になっていた。
「……はぁ。幾ら考えても、サッパリ解んねえ。
……今日は疲れた。今日は考えるのやめて、さっさと寝ちまおう。」
そう小声で自分に言い聞かせると、蒼空は重い足取りの儘、
風呂にも入らず、スーツを脱ぎ、ネクタイを取り、そのままベッドにダイブした。
そして、目を瞑って少し経つ頃には、既にもう寝息を立てていた。
だから、全く気付けなかった。
彼が寝付いた少し後。誰かが彼の部屋の鍵を開け、侵入して来た事など、全く気付かなかった。
翌朝。
朝日の眩しさに目を覚ますと、何やらいい匂いがする。そして、いつもより温かい感じがする。
一体何だろう、と思い眩しい中、何とか目を抉じ開けた。
――暫くの間、思考が完全にフリーズしていた。
何時の間にか、自分の隣に女性が寝ていたのだ。
昨日、お持ち帰りした覚えも無い蒼空は、何とか自分を落ち着かせて、
改めて女性の顔をじっとよく見た。
そして、蒼空は今迄の人生の中で一番驚いた。
「……すぅ……クゥ……むにゅ……。」
「………………あ、あす……か……?」
それは間違いなく、蒼空の悩みの種である嘉内飛鳥であった。
彼女は何時頃どうやって入ったのかは解らないが、何某かの手段を講じて蒼空の自室に入り、
こうして、蒼空と同じベッドの上で寝ていたのである。
ざっと彼女と自分の身体を見渡し、特に衣服が乱れているという事も無いと確認した。
どうやら、寝ている所を襲われても、寝惚けて彼女を襲ったりした事も無いらしい。
それを確認出来てホッとした所で、改めて色んな疑問が湧き上がって来た。
それらを聞く為にも、彼女には是非共起きて貰わねばならない。
今度こそ、絶対に逃がさない為に、念の為鍵も掛けておいてから、彼女を揺り起こした。
「……おい、飛鳥。飛鳥、起きろってば。
……そういや、こいつ休みの日は自分で起きない限り、梃子でも起きなかったっけ。」
今更ながら思い出した過去の経験談により、蒼空は彼女を起こすのを諦めて、
顔を洗い朝食を作る為に、寝ている彼女の横でささっと着替えてからリビングへと向かった。
「ふわ~あ……むにゅ……おはよう、そらぁ。」
「…………あ、ああ。おはよう、飛鳥。」
「あ、朝ご飯? 美味しそう……いただきま~す。」
「あ、こら。ちゃんと顔洗って、手も洗ってから食べろ。前から言ってるだろ?」
「む~……そら、うるさい。小姑みたい。相変わらずなのね。」
「喧しい。ちゃんと洗ってこなけりゃ、俺の飯は食わせんからな。さっさと行って来い。」
「は~い。」
何だか、昔みたいな遣り取りに思わず涙腺が緩くなってしまったが、
辛うじて彼女には気付かれなかった様だ。
涙を袖で拭いて、改めて二人分の朝食の準備に急いで取り掛かった。
「……ごちそうさまでした。」
「……おそまつさまでした。」
美味しそうに食べる飛鳥に、取り敢えずは何も聞かずに、昔みたいに二人で朝食を食べた。
そして、朝食も食べ終え、食後の休憩も終えた所で、ようやっと蒼空は話を切り出した。
「……それで? 一体どういうつもりなんだ?
他人様の家に勝手に上がり込んだだけでなく、ちゃっかり朝飯まで喰いやがって。
そもそもだな、俺は昔の事忘れた訳でも許した訳でもないんだぞ?
それにだな……!」
「あ~、はいはい。勝手に入った事は悪いと思ってるわよ、ごめんなさい。
朝食は美味しかったです。腕は衰えてないわね。ていうか、上がったんじゃない?」
「……そんな事はどうでもいい。そ・れ・よ・り・も、だ…!」
「はいはい、解ってるってば。色々と私の事情を聞きたいんでしょ?
まあ、そろそろ話しても大丈夫だとは思うんだけど……そうねえ。」
と、其処迄考えを口に出した所で、ニヤッと飛鳥が嫌な笑みを浮かべた。
蒼空は内心で冷や汗を掻いたが、事ここに至ったのならば、腹を括るしかない。
何でもいいぞ、どんと来い! そんな覚悟で飛鳥の言葉を待った。
だが、彼女の口から出た言葉は、蒼空の想像を超える言葉だった。
「それじゃ、今日から私、ここに住むわね。」
「…………………………は?」
「いいじゃない。どうせ、蒼空の事だから私の部屋、綺麗にしてくれてるんでしょう?」
「いや、まあ、それはそうだが……ってそうじゃなくてだな! お前、ホントに一体……!?」
「まあまあ、御互い積もる話は沢山ある事だし、そう慌てないで、ね?
大丈夫よ、今度はもう逃げないもの。あ、じゃあ、私荷物取って来るわね。
後で荷物整理手伝ってね、蒼空。じゃ、ちょっと行ってきま~す。」
そう言うと、彼女はパパッと身支度を整えると、さっさと出掛けて行ってしまった。
後に残されたのは、何が何だか訳が分からずポカーンとアホ面を晒している蒼空だけだった。
その後。それなりの量の荷物が持ち運ばれ、結局成り行きで手伝う事になった蒼空。
そして、やっぱり肝心な昔の事は外らかされ、何も解らず仕舞いだった。
その結果。結局引っ越して来た理由すらも解らず、誰にも何の相談も出来ずに、
決してバレてはいけない、何とも奇妙で怪訝な禁断の同棲生活が再び始まったのであった。
「良かったわね、蒼空。このマンション、防音設備がちゃんとしてあって。」
「……うるさい。朝っぱらから付き合わされた身にもなってくれ。もう、俺は寝る。」
「あら、またスルの? …私は構わないわよ?」
「……そういう意味じゃない。」
「……クスクス。」
如何でしたでしょうか?
今回はちょっとコメディチックに書いてみましたが、実際に書くとしたらドシリアスになります。
成分的には、シリアス:8、コメディ:2程度になります。
まぁ、最終的にはバカップルになるんですけどね。私ハッピーエンドが大好きなので。……リア充爆発しろ。
※以下は、小説内容と人物紹介です。
尚、最後の一人は今回の話には出て来ていませんが、物語のキーウーマンとなります。
主人公は古河商事に勤めている高那蒼空。
彼は、いつも自分の上司である嘉内飛鳥とぶつかり合ってばかりいた。
その様は、社内の誰もが二人は互いに最悪の相性で、此の上無く嫌い合ってると思われていた程だった。
しかし偶には、周りに「実は仲が良いのでは?」とさえ思われる様な可愛い口喧嘩をする事もあった。
何故なら、彼等は実は元恋人だった。だが、彼女からの一方的な都合で別れてしまった。
それ故、彼は未だに彼女に未練があり、以前彼女と住んでいた場所から離れる事が出来ないでいた。
これは、そんな不器用な二人の、二人だけの物語。
高那蒼空:主人公。27歳。俺。実績もあり最近益々メキメキと実力を伸ばして来ている。
そんな時、自分達の直属の上司となったのが、曾ての恋人である嘉内飛鳥だった。
始めは戸惑いばかりが先立ったが、彼女が自分との事を無かった事にしようとしているのに気付き、
彼は自身の気持ちを胸深く沈め、部下として毎日接し常にと言って良い程、殆どの事柄に於いて対立している。
嘉内飛鳥:ヒロイン。29歳。私。元恋人兼現上司。始めの内は蒼空のいる部署に行く事を是が非にも拒んでいた。
だが、結局は頷いてしまった。実は、飛鳥は蒼空の事がずっと忘れられずに、彼と別れた後も一度も誰とも付き合った事はない。
だが、どんな事情があったとしても自分には彼と再びよりを戻す資格は無いと考えている。
その為、蒼空の何気無い仕種や一言の度に、必死に勘違いしない様に自分自身に言い聞かせていたりする。
田淵浩二:蒼空の同僚。27歳。俺。二人の事情は全く知らない。
始めは美人の上司が来たと内心喜んでいたが、同僚で一番気の合う蒼空が彼女と対立している為、
中々飛鳥と御近付きになれない現状に忸怩たる思いを抱いている。
非常にチャラい外見からは全く想像出来ないが、実は蒼空と並んで部署内ではツートップの業績を誇っている。
佐藤宏:蒼空の同僚。27歳。俺。二人の事情は全く知らないが、何と無くそういう事じゃないかな? と薄らではあるが気付いている。
主に暴走しがちな浩二のストッパー役であり、蒼空と飛鳥がヒートアップする度に、
間に入って妥協点を探し、拾うのが日課であり、今や彼の職務でもある。
藍澤成美:飛鳥の友人。28歳。私。基本的に姉御肌で、特に後輩に頼まれると大概手伝ってあげる。
但し、全て肩代わりする事はせず、必ず自身にやらせる。自分自身はアドバイスするだけ、それが自分の職務であるとも思っている。
飛鳥達と同じ職場に勤めており、二人の事情を唯一知っている人物。
勿論、二人が未だ両想いである事も知っているが、それを態々教える程、野暮でも無ければ御人好しでも無い。
只、そんな彼女でも飛鳥の詳細な事情迄は知らないらしく、
親友である自分にも教えられないという彼女の事情を非常に心配している。
と同時に、それを解決出来るのも恐らく蒼空だけであろうとも確信している。