迷い猫、拾いました
続いて第三弾。今度からは、活動報告には書いていない話になります。
タイトルは『迷い猫、拾いました』。オーバーランはしません。
冷静(?)にツッコム主人公と、御転婆猫娘との時々シリアスなラブコメ風な話です。
では、御楽しみ下さい。
『迷い猫、拾いました』
side:陽愛
「…………それで? 今日は一体何をやらかしたの?」
「む。只、部屋を訪ねただけで何かやらかしたと決め付けるのは、御主人様の悪い癖ですよ?」
「でも、そうなんでしょ?」
「残念でしたぁ♪ 正解は、これからやらかすんで~す♪ 主に御主人様の貞操的な意味で♪」
「御帰りはあちらです。」
「酷ッ!? それが決心して夜這いに来た年頃の女の子に向ける言葉ですかニャ?!」
「年頃の女の子は抑々、夜這いなんかしません。」
え? 行き成りで状況が判らないって? ……まぁ、僕も正直判らないって言いたいんだけどね。
先ず現状。僕は月見里陽愛。……そこ、読みづらいとか言わないで。
因みに今はベッドの中。もう深夜な為、当然布団を被って寝ていた所。
そして、今僕と会話しているこの娘は、朝海瀬莉菜。
何故か頭に猫耳のカチューシャを着けている、この月見里家唯一のメイドさん。
色々と込み入った事情があるんだけど、判り易く簡潔に言えば、この娘は実は拾得物である。
そんな拾い猫な彼女が、何故か半分以上服を肌蹴させ、何故か僕の布団の中に潜り込んで、
何故か僕の上に乗っかって、何故か僕を性的な意味で襲おうとしていた。
そう。僕が彼女に襲われているのだ。
勿論、彼女の部屋はちゃんと用意してあるし、既に彼女専用の私室となっている。
ベッドだって彼女の要求した通り、僕のソレよりも大きくふかふかな物に買い替えてある。
しかし、彼女は何故か今、僕の部屋にいる。
「…………それで? 今夜は一体何のつもりだい?」
「……え~? だぁかぁらぁ~♪ こうして御主人様を襲いに……。」
「瀬莉菜。身体が震えてる。…………また、ヤな夢を見たのかい?」
「あ、アハハ……。やだなぁ……ひよりんには何でもお見通しなんだね。」
「……ひよりんって言わない。…………しょうがないな。ほれ、おいで?」
どうやら、彼女は何処かの何かから必死に逃げ出して来たらしい。
今でもその時の事を悪夢として見る事があるらしく、
そういう時はこうやって誰か(主に、ていうか僕だけだけど)が、
一緒に側にいて眠ってくれないと、どうやら眠る事自体が出来ないらしい。
……それを知ったのは、彼女が一週間程寝付けず寝不足で倒れた日だった。
「…………ねぇ、陽愛。今、何考えてたの?」
「……え? ……ああ。瀬莉菜が寝不足で倒れた日の事だよ。あの時は本当に驚いたからさ。」
「……ぅん、あの時は黙っててごめんなさい。それに今更だけど、拾ってくれてありがとう。
本当に陽愛には心の底から感謝してる。」
「……本当に今更だね。まぁ、僕も気紛れではあったんだけどね。でもいい拾い物だったよ。」
そう。僕が彼女を拾ったのは、とある土砂降りの日。
ちょっと用事で出掛けて、帰って来る頃にはスコールかと見紛うばかりの激しい雨が降っていた。
その中を傘を差しながらずぶ濡れになりながらも家に帰り着くと、自宅の門前にナニカがあった。
ソレは身動ぎ一つせず、ただグッタリとそこに横たわっていた。
僕は最初ソレが人だとは気付けなかった。
気付いた時には、ずぶ濡れになっている事なんて気にもせず、
倒れ伏して身動き一つ出来なかった彼女の許へと思わず駆け出していた。
そして、急いで自宅の中へと担ぎ込み、我が家唯一の執事である理人に頼んで、
彼女の治療をして貰った。自称万能執事である彼は、医師と救急救命士の資格も持っており、
即座にその場で出来る救急手当てをし、近くの病院に運んで貰い何とか一命を取り留めた。
そして彼女は助けて貰った恩返しと言って、我が家で住み込みのメイドとして働く事となった。
そんな数か月前の事を、僕の腕枕に頭を預けながら、
僕の身体に獅噛み付いている小さな身体を抱き締め返しながら思い出していると、
胸の中から小さな可愛らしい寝息が聞こえた。……どうやらやっと寝入った様だ。
「…………やっと寝入ったみたい。心配しなくてももう大丈夫だよ、理人。」
「――――フン。誰がそんな小娘の心配なぞするか、バカ陽愛。」
僕は、彼女が完全に寝入った事を、彼女の頬を軽く引っ張りながら確認し、
僕の背後の壁にいる気配に話し掛け、彼もそれに応えた。
「あれ? 僕は、僕の心配をしてくれたのかと思ったんだけど……そっか。
理人は瀬莉菜の心配をしてくれてたのか。」
「……チッ。勝手に祝ざいてろ、ドアホウが。」
「クスクス……相変わらず素直じゃないなぁ、理人は。」
「ウルセェぞ、ドクズが。黙らねぇなら、その臭ぇ口をドリルとネジで縫い付けるぞ?」
「……本当、相変わらず言葉が汚いね。」
鶴見理人。大体、僕と同じぐらいの歳で、僕を除いたこの家唯一の住人。
何故か、瀬莉菜を住み込みで働かせる事に積極的だった。
何でも自身の手足となる下僕が欲しかったらしく、格好の標的だったらしい。
因みに。こんな彼だが、実は恋人がちゃんといる。
あんな御嬢様が何で彼に惹かれたのかは激しく疑問なんだけど、彼曰く。
「あ? あいつは生粋のドMだからな。俺とは相性がいいんだよ。色んな意味でな。」
……うん。深く聞くのはやめておこう。その僕の英断を誰か褒めてくれないかな?
そんな事はさておき。その後、理人は何も言わずに扉をそっと閉め、静かに退出した。
…………流石は自称万能執事。心配りも完璧だ。後はあの言葉遣いさえ完璧だったら……。
そんないつもの下らない事を考えていると、流石に僕にも眠気が襲って来た様で、
側に居る温かく柔らかい体温に誘われる儘に、素直にそのまま僕も眠りに落ちた。
side:???
「…………傷の舐め合い……か。
これで少しは、あいつも女への興味を持ち直してくれるといいんだがな。
ったく……相変わらず、世話の焼けるお坊ちゃんだぜ。
一応、あいつロリコンの気もあるから、アレでも大丈夫だとは思うんだがなぁ……。
ま、後は時間が何とか解決してくれるだろ。それじゃ、俺は仕事の続きといきますかね。
…………アイツが一体何者なのか。そして、何から逃げて来たのか…………。
それを調べ尽くし、あのお人好しのお坊ちゃんを幸せにしてやる為にな。」
窓から差し込む月明かりは、似た様な傷を持ち共に抱き合う二人を優しく包み込んでいた。
その二人の幸せを願う、誰よりも優しい心の持ち主の笑顔を、なお綺麗に照らしながら。
今迄がずっと只のバカップル話。今度はちょっと暗めの話もありな話です。
大体、7(ラブコメ):3(シリアス)ぐらいの配分を心掛けて。え? 配分が逆だろって? こまけぇk(ry
主な内容は、迷い猫と天涯孤独な独り身とのラブコメ風時々シリアス?
以下は各キャラのプロフィールです。
月見里陽愛:文学青年。但し護身術は人並み以上。成人ではあるが年齢不詳。
両親の不慮の事故により莫大な遺産を受け取る事に。ぶっちゃけ一生働く必要が無いぐらい。
その遺産でそれなりに大きめの家を買うも、執事との二人暮らし。
そんな雨降り模様の或る日、門前に倒れ伏している瀬莉菜を拾う。
朝海瀬莉菜:御転婆ドジ猫娘。月見里家初のメイドさんとして陽愛の家で働く事に。
どうやら何処かから逃げ出して来たらしいが、年齢含め詳細は不明。
何故か漫画やアニメ等、二次関係の知識は圧倒的に豊富。
鶴見理人:執事。通称セバスチャン。命名は瀬莉菜。歳は陽愛とどっこい。
超有能で超毒舌。実はドMの恋人在り。「何だかんだでバカップル(談:陽愛)」だそうな。