二重図書室《デュアルライブラリー》
続けて第四弾。取り敢えず、今はこれで打ち止めになります。
タイトルは『二重図書室《デュアルライブラリー》』。別に隠し扉があるとかそういう訳ではありません。
超朴念仁な彼。学校と学校以外とでの二つの顔を持つ少女。
そんな純愛バカップルの姿を、どうぞ御楽しみ下さい。
『二重図書室《デュアルライブラリー》』
side:俊充
これだけは包み隠さずに断言させて貰う。
俺はその時、確かに間違い無く確実に、彼女に見惚れていた。
夕陽が差し込む図書室のとある一角。そこに彼女は座っていた。
本棚の上に座るのは行儀が悪い、とかそんないつもの台詞は既に何処かへと吹き飛んでいた。
上履きを脱いで立てた片脚を本棚の上に置き、もう片方は本棚の前を宙ぶらりんとさせ。
その長い黒髪を惜しげも無く棚の上に乗せ、頬を立てた膝の上に乗せ、目を瞑っていた。
そうしている彼女は、まるで天界から降りて来た天使か女神の様で。
俺は文字通り言葉を失ったまま、そんな美しい彼女を呆けた顔のまま唯々見つめ続けていた。
「――――いつまでそうしているの? シュン。」
「――――! あ、ああ。わりぃ、リア。いや、何でもないんだ、うん。」
「……(クスッ)変なシュン。って、それじゃいつも通りだったわね。」
「…………ひっでぇなぁ。」
あら、本当の事でしょう? と可愛らしく小首を傾げながら微笑む彼女は、本当に綺麗で。
…………今なら解る。写真家の人の気持ちが。芸術家(?)の人の気持ちが。
本当に美しいモノをいつまでも眺めていたいという心境が。良く、解る。
「(クスクス)……本当に今日のシュンは、いつもに輪を掛けて変ね。
ちょっとボーっとし過ぎよ?」
「あ、ああ、わりぃ。」
「もう……さっきからそればっかり。ま、いいわ。それで?
今日は一体、どんなお話を聞きに来たのかしら?」
「あ、ああ、そうだな。それじゃ今日は…………。」
彼女の説明をする前に、まずは俺の自己紹介をさせてくれ。
俺は、天坂俊充。一応、学校では人気者で通ってる……と思う。
そして、彼女はリア。…………実は俺もその名前以外は何も知らないんだ。
多分、ここの高校の生徒だとは思うんだ。高校の制服着てるし。
でも、先生達や他の生徒達に幾ら聞いても、リアなんて名前の奴はいないって言うんだ。
…………本当にこの娘は、一体誰なんだろう? ……でも、俺にはそれは聞けない。
だって、多分、いやきっと、それを聞いたら俺はもう二度とこの娘と逢えなくなる。
そう思うんだ。だから、俺は絶対に聞かない。
今、彼女と一緒にいられるこの時を、何よりも愛おしく。何よりも大事に大切にしたい。
…………え? ……ああ、そうだよ。俺は、この娘に惚れてる。一目惚れしたんだよ。
……あの日。図書室に忘れ物を取りに行った、あの時に…………。
まぁ、その話は今はいいや。で、今俺が彼女と何をしているかと言うとだな。
「ん~…………じゃ、これでいいや。」
「……あら。『ベニスの商人』ね。
これだけ有名なものなら、貴方も話の内容ぐらい知ってると思うのだけれど……。
本当にこれで構わないの?」
「あ、ああ。有名だからこそ、間違って覚えてるかもしれないだろ?
だから、その、これは復習だよ、復習。」
「はいはい。それじゃ、頑張って読み進めましょうか、ね。」
何してるかやっぱり判らないって? あ~、要はだな。
こういう純文学っていうのか? そういう本をだな。リアに訳して貰って勉強してんだ。
まぁ、勿論最初は只の口実だったんだけどな。リアに逢いたいが為だけの。
でもまぁ、ちょっとした訳があって、真面目に勉強しなくちゃいけなくなってな。
こうして、一挙両得って奴で、リアにお願いしてんだよ。何て言うか……事情様々?
そんなこんなで、今日もリアとの時間はあっと言う間に過ぎていってしまい、
また明日って事になったんだ。……一体、この関係はいつまで続けられるんだろうな。
せめて、俺が卒業するまでは彼女と一緒にいたい。
そんで、ダメで元々で、彼女に卒業式の日に告白して、精一杯振られて、さ。
そんな事を鬱々と考えながら、俺は今日もリアに逢えた事を感謝しながら家に帰って寝たんだ。
side:三人称 in 図書室
「…………てな訳でな。昨日は『ベニスの商人』を読んでみたんだ。」
「へ、へぇ……。そ、そうなんだ……。」
「ああ。それにしても、あいつホント、口巧いよなぁ。」
「で、でも、あれは本当は詭弁なんだから、ちゃんと真っ当にしないとダメなんだよ?」
「ああ、そりゃ解ってるって。真似なんか俺には出来ないし、したいとも思わないからな。」
「そ、そっか……。良かった……。」
「アハハッ! 何で、愛沢が心配してんだよ! 大丈夫だって! な?」
「う、うん。そうだよね。天坂君なら、うん、大丈夫だよね。」
「ああ、そういうこった。」
御判り頂け……ない? デスヨネー。
判り易く言えば、昨日リアと勉強した事をクラスメイトの愛沢茉理と話しているのである。
その茉理は、三つ編み・お下げ・瓶底眼鏡という三種の神器を揃えた典型的な文学少女である。
勿論趣味は読書。常に教室の隅っこをキープし、友達は本である。
俊充に話し掛けられている茉理は、人見知り故か。顔を赤らめ少し俯きがちに話している。
一方、俊充はそのほぼ対極にいる存在で、所謂クラスのムードメーカー。
先生からも生徒たちからも好かれ、愛される人格である。
茉理に話し掛けている彼は、まるで夢でも見ているかの様に彼女に熱く語り掛けている。
そんな全く接点の無さそうな二人が、図書室で仲良く御喋りしているのには、
それなりに深い(?)訳があるのだが、今は割愛しよう。
最初の頃は、当然の如く彼女にやっかみなどもあったのだが、
真逆彼女にそんな度胸もある訳無いと誰もが早々に判断し、幸いそういう事には至らなかった。
そんな傍目からは彼が一方的に話している様に見える二人を、
砂糖を吐きながら少し遠くから眺めている二人の男女がいた。
「…………ねえ、由樹。」
「…………解ってる。皆まで言うな、雫桜。」
「……でもお願い、言わせて。」
「……ダメだ。言わないでくれ。」
「………………何、あのバカップル。」
「だから言うなって!」
「…………図書室ではお静かに。」
「「あ、済みません。」」
司書さんに怒られた男の子。逢坂由樹は俊充の友人である。
そして怒られたもう一人の女の子。木下雫桜は茉理の友人である。
そして、この二人。恐らくお気付きだとは思うが、恋人同士である。
ここで恐らく、殆どの方は気付いていると思われるが、
あの二人は実は、この二人が引き合わせたのである。
その理由は、今は割愛しよう。正直メンドイ(マテ
所で。何故に今この二人が、バカップル滅べと、
自分達を棚上げにして呪いの言葉を述べているかと言うと…………。
「…………なあ。シュンの奴、本当にまだ気付いてないのか?」
「…………ええ、全く以て微塵にも、ね。まぁ、確かに普通は気付かないでしょ。
あの茉理が、理愛だなんて。」
「それにしたってだなぁ……。どんなに変装しても、好きな女の事ぐらい判りそうなもんだが。」
「……まぁ、あの朴念仁じゃ一生気付かないでしょ。恋してるって気付けただけでも大金星よ?」
酷い言われようだが紛れも無い事実なので由樹も
済まん、弁解は無理だったよ、シュン。と、心の中で、届く筈の無い謝罪を彼に向けた。
彼女が何故にそんな変装をしているかも、ここでは割愛させて頂く。だってめんd(ry
そう。事情を知っているこの二人の目から見た本当の姿は。
俊充は、リアが茉理と同一人物という事に全く気付かずに、
本人の目の前で本人への愛を熱く語り(但し俊充本人に自覚無し)。
茉理は、人見知りが激しいという事になっているが、
今はそういう訳で顔を赤らめている訳では無く。
自分の容姿の事を自分が惚れている人に熱く熱く語られ、
照れ照れになって顔を真っ赤にしているのである。
うむ、バカップルマジで滅べ。
これは、そんな超鈍感且つハイパー朴念仁極まる少年と。
茉理と理愛という二つの顔を併せ持つ少女と。
それを遠く外から眺め、時には手助けをする一組の恋人の。
図書室を舞台にした、純愛青春劇である。…………筈である。
「…………最後まで締まらねぇなぁ、オイ;」
「あ、アハハ…………;;;」
内容は、茉理と理愛という二つの顔を持つ少女。元気溌溂なムードメーカー少年。
その二人の友人達の計画による出逢いから始まる、図書室を舞台にした純愛話。
以下は各キャラのプロフィールです。
天坂俊充:主人公。渾名はシュン。クラスのムードメーカー。先生達の人気も高い。
由樹の友人。その縁で由樹の恋人の雫桜と、茉理を紹介される。
その前日に放課後の図書室で出逢ったリアに一目惚れしていた俊充は、
茉理と色々と話し合っていく内に、彼女にも惹かれていく自分との葛藤に悩み続ける。
その二人が同一人物と気付く事無く…………。
愛沢茉理:ヒロイン。三つ編み・お下げ・瓶底眼鏡の三種の神器を揃えた典型的な文学少女。
常に教室の隅の位置をキープし、一人黙々と読書している。しかしてその実態は…………。
彼女の本当の姿を知っているのは友人の雫桜とその恋人の由樹のみ。
放課後、とある場所で寛いで微睡んでいた所を俊充に目撃され……。
理愛:長い黒髪を惜しげも無く垂らしている美人。年齢不詳。リアと言う名前以外は全く謎の少女。
制服を着ていることから高校生かと思われるが、パッと見どう見ても大学生。
図書室で微睡んでいた所を俊充に目撃され、それ以降放課後のみの話相手に。
あらゆる知識が豊富。ちょっと電波ちゃん?
逢坂由樹:雫桜の恋人。俊充の友人。
雫桜に相談され、二人で色々と画策し…………。
木下雫桜:由樹の恋人。茉理の友人。
茉理の想いを知って二人を引き合わせるべく、由樹と色々と画策し…………。