不人気者(ゆうめいじん)と人気者(いっぱんじん)
凡そ七ヶ月振りの恋愛小説ネタ。
今回からまた、一日一話。全四話程を連日投稿します。
何れも短いので、暇潰しにさらっと眺めて頂ければ幸いです。
して、第六弾のタイトルは『不人気者と人気者』
タイトルの意味は、中身を読んで頂ければ解るかと。
では、塩や醤油、ウドのコーヒー辺りを御用意の上、御楽しみ下さい。
side:三人称
とある所に、男の子と女の子がいました。
男の子は学校中でもとても人気で、誰からも好かれていました。
その男の子の名前は、巽俊久と言いました。
「お~いトシ~。今日、暇か~?」
「あ、統司。ごめん、ちょっと今日も用事があって。」
「何だよ~、最近付き合い悪いじゃね~か。なあ、深月?」
「うんうん。先週も一回も遊べなかったんだしさ。今週、一回ぐらいダメ?」
「…ホントにごめんね。土日も家族での用事があって……。
あ、来週なら多分空いてるから大丈夫だよ。」
「「しょうがないなあ~。」」
笑顔で別れる男の子とその友達。彼等は学校中でもとても人気がありました。
それを見てる女の子が沢山いました。
その女の子の中に一人……全くと言って良い程目立たない女の子がいました。
彼女は瓶底眼鏡に三つ編みという典型的な格好をしており、友達も余りいませんでした。
その女の子の名前は、霞百花と言いました。
「モモ~、か~えろ~。」
「あ、美央ちゃん。ごめん、今日はちょっと……。」
「え~……今日ってもしかして……アッチ?」
「あ、ううん、違うの。今日は、その……。」
「あ~、はいはい。愛しのあの人とですか。毎度ゴチソウサマですね~。」
「み、美央ちゃんってばぁ~!」
女の子は何やら誰にも言えない秘密を持っているそうです。
その女の子が友達と、真っ赤になりながら楽しそうに御話していると、
先程の男の子が、友達と別れて女の子に近付いて来て、声を掛けて来ました。
「百花、お待たせ。」
「あ、うん、きゅ……俊久君。」
「あ~あ、折角モモとの逢瀬を愉しんでたのに、旦那が来ちゃったか。」
「だ、だから、美央ちゃんってば~!」
「あ、アハハ; それじゃ、鶏内さん、またね。」
そう、男の子と女の子は、実は知り合いだったのです。
それも、一緒に手を繋いで帰るぐらい、とても仲良しだったのです。
それを見た皆は、二人の事をこう言いました。
『人気者と不人気者が一緒に歩いてる』と。
でも、二人はそんな言葉なんて全然気にしてません。
だって、これは二人にとっては当たり前の事。
昔からの、当たり前の事だったからです。
二人は、バスの中でも電車の中でもずっと一緒に手を繋いで帰りました。
既に通り道では名物になってる二人の光景は、誰をも微笑ましくさせていました。
そして、二人は家に着いてようやっと手を離してそれぞれの家に入りました。
「「ただいま~。」」
「「お帰りなさい。また、ひさ君(モモちゃん)と一緒に帰ってきたの?」」
「「うん。」」
実は、二人の家は隣同士。何と二人は幼馴染だったのです。
しかも、二人の両親もまた幼馴染。何十年も続く幼馴染同士の家系だったのです。
そして、二人は自分の部屋に戻りました。そして、二人は部屋着に着替えました。
そして、二人は自分の部屋の窓を開けました。そして、二人は御互いに挨拶をしました。
「お帰り、百花。」
「うん、お帰り、きゅうちゃん。」
そう、何と二人の部屋は隣同士。窓を挟んですぐ目の前にあったのです。
その距離はとても近く、ちょっと跨げばすぐ御互いの部屋に届く距離でした。
「ねえ、きゅうちゃん。今日ね、お父さんが遅くなるからきゅうちゃんちで食べておいでって。」
「あ、そうなんだ。じゃあ、おいで?」
「うん。」
そう言うと、女の子は窓と柵を越えて男の子の部屋へと来ました。
女の子は男の子の部屋に来ると、受け止めてくれた男の子に体重を預けました。
「えへへ~♪ きゅ~ちゃ~ん♪」
「はいはい、百花は甘えん坊だなあ。ほら、眼鏡危ないよ?」
「うん、ありがと、きゅうちゃん♪」
男の子は女の子の眼鏡を取って、自分の枕元に置きました。
女の子は眼鏡を取ると、とっても可愛い女の子に変身しました。
女の子は眼鏡を取って貰うと夕食が出来る迄ずっと、男の子に顔を擦り付け甘えていました。
その後、二人のお母さんが呼び付けに来る迄、二人でずっとベッドの上でゴロゴロしていました。
「あらあら、相変わらず仲が良いわねえ。」
「若いっていいわよねえ。」
「「……///」」
どうやら男の子のお父さんも帰りが遅いらしく、今日は二人のお母さんと二人での夕食です。
いつもの事でしたが、いつも通り仲良くゴロゴロしてた甘々空間を目撃した二人のお母さん。
これまたいつも通り、二人のお母さんに二人が揶揄われていました。
丁度そんな時でした。夕食中に付けていたTVで、とあるCMが始まりました。
「あら、あらあらあら。」
「あ、これ…。」
「そう言えば、今日から新CMに変わるんだったわね。……中々いい出来じゃない。」
「うん、可愛いね。」
「……///」
そのCMは、とある化粧品のCMで、宣伝してたのはとても可愛い女の子でした。
その女の子について褒められると、男の子の隣に座っていた女の子は、
とっても真っ赤になって照れ捲っていました。
でも、此の場にいる人達はみんな、その理由を知っていました。
「で、御本人としてはどんな感想? 『霧澤千歌』ちゃん?」
「う~……あ、あの、とても可愛く撮れてるとは思う、けど……やっぱ、恥ずかしい///」
そう、学校では不人気と呼ばれている彼女は、社会に出ると一転。
実は、女の子はアイドルだったのです。
そして、学校では大人気な彼は、社会に出ると只の一般人になってしまうのでした。
「でも、やっぱり、物凄く可愛いよ。僕は好きだな、このCM。」
「あ、ありがとう、きゅうちゃん。」
「あらあら、本当に御馳走様ね。じゃ、食器は片付けておくからもうお風呂入っちゃいなさい。」
「何なら、二人で一緒に入ってもいいのよ? お母さん達、二人して暫く外に出掛けちゃうし。」
「も、もうっ! お母さんってば!」
真っ赤になって揶揄われている女の子に一言断って、男の子が先に入りました。
その後で女の子が入り、代わりに男の子がお母さん達に揶揄われていました。
そして、お風呂から上がった女の子は、男の子が待ってくれている彼の部屋へ行きました。
「きゅ~ちゃん、ただいまっ。」
「お帰り、百花。ほら、こっちおいで。髪の毛拭いてあげる。」
「うんっ♪」
女の子は嬉しそうに、男の子の脚の間に挟まれる様にちょこんと座りました。
男の子はタオルを手渡され、楽しそうに女の子の髪の毛を丁寧に拭いてあげました。
その後はいつも通りに二人は過ごしました。
男の子は女の子を後ろから抱き竦める様に、そっと抱き締め。
女の子は男の子に甘える様に、自分の身体を後ろにそっと預け。
男の子は女の子のお腹に手を回し、より自分に引き寄せ。
女の子は男の子の腕に自分の腕を重ね合わせ。
男の子は女の子の首筋に息が当たらない様に顔を埋め。
女の子は男の子の邪魔にならない様に頬と頬をくっ付けながら。
「……百花。」
「ん……きゅうちゃん。」
何と驚く事に、これでもこの二人、未だ恋人ですら無かったのです!
(百花……多分、未だ優しいお兄ちゃん的な人としか見てないんだろうなあ。)
(きゅうちゃん……多分、未だ甘え盛りの妹的な子としか見てないんだろうなあ。)
どうやら、二人共中々盛大に勘違いしている様です。
でも、二人の両親も、二人の友達も、誰もそれを教えてあげようとはしません。
いつか気付く日を、今か今かとニヤニヤしながら待っているのです。みんな意地悪いですね。
「……そろそろ寝ようか、百花。もう夜も遅いし、ね?」
「……うん。明日は、一日中ずぅっと一緒にゴロゴロしてようね、きゅうちゃんっ♪」
「……うん。ほら、おいで?」
男の子は、こういう時の為に予め用意してある、二人用の枕を取り出し、
女の子が少し面積多めに取れる様にしてあげてから、女の子を手招きしました。
女の子は、男の子のそういう優しい気遣いが大好きで、嬉しそうに男の子の側にいきました。
女の子が寝転がると、男の子は布団を掛けてあげました。背中迄しっかり掛かる様にです。
すると、女の子はより男の子にピッタリくっ付く様に近付きました。
すると、男の子も女の子を抱き締め、二人してより枕の真ん中に来ました。
「…えへへ♪ きゅうちゃん、温かい♪」
「…うん。百花も、凄く温かい。」
そうしている内に、女の子は直ぐ寝付いてしまいました。女の子はいつも寝るのが早いのです。
それを確認する為に、男の子は決して痛くならない様にそっと女の子の頬を摘みました。
でも何の反応も示しません。女の子は一度寝付くと中々起きないのです。
それを確認すると、男の子は女の子の耳元で囁きました。
「……ねえ百花。あんまり、そうやって僕に無防備な姿をずっと見せ続けちゃうと、
いつか、本当に襲っちゃうからね? ……お休み、可愛い僕だけの百花。」
そう言うと、男の子は女の子の頬にそっとキスをしました。
擽ったかったのか、少し身動ぎした女の子に微笑みながら男の子もそっと眠りました。
男の子は、いつも自分を頼って甘えて来てくれる幼馴染の女の子が大好きでした。
女の子は、いつも自分の傍に居て優しくしてくれる幼馴染の男の子が大好きでした。
これは、そんな二人の、可愛くて優しい、恋物語です。
如何でしたでしょうか?
多分、今回の四話分と前回の五話分の全てを合わせても、
この話が一番糖分がえげつない事になってると思いますw
※以下は、毎度御馴染み、小説の内容と人物紹介です。
クラスは愚か、学校でも大人気な巽俊久。クラスは愚か、学校でも誰も知らない霞百花。
所が、社会に出るとその立場は一転、真逆になる。何と実は、百花はアイドル『霧澤千歌』だったのである。
それを異性で唯一知っていたのは、幼馴染であり家も隣同士である俊久だけであった。
互いに、互いへの恋心を抱いているとは知らずに、御互いにしっかりと支え合っている幼馴染達と、
それを遠巻きに眺めてニヤニヤしている友人達。
これは、そんな不人気者と人気者との恋物語。
巽俊久:主人公。高校二年生。僕。百花。幼馴染。百花に惚れている。
自分達の両親と百花に頼まれ、彼女がアイドルである事を誰にも話さずに隠している。
尚、百花とは窓を挟んで隣同士の部屋であり、よく窓越しに話をしている。
百花に甘えられる度に、自身の理性と戦い続けている紳士でもある。
霞百花:ヒロイン。高校二年生。私。きゅうちゃん。実はアイドル。三つ編み・瓶底眼鏡。俊久が大好き。
自分の母親の紹介でアイドルデヴューが決定し、学生とアイドルの多忙な二重生活を送っている。
疲れるとほぼ必ず俊久に甘えにいく。その度に窓を飛び越えて俊久の部屋に一日中入り浸り、毎回俊久に抱き締めて貰うのが好き。
霧澤千歌:ヒロインのアイドル時。年齢公開。私。歌って踊れる。
過密スケジュールではあるが、学生だからと勉学を最優先させて貰っている。
卒業後は大手事務所との専属契約が既に決まっている。
各務深月:俊久の友人。僕。名前からは判り辛いが歴とした男。
名前を初めてカッコイイと言われ、更に一目で男性だろうと言ってくれたのが俊久で、それ以来の友人。
見た目はどうみても美少女。本人も細身で、男性用よりも女性用の服の方が丁度良い。
只、本人には女装癖は全く無く、主にボーイッシュな女性服を好む。それ故か、名前も相俟ってよく女性に間違えられ易い。
久里郷統司:俊久の友人。俺。出身地では地主の息子であり、何れその地位を継ぐ事が決まっている。
今はその間の言わば自由時間といった所。名目上は地主としての見聞を広める為となっている。
最初は御多分に漏れず、深月を女性だと思っていた。今では謝罪し仲直りしている。
鶏内美央:ヒロインの友人。私。千歌の正体が百花だと知っている唯一の同性友人。
深月と統司が自分に惚れている事も知っている、或る意味小悪魔的存在。
それ故か、俊久からは非常に苦手意識を持たれている。勿論、当人もそれを知っていて態とそう接して遊んでいる。
只、俊久からは「あの百花の友達なんだから、本当はとても優しい良い子だと思ってる」と評されている事は、知らなかったりする。