生徒会長《これ》が僕のお義姉さん《こいびと》
続けて最後の第五弾。
タイトルは『生徒会長が僕のお義姉さん』。
才色兼備な生徒会長。マスコット以外の何物でもない書記兼雑用係。
老若男女問わず人気のある二人の、学校と家庭での二重生活。
基本的に無口な友人も交えてのバカップル話です。それでは、どうぞ御楽しみ下さい。
『生徒会長が僕のお義姉さん』
side:三人称
スタスタ…… スタスタ…… トコトコトコ…… トコトコトコ……
とある男女が廊下を歩いていた。一人は普通に。もう一人はその後を追う様に忙しなく。
彼の前を歩く女性は、誰の目も惹き付けずにはいられない程の端麗な容姿で。
そして、真昼の燦々と降り注ぐ陽光に照らされ、その光が反射して輝く真黒な長髪を持ち。
威風堂々と誰憚る事無く闊歩していた。
一方。そんな彼女の後を、荷物を落とさない様にと必死に追う彼は……小さい。兎に角小さい。
丸で小学生かと見紛うばかりの身長。紅葉の様と称される程のこじんまりとした手。
何より、小学生と見間違えられる最たる理由でもある、その童顔の主張っ振りは半端無かった。
そんな可愛らしい子供の様な男の娘が、彼女の後をトコトコと追っていた。
そして、そんな二人の様子を見付けた女子達が騒ぎ始め、
何時もの様なお祭り騒ぎの如き野次馬が一瞬で大勢集まり出し、彼方此方で大混雑していた。
そんな騒ぎに、気になったとある男子が近くにいた同級生に事態を訊ねた。
「……なんだ? 何でこんな急に騒がしく…………あ、なあなあ。これ一体どうしたんだ?」
「え? どうしたって、ウチの高校でこんな騒ぎが起きると言ったら、アレしかないだろ。」
「アレ? 悪ぃけど、どういう事か教えてくんね? ちょっとよく分かんなくてさ。」
「へ? お前、アレも知らないでウチの高校に何か月もいたの?」
「あ、ああ。……そんなに有名な事なのか?」
アレと言われても知らないものは知らない。どういう事かと再度訊ねた男子A。
呆れたね、と肩を竦めながら人差し指を立て、得意気満点な顔付で解説し始めた男子B。
「そりゃそうさ! 何てったって、あの生徒会長とマスコットが並んで歩いてるんだからな!
もう全生徒・全教師からの注目の的なんだぜ?」
「生徒会長とマスコット? それがそんなに有名なのか?」
「まあまあ。百聞は一見に如かず。見てみれば騒ぐ訳も解るさ。」
其処迄薦めるなら、と男子Aは側の窓から騒ぎの元凶である長い廊下を眺めた。
三年棟から伸びる部室棟へと続く長い廊下を、件の二人が前後に並んで歩いている。
その二人《主に女生徒の方》を見ながら、男子は丸で憑り憑かれた様にボーッと眺め。
女子はずっとキャーッキャーッと黄色い歓声を上げ続けている。
「成る程……ここって、そんなにミーハーな奴が多いのか?」
「……分かってない。本当に君は何も分かってないね。まぁ、今まで知らなかったぐらいだし、
元来そういうものに興味が無いだけなのかもしれないけれど……。
まあ、あれだよ。一度でもいいから、あの二人の絡みを見てみればいいさ。
そうすれば、君も僕達が何故こんなに騒いでいるのか判るからさ。」
「……一度、ねえ。そういうもんかなあ……。」
熱く語る同級生に軽く引きつつも、窓の下の廊下を眺める男子A。
ならば、今度機会があれば見てみるかと漠然と思った彼であった。
丁度その頃。件の二人は黄色い歓声を後ろに浴びつつ目的地である生徒会室へと辿り着いた。
女子生徒が扉を軽く二度ノックし、誰も中にいない事を確認してから扉を開け、
二人一緒に部屋に入ると、生徒会長である自分だけが座れる筈の場所に、
とても良く見知っている誰かが、踏ん反り返りながら座っていた。
その誰かさんと目が合うと同時に、二人の間の時間は数瞬止まった。
その後、全く同時に何事も無かったかの様に、御互い座るべき席へと素直に戻って行った。
彼女は生徒会長の席に。誰かさんは副会長の席へと。うーうー唸る男子の声を背後に聞きつつ。
その彼が悪戦苦闘しながら、書類やら何やら入ってる箱と頑張っている最中、
徐に生徒会長が副会長へと、咳払いを合図に話し掛けた。
「――――さて、それで? 何か弁明の余地はあるかね? 入川靖美副会長殿?」
「…………ノ」
「……どうぞ。」
「…………座り心地、最高だった Σd」
「………………ハァ。全く、こいつは……。」
生徒会長が眉間を揉み解している間に、どうやらやっとこさ格闘戦も終了した様で、
肩でゼーゼー息をしながら、袖が長くて指先しか見えない小さな手を振り回しながら、
荷物を運んで来た彼が、此処迄来て初めて生徒会長に文句を言った。
「かいちょー! 酷いですよぉ~!
何でボクがこんな重い荷物持たなきゃいけないんですかー!」
「それは、君が男の子だからに決まっているだろう?
それとも何だ……アレかい? 君はか弱い女の子である僕に、
男の娘である君ですら重いと思う物を持たせると言うのかい?」
「う……それは……っていうか、今何かニュアンス違いませんでしたか!?
っていうか、か弱い!? 誰がか弱いって……!?」
「「気の所為(だ)。」それと……何か問題でもあるかい? 松本葵書記?」
「……もう、こんな時ばっか二人して気が合うんだから…………イイエ、ナンデモナイデス。」
がっくりと肩を落としている彼にニヤニヤする二人であった。……一瞬の羅刹の顔はさておき。
とまぁ、御互い息抜きも済んだと言う所で、改めて残りの書類を片付ける作業に移った。
今日は幸か不幸か、学校が午前様だ。もう既に授業も終わり、後は帰るか部活に行くだけ。
今から集中すれば、後二時間もあれば帰れるだろうと目算を立ててから三人で取り掛かった。
~二時間後~
「…………ふぅ~。こっちは何とか終わったぞ。靖美に葵はどうだ?」
「あ、こっちも終わったよ。靖美さんは?」
「……同じく。後、二人共、言葉。」
「あ! ご、ごめんなさいっ、会長に副会長!」
「っと、そうだった。こちらこそ済まん、松本葵書記兼雑用係。」
「うう……相変わらず嫌な肩書きだぁ~……orz」
クスクス……と忍び笑いをしつつ、皆の終わった仕事を改めて生徒会長が全て確認し終え。
間違いが無い事を再確認してから教室を閉め、職員室へと鍵と成果を提出しに行き。
三人揃って家路への帰途へと就いた。季節は夏。時間は昼過ぎ。まだまだ暑い時間帯である。
汗をだらだら流しながら、今日は駅で少し立ち話をしてからそれぞれ家に帰る事になった。
「…………今日は、ホントに疲れた。」
「本当に御苦労様だったな、二人共。」
「全くですぅ……。」
「…………処で、新條和子生徒会長殿&松本葵書記兼雑用係?」
「……ん? 何だ? 急に改まって?」「は、はい!?」
「…………………………。」
「……何だい、一体?」「な、何なんでしょう?;;;」
突然フルネーム+肩書きで呼んで来た、自分の友人兼副会長に嫌な予感がしつつも、
取り敢えず聞き返す二人。少し沈黙の時間が続いてたが、突然ニヤッと下品で嫌な笑みを作り、
人差し指と中指の間に親指を入れて抜いてを繰り返しながら、謎の単語を口にした。
「…………今日はこの後、H・O・T?」
「えいちおーてぃー?」
「……何が言いたい? い、いや、言わなくていい! 動きで大体判る!!」
「ひょっとしなくても・お【P-----】・タイム?」
「わわわわわわ//////」
「こ、こらっ! 女の子がこんな所でそんなはしたない事を言うんじゃない!!」
「…………ちぇっ。もう帰る。」
「ああ、ああ。さっさと帰ってくれ。それが何より僕達の精神衛生上、最善の選択肢だ。」
「…………ニヤニヤ。H・O・T?」
「だから、口にするなッ!!/// 指を動かすなァァッッッ!!!//////」
結局彼女の姿が電車に呑み込まれる迄、ずっとニヤニヤしっ放しだった。
全く……と、暑さの所為にした自分達の赤面顔の火照りを少し冷ました後、
二人揃って同じ方向へと歩き出した。
凡そ二十分程歩いた先に、一軒家が並んだ道が二人の前に開けた。
その道を少し進み、何軒か先の家の前に辿り着いた二人は少し辺りをキョロキョロしつつ、
知り合いが誰も周りにいない事を確認してから先に和子が入り、その後を追う様に葵が入り、
即座に鍵を閉め、二人揃ってようやっとホッと一息ついて、改めて御互い同時に口を開いた。
「「ただいまー!」」
「あら、御帰りなさい、和子、葵。今日は遅かったわね?」
すると、その声に反応して奥の台所から母親がひょこっと顔を出して、二人に声を掛けて来た。
と突然、今迄と雰囲気が丸で別人のものに変わった和子が、葵と一緒に母親に返事した。
「うん! 今日はね、ちょっと生徒会の仕事が多くて、靖美と一緒に片付けてたんだよ!」
「あらそう。二人共、お疲れ様。お昼はもう食べた?」
「「ううん、まだ。」」
「それじゃ、冷蔵庫に素麺が冷やしてあるから、果物と一緒に食べちゃいなさい?」
「「はーい!」」
二人仲良く元気に返事し、各々部屋へ帰って着替えて下りて来て、一緒に素麺を食べ始めた。
…………そう、一緒に、食べ始めたのだ。
「はい、葵。あ~ん♥」
「あ、あ~ん……モグモグ。」
「美味しい?」
「う、うん。美味しい、よ?」
「……えへへ~♪」
―――御判り頂けたであろうか? 最早何も語るまい。
そんな二人を台所からあらあらうふふと眺めていた母親が、
何かを思い出したかの様に、二人にニヤニヤ顔で話し掛けて来た。
「あらあら、相変わらず仲良いわね~♪ あ、ねえねえ、所で和子、葵?」
「なぁに?」「な、何……?」
「二人って、今どこまで進んでいるの? もう、Cまでイッちゃった?」
「ぶふうううーーーーー!!!」
「それがね、ママ。葵がすぐ恥ずかしがっちゃって、まだキスまでしか出来て無いんだよ。」
自分の子供達に恋人として何処迄進んだのかと問い詰める母親。
そして、それに嬉々として。いや寧ろ残念そうに正直に答える姉。
そりゃ、葵でなくとも噴き出そうというものだ。だが、その答えを聞いた母親は、というと。
「あらあら、それはいけないわねえ。和子、構わないから、今直ぐ押し倒しちゃいなさい?」
「いいの!?」
「構うってばぁぁっ!!
もう、どこの世界に義姉に義弟を襲わせる催促をする親がいるんだよっ!?」
「「ここにいるじゃない?」」
「…………本当にもう、この親子はぁ…………orz」
いいぞもっとやれ。ていうか寧ろ、今すぐヤレ。と親にあるまじき催促をする母親であった。
目を輝かす姉に自らの貞操の危機を目前にツッコミを入れるも、シンクロにあっさり敗北した。
そんなどう足掻いても絶望な状況下でも決して、好きにして、との一言は言わない葵であった。
「もう…………そんな事より、早く素麺食べちゃおうよ、和子姉。」
「その後は葵を食べさせてくれるのね! ありがとう、葵!」
「ふぇぇ!? い、い、一体、誰がいつそんな事言ったんだよぉ!!?」
「あらあらまあ♪ それじゃお母さん、ちょっと買い物行って来るわね。
そうねえ……大体、二時間ぐらいでいいかしら?」
「母さん…………b!!」「Σd 任せなさい!」
「もう……本当にこの親子は…………orz」
既に諦観の域に突入しようかという葵をさておき、母親はさっさと支度をして出掛けてしまい。
素麺も食べ終わった葵達はその儘、何時も通り葵の部屋へ連れ立って行き、
御互いベッドに腰掛けると、和子が徐に葵の方へと倒れて行き膝枕を堪能し出した。
毎度の事とは言え、普通逆では無かろうかと思いながらも、
触り心地の良い和子の髪を梳きながら、優しい笑顔を浮かべる葵であった。
そして、それを真下から眺めながら、こちらも綺麗な笑顔を見せる和子がいた。
それが、何分続いただろうか。何時迄もこうしていたいという欲求とは別に、
また違う欲求が働き始めた和子は、その体勢の儘起き上がって葵を押し倒した。
「うわっ!? ……わ、和子姉……?」
「ふっふっふ……あ・お・い♥ ん……。」
「んぅ……! …………。」
「……ふぅ。えへへ~♪ 葵、大好き~♪」
「う、うん……/// ぼ、ボクも大好きだよ、和子姉///」
「ぅん♪」
とまぁ、こんな感じで二人は母親が帰って来る迄、抱き合いキスをし合いながら、
ずぅぅぅっっっとイチャイチャし続けていたのであった。
「で。結局、俺の出番は全く無いんだな……orz」
「父さん……ゴメン。」
「あ、アハハ; パパ、ドンマイ! ファイトだよっ!」
「大丈夫よ、あなた。あなたには私がいるじゃない♪」
「……ああ、そうだな♪」
((やっぱり、バカップルは遺伝なのかなぁ……;;;;;))
と言う訳で、この話で一旦ネタ祭りは終わりです。
また、次のネタを思い付いたら続けて書きたいと思います。
さて、では改めて内容と人物紹介をば。
才色兼備な完璧生徒会長と、強制的に入会させられた雑用兼マスコット。
一見何の関係も無い様にみられる二人は、実は義理の姉弟。
外では完璧クール人間な義姉は家に帰れば一転。義弟にデレデレな甘えん坊へと早変わりするのである。
そんなバカップル全開の二人と、その事実を唯一知ってる副会長の心境も交えたラブコメ風日常ストーリー。
基本線は只のバカップルの殴り書き。但し、過去編は非常に暗い内容となる……筈。
過去編はぶっちゃけ、ノクターンでしか書けない様な非常に暗い内容です。
もしも、万が一連載する様な事があれば、これで初の18禁を書くかもしれませんね。
以下は各キャラのプロフィールです。
新條和子:ヒロイン。高校三年生。生徒会長。おっきい(色んな意味で)。僕っ娘。
男性恐怖症の気がある。中学一年の時に母親が再婚。
暫く荒れていたが、とある事件が切欠で今の性格に戻り、葵にベタ惚れになる事に。
葵と苗字が違うのは、他の生徒に下手に揶揄われない様にとの両親の配慮によるもの。
因みに和子が母方の姓。葵が父方の姓。
容姿端麗・成績優秀・文武両道・才色兼備を絵に描いた様な学校始まって以来の秀才。
松本葵:主人公。高校一年生。生徒会雑用兼マスコット。小っちゃい。ボクっ子。いや寧ろ、男の娘。
どんな縁かは誰も知らないが、生徒会長の肝煎りで強制的に生徒会に入会する事に。
一年次の今は単なる雑用が主仕事。でも基本的な役割は居るだけで皆の雰囲気を和ませる事。
実は義姉である和子の駄々によって、渋々入会した。
和子に比べれば劣るものの、実は彼自身も可成り優秀な模範的生徒だったりする。
和子から受ける、学校でのセクハラと、日常の性的アタックに可成り参っている。
入川靖美:高校二年生。副会長。二人の関係を知ってる唯一の人。
葵曰く「無口だけどとっても良い人」。和子曰く「最も弱みを握られてはいけない親友」。
表情はいつも無表情だが、内心では二人の関係に常にニヤニヤしてる。
何故か物凄い情報通。常に皆が欲しい最適な情報を瞬時に出せる。情報源は不明。