葬儀
死。
死は、いずれ誰にでも訪れるものだ。だが、ケネディにとって、それは少し早すぎた。彼自身ではなく、彼の最愛の人に訪れたのだ。
ケネディにとって、たった一人、自分を気にかけてくれた存在――アマイ。
風が強く、雨が降るあの日のような日なら、ケネディはいつも通りゲームをしたり、アニメを一気見したりしていただろう。だが、その日は普通の日ではなかった。
彼は硬くて座り心地の悪いプラスチックの椅子に座り、アマイの家族が彼女の死を嘆く声を聞いていた。だが、彼はそれに耳を傾けてはいなかった。ただ、かつて自分を愛してくれた女性を見つめていただけだった。
彼女はもともと色白だったが、今はそれ以上に青白かった。長くて真っ直ぐな金髪は乱れ、かつて輝いていた青い瞳には、もう命が宿っていなかった。
以前の彼女が放っていたあの輝きを思うと、この光景はあまりにも悲しかった。
「ケネディさん、あなたの番です」
ぼんやりとアマイの遺体を見つめていたケネディは、そこにいた神父に声をかけられ、スピーチをするよう促された。
他の人たちとは違い、ケネディは何一つ準備していなかった。何を話せばいいのかも分からなかった。そもそも、なぜここに来たのかさえ分からなかった。
おそらく、アマイの家族に失礼なことをしたくなかった、それだけの理由だった。
木製の棺に押し込められた彼女の身体を見るのは、彼にとって耐えがたいものだった。
その視界から逃れるように、彼は椅子から立ち上がり、壇上へと向かった。
スピーチをして、アマイは埋葬され、そして家に帰る――それだけが、今の彼の望みだった。
壇上に上がり、神父からマイクを受け取ると、彼は即興のスピーチを始めた。
「……皆さん、こんにちは。僕はケネディです。アマイの恋人でした。
正直言って……本当に辛いです。彼女は、僕にとってすべてでした。文字通り、すべてです。
子どもの頃から、誰も僕を気にかけてくれませんでした。友達も、恋人も、何もなかった。
でも、アマイが学校に転校してきた。彼女だけが僕に話しかけてくれた。学校中で、僕と話してくれたのは彼女だけでした。
そして、いつの間にか付き合うようになって……それが、思っていたよりもずっと長く続いた。
彼女は、僕のすべてでした。彼女がいなければ、僕は今ここにいなかったと思います。
……分かりますか?
でも、その彼女は死んだ。じゃあ、僕はどうすればいいんですか? 僕の人生は、これからどうなるんですか?」
アマイの遺体から漂う腐臭が、次第に強くなっていった。それに苛立ちながらも、ケネディは話すのをやめなかった。
「あなたたちには分からないでしょう……。
学校で、何年も何年も一人ぼっちで過ごして、アルコール依存の父親と、壊れてしまった母親と生きてきた僕の気持ちが。
アマイは、僕の世界を照らしてくれたんです!
それなのに、今から彼女は土の中に入れられる!
彼女がいなくなって、僕はどうすればいいんですか!? どうすればいいんだよ!?」
腐臭は彼の我慢の限界を削っていったが、それでも彼は止まらなかった。
「どうせ、あなたたちにとって彼女は大した存在じゃなかったんでしょう!?
あなたたちにとっては、ただの取るに足らない存在だった!
でも、僕にとっては、彼女が世界そのものだったんだ! 分かるか!?」
そう叫び、彼はスピーチを終えると、マイクを床に叩きつけた。
自分が“ただの誰か”ではないと示したかったのだ。
そして――どうやら、それは成功したらしかった。
その直後、ケネディはその場から逃げ出したいという衝動に駆られ、実際に走り出した。
これ以上、あの姿の彼女を見ていられなかった。
雨の中を走り、顔に水が当たるのを感じた。最初は雨だと思ったが、口に入ったとき、塩辛い味がした。
それが雨ではなく、涙だと気づいた。
特別に整えた髪は、またぐちゃぐちゃになっていた。
墓地の門までたどり着いたとき、背中のシャツを引っ張られる感覚がした。
振り向くと、そこにはアマイとそっくりなシルエットが立っていた。
だが、よく見るとその目は緑色だった。彼女の妹、イモだった。
「どこ行くの? まだ式は終わってないよ」
「……もう、アマイの身体を見たくない。
あれが、彼女の最後の姿だなんて……耐えられない」
「……そう」
「で、君は? なんで外にいるんだ?」
「墓地の中は喫煙禁止だからさ。仕方ないでしょ」
「……まだ、タバコやめてなかったんだ」
「何年もやってきたことをやめるのは、簡単じゃないよ。
16歳の頃から、こっそり吸ってたし」
「……人生を無駄にしてる。まだ若いのに」
「ちょっと! 私、あなたより二歳年下なだけなんだけど」
「アマイは、こんな君を見たくないだろうな」
「アマイだって、あなたが子どもみたいに泣いてる姿は見たくないと思うよ」
「……その通りだ」
二人は、短く笑った。
「ねえ、一本どう?」
イモはそう言って、タバコを差し出した。
「……一度も吸ったことないけど。
まあ、何事にも初めてはあるか」
彼はタバコを受け取り、イモのポケットからライターを取った。
火をつけようとしたが、雨で消えてしまう。手で覆って、もう一度火をつけた。
煙を吸い込んだ瞬間、激しく咳き込み、タバコは口から落ちて地面に転がった。
「どうでしたか?」
「なんてひどい取引だ!どうしてこんなのが気にいれるんだ?」
「そのうち慣れるよ」
「どうでもいい……。とにかく、最悪な一日だ」
「ほんとね」
「じゃあ、行くよ。たぶん、もう会うこともないだろうし。会えてよかった」
「こちらこそ」
二人は軽く微笑み、ケネディは手を振って車へ向かった。
車に乗り込むと、家に帰ってシャワーを浴びることだけを考えながら、エンジンをかけた。
家に着くと、母のショウコがいた。
46歳だが30代に見える外見で、茶色の髪を肩にかかるポニーテールにしている。
「どうだった? ……ご愁傷さま」
「ありがとう。でも、最悪だった」
「……辛かったでしょう。分かるわ」
その言葉を聞いた瞬間、ケネディの中に強い怒りが湧き上がった。
だが、これ以上疲れたくなかった彼は、ただこう言った。
「シャワー浴びてくる。何かあったら呼んで」
「うん、ありがとう」
彼は階段を上がり、風呂へ向かった。
「“分かる”?
……誰を失ったと思ってるんだ。
ただの友達か? ふざけるな」
シャワーを浴びながら、彼は再び思い出していた。
青白く、酷い臭いを放つ、愛する人の身体を。
あの記憶を、二度と見ないように消し去りたかった。
「誰も分かってくれない……
誰も、俺を理解しない……
誰も、俺が失ったものを知らない……」
風呂を出ると、服を着てベッドに倒れ込んだ。
「……結局、彼女が死んだのは、俺のせいだ」
その瞬間、怒りと悲しみが限界に達し、彼は泣きながらベッドを殴り、蹴り続けた。
それは、約二時間後に力尽きるまで続いた。
「全部俺のせいだ!!
あの日、ここに呼ばなければ――!」
アマイは、ケネディの家へ向かう途中、交通事故で亡くなった。
暴走した車が、彼女の車に激突したのだという。
事故は三日前に起こり、それ以来、ケネディは毎日自分を責め続けていた。
「……せめて、もう一度会えたら。
一瞬でいい。謝るだけでいい。
死者を蘇らせる方法なんて……あるのか?」
「ケネディ!
ちょっとコンロ見てくれる!?」
キッチンから母の声が聞こえ、彼は呼ばれた通り向かった。
「私、シャワー浴びてくるから。
その間、オーブン見てて。十 分 後 に 消 し て ね」
「分かった」
母はそのまま風呂へ向かった。
「……十分か。タイマーかけとくか」
時間を待ちながら、彼は翌日のことを考えていた。
アマイがいない人生を、どう生きればいいのか分からなかった。
母は無職だから、彼が支えなければならない。
それでも、アマイを失った今、前に進む理由が見つからなかった。
……母に再婚相手を探す?
いや、最悪の考えだ。
父・ノムは、ケネディに似ていた。
短い灰色の髪で、ケネディだけが母譲りの茶髪だった。
父は、アルコールに溺れる前は良い人だった。
子どもの頃、ケネディにとって唯一の友達でもあった。
だが、職場でセクハラの冤罪をかけられ、解雇された。
必死に別の仕事を探したが見つからず、犯罪に手を染めた。
盗みと薬の売買。
母には再就職したと嘘をつき、酒に溺れ、暴力を振るうようになった。
ある日、仕事に出かけたまま、父は二度と帰ってこなかった。
再婚など、母にとっては悪夢でしかない。
そのとき、スマホのアラームが鳴った。
十分が経過していた。
彼はオーブンから鶏肉を取り出し、部屋に戻ろうとした――そのとき。
聞き覚えのある、優しく甘い声が、キッチンの別の扉から聞こえた。
「……ねえ」
振り向いたケネディが見たものは、決して見たくなかったものだった。
歪んだ姿。
虚ろな目。
青白い肌。
「……ありえない」
頬をつねっても、景色は変わらなかった。
夢じゃない。幻覚でもない。
目の前に、命を失ったはずのアマイの死体が立っていた。
「……なんだよ、これ……」
「もう一度、私に会いたかったんでしょ?」
事故で傷ついた声帯のせいで、彼女の声はひどく歪んでいた。
そして、彼女は最後にこう言った。
「――死んで」
皆さん、こんにちは!
『Tournament of Devil』を読んでくれてありがとうございます。
これは僕にとって初めてのウェブノベルで、読んで楽しんでもらえたら嬉しいです!
毎週日曜日に新しい章を投稿できるよう頑張ります。




