話しかけてみよう
オレは、生徒会長の琥珀がどんな人間なのか、ずっと気になっていた。
ただの「神童」なんかじゃない。首席で運動もできて、生徒会長にまでなった。
だから、ある時ついに声をかけてみた。
「なぁ、オレ、葉って言うんだけど。橘って、生徒会長なんだろ?」
琥珀は顔を上げ、ほんの一瞬だけオレを見て、すぐに淡々と口を開いた。
「知ってるよ。叢雲葉君でしょ。……出席番号29番、叢雲葉君。算数の提出物がまだだから、早めに出してほしいな」
そう言うと、また視線を手元の書類整理に戻してしまった。
――手強い。
なんだ、この顔。感情が見えない。
だからこそ、崩してみたいと思った。
こいつの「焦った顔」を見てみたい。
簡単に言えば、オレは琥珀に興味を持ったんだ。
オレは自分の席に戻り、机の中をゴソゴソと漁った。
そして、しわくちゃになっていた算数の提出物を取り出して、琥珀の前に差し出した。
「これでいいんだろ?」
「……ありがとう」
一言だけ、静かな声でそう言った。
提出が遅れたオレが悪いのに、「ありがとう」ってなんだ?
琥珀はすぐに次の作業に移った。
「次は連絡帳の回収か……」と独り言を漏らす。
――これはチャンスだ。
オレはすぐに教卓に立ち、クラスメイトたちに声を張った。
「今から後ろから連絡帳回収するぞ! 前に持ってこい!」
渋々としながらも、クラスメイトたちはぞろぞろと教卓に連絡帳を積み上げていく。
それをオレはまとめて持ち上げ、琥珀に差し出した。
「はい、どうぞ」
琥珀は少しだけ眉を動かした。
「……頼んでないけど」
「一人でやると大変だろ」
そう返すと、今度はわずかに表情を緩めて――
「……ありがとう」
そう言った。
その瞬間、オレは思った。
琥珀は「神童」なんかじゃない。
ただ、人付き合いが少し苦手なだけの、普通のやつなんじゃないか――って。




