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きみのことは何でも知っている ― きみを護りたいと願ったら、大好きなきみはいなくなったTS  作者: 奏楽雅


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第29話:”美桜”の日記【12月10日】

"美桜"が居なくなって、数ヶ月が経つ。

今でもあの時を思い出すと涙があふれる。ポッカリと胸に空いた穴は決して埋まることはないだろう。


"美桜"は昴を守るという想いで真帆の中で目を覚まし、昴が死を回避したことで想いを遂げてしまった。

だが、同じ思いで美桜の中で目覚めた俺は"美桜"のように消えていない。

俺という存在、は"美桜"とどう異なるのだろうか…


今まで考えないようにしていたが。この身体の持ち主の美桜について考えないといけないときがきた気がしている…


切っ掛けは、レッスン後に一瞬意識を失ったとき。小さい美桜を見てから、最近よく夢を見るようになったからだ。

美桜になったときに、昴だったときの夢を見たように、”美桜”が居なくなって、美桜の子供時代、小学校、中学校と、俺の知らない美桜の記憶のようなものを夢に見るようになった。


美桜がどんな成長をし、何が好きで、何が嫌いか。悩み、希望、努力など、無数の扉の鍵が開けられ、一枚一枚開かれて行くような感じだ。

”美桜”が居ない今、この夢の答え合わせもままならない。だが、一連の記憶を俺は確かめないといけない。


クリスマスイヴコンサートを控え、時間を費やすことはできない。

とっかかりも掴めず身もだえしていると、Lineeにメッセージが入った。

スマホに目を落とすと、真帆からの連絡だった。

(そうだ、真帆がいた)

俺はすぐに真帆に連絡をとった。


***


12月22日、コンサートを明後日に控え、午後だけ、休養ということで時間を貰えた。

コンサートに関しては、もうするべきことは全てやった。後は俺が頑張るだけだ。


与えられた貴重な時間で、俺は真帆に会いに行く。


俺は初めて真帆の家を訪れる。

“美桜”は何度も来たことだろう、美桜の家の近くだった。


「未桜ー久しぶりー会いたかったよー」

真帆が涙を浮かべて迎えてくれた。

「よく時間取れたね、活躍TVで見てるよ」

「ありがとー」


夢の中にも真帆がよく出てくる。幼稚園時代の夢からだ。夢の答え合わせを手伝ってもらおうと思った。


「真帆も変わりない?」"美桜"が居なくなって真帆に影響が出てないかも心配だった。

「大丈夫。寂しくて泣くこともあるけど、私にはまだ美桜ちゃんが居るから」

と抱きついて来る。俺もそっと真帆を抱き返す。

夢の中で、俺は、真帆は抱きつき癖がある事を知った。


真帆の部屋に案内される。

ああ、この部屋…知ってる。俺は夢の中で幼い真帆と遊ぶ美桜の面影を見る。壁紙に桜の当て紙があった。

美桜が出来もしないバトンを振って穴をあけた跡だ。

そっと当て紙に手を添える。


「美桜ー」お茶で良いよねと真帆がペットボトルとお菓子をトレーに乗せて持ってきた。

真帆の飲み物はコーラだ。

(俺も…コーラが良かったのに)

このチョイスは真帆の記憶からくるものだろう。美桜は何時もお茶を選んでいたようだから。


「明後日クリスマスイヴコンサートだね」

「やれることはやったよ。後は当日を迎えるだけ。見に来てくれるよね」

「もちろん」

「待ってるよ」

「…んー疲れてそうだね。仕事忙しい?」

「うーん、結構ね。学校移ってから、仕事で日本中行ったよ」

「へー良いなー」

「いやいや、行くだけで観光とか出来ないからね」

「そうなの?」

「朝電車に乗って、着いて、テレビに出て、直ぐ電車なんてざらだよ」

「なんかつまんないね」

「真帆たちとの修学旅行が懐かしいよ」

「修学旅行、色々あったね、”美桜”もいたし…」

二人して目がうるっとしてしまう。


「美桜ちゃん」

「ん?」


「”美桜”から頼まれていたもの渡すね」

俺は心臓が止まりそうになる。

真帆は机の引き出しを開けると、日記帳を取り出した。


「いつか、美桜がここに来たら渡して欲しいって…」

恐る恐る、両手で真帆の手から日記帳を受け取る。

「”美桜”が?」

パラパラとめくると、見慣れた美桜の字と、代筆したらしい真帆の字でつづられていた。


「なんて?」

「”美桜”は、美桜がきっと、美桜の過去の確認にくるだろうからって…」


『昴、こんにちは。

たぶんこれを見てるってことは、私はもういないんだと思う。

私は幽霊みたいなものだから、きっかけがあれば消えてしまう存在だと思ってる。


クリスマス·イヴの夜、二人して死んじゃって。だけどそんなの認められなくて、昴が生きていて欲しいって願って、その希望がかなって、私の姿だったけど昴に逢えて嬉しかった。


いつまでも一緒にいたかったし、ずっと話していたかったし、一緒に旅行したかったし、大学も行きたかった。

キャンパスで一緒に部活するのもいいな。夏は海で、冬は山で、もっと遊びたかった。


芸能界入りを勧めてしまったこと、後で後悔したよ。


“美桜”のバカバカって。



さて、この日記帳は、過去日記です。


私が覚えてる小さなころからの日記です。


部屋にあった日記は見られちゃってると思いますが(ぷんぷん)


日記をつけ始める以前の私をここに残します。


真帆ちゃんに手伝ってもらってるので、ちゃんとお礼を言ってね。』


日記帳には、今日俺が知りたかった答えが記載されていた。


“美桜”は何を思ってこれを残してくれたのだろうか…


ときたま、思い出したように、書いていた時の気持ちの吐露もさしこまれている。


死にたくなかったこと…


ボートに乗った時に言っていた暗い場所にひとりでいたときの寂しさ…


なんでこんな運命なのか…


静かに横についていてくれる真帆を見る。


「それ、書いてるとき私も何度も泣いちゃって。紙を汚しちゃった。」


「最初はね遺書を書いてるみたいで嫌だって言ったんだけど…”美桜”がどうしても必要になるからって…」


「ごめん…真帆」


「最後のページを見て。」


真帆に促され、最後のページをめくる。


『この日記は、昴が美桜になるときに必要になると思っています。


たぶん、昴は幽霊の私とは違う存在だと思っています。


この世界の話を最初にしましたよね、私と昴の思いが作った世界だって。

だけどそれは間違い。

多重世界であることは間違いないだろうけど、この世界は元の世界とつながった世界だと思う。


美桜はたぶん、昴の生まれ変わり。


昴が私を助けたいと想って、転生した存在だと思う。だからこの世界で美桜はただ一人だけ。昴だけだよ。


だから、私が居なくなっても昴の願いは叶うんだよ。』


(!)

衝撃に言葉が出ない…


(俺が元々美桜?)そんなことあるのか?


『私はたぶん、昴の記憶が戻らなった美桜』


(ちょと何を…)


『私も最近になって昴の記憶があふれ出してるの…』


(……)


『だから、私と昴は付き合ってはいけなかった。』


『同じ存在だから、強く惹かれあうけど、一緒にはいられない存在。』


「”美桜”いったい何を言って…」


『でも、だからって、昴のことが大好き。』


『何度でも、何回でも私はあなたを好きになる。』


『いつか、いつか、どんな姿、どこの世界、どんな時代でもいいから一緒にいられるように、これが今の私の願い。』


『もうすぐ私は消えてしまう予感がしています、だんだん意識が薄くなっていてるの。』


「”美桜”…」


『最後にプレゼントを作ってるんだ…あの日渡せなかったもの』


『私が居なくなる前に出来上がると良いな…』


「ちゃんと貰ったよ、受け取ったよ。」


『昴、頑張ってね、いつまでも見守っているよ…』


『美桜から美桜へのエールでした。』


俺は、あの時涙が枯れたかと思ったが、大泣きしていた。


(どんな運命、どんな輪廻がこんなことを起こすんだ…)美桜に会いたい。


ふと鏡をみると、俺の泣き顔なのに、”美桜”が俺を応援してくれているようだった。


真帆も横で涙を流している。


美桜はこれを書いてるとき何を思っていただろうか…

こんなことになるなら、芸能界に入らず、もっと”美桜”の傍にいれば良かった。


俺の願いは美桜を守ることだ。その美桜は”美桜”だったじゃないか…


「俺はいったい何をしていたんだ。」


真帆が俺の頭を優しく抱く。


「真帆…?」


「昴。”美桜”が言ってた…」


真帆の柔らかさに、心のざわめきが穏やかに引いていく。


「もしこれを読んで、昴が後悔していたら…」


『あなたも美桜でしょ、美桜は諦めないよ。どんな姿、どんな世界、どんな時代だって、また出会うからね。だからそれまで頑張って』


「って」


『笑って美桜』


「ふふふ、”美桜”はなんでも知っているんだな。」


真帆の腕の中で俺は…


「”美桜”おれもまた君に会うまで諦めない、それまで頑張るよ。」


鏡の中の美桜が笑った気がした。


美桜は結局俺自身でもあり…”美桜”でもあったのなら、3人分(美桜、昴、”美桜”)の気持ちを持って生きていくことを誓う。


「もう結婚できないな俺は…」


「まあ出来るとしたら私とくらいかな」と真帆。「でも私は、今のツヴァイのものだからね。」


「そっか、残念。真帆も頑張ってね。」


二人で笑いあい、近況を報告した。


今も”美桜”が見守ってくれていると信じて…


第10話を書いた後、何を思ったかこの話を書いてしまいました。そのため、第11話以降に影響が出てしまいました…


ついに次の話で第一部が終了です。どうかお付き合いください。

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