第一話 嘆き
勇者様は婚活したい
勇者になって早数年、大変な問題に直面している。
「どうした、トロイ?そんな深刻そうな顔して」
そういって俺に話しかけてきたのは、魔王討伐のため、共に旅する戦士のバラガン。最前線で俺と剣をふるい、どんな時でも余裕ある態度を崩さない、そんな頼りになる男だ。
「そうですよ。勇者ともあろうお方がそんな顔をしていては、人々が心配しますよ」
落ち着いた物腰で俺に諭すように言ってきた男は、魔法使いのルーメン。チームの後方からいつも俺たちを冷静にサポートしてくれる。どんな時でも的確な判断をしてくれるおかげで、最前線の俺たちが目の前の戦いに集中できている。こいつも頼りになる男だ。
「実はな、彼女が出来ないんだ・・・」
「「はあ?」」
「何言ってんだ?行く先々でいつもモテモテじゃねえかよ」
「そうですよ。その気になれば女性の1人や2人すぐに口説けるじゃないですか」
「確かに、行く先々で俺はモテる。仮にも勇者だからな。顔もそんなに悪くないし、強いし。」
「まあ、間違ってないですけど」苦笑いで答えるルーメン。
そう、俺は自他共に認めるモテる男なのだ。顔はいいし、何より勇者として善行を行っているおかげで、評判もすこぶるいい。だが、そんな俺でも彼女を作ることが一度も出来たことがない、なぜなら・・・
【なぜか、わからないけど皆に避けられちまうんだよ!!】
「ああ・・・」
「それは・・・」
「俺がなにしたっていうんだよ・・・」
思い出すのは勇者と任命されてから、訓練に次ぐ訓練の日々。遊んでいる暇などなく、ずっと厳しい訓練を続けてきた。地べたを這いつくばり、トイレに何度も駆け込み、それでもやってこれたのは、きれいな奥さんと結婚して甘やかしてもらうためだ!それなのに、誰かを助けると、なぜかみんなにさけられてしまう。助けた冒険者でさえ、一目散にどこかへ行ってしまう。俺の何がいけないんだ!?顔か!?やっぱり顔面力が足らないからなのか!?
「こいつもな、もう少し弱けりゃな。」
「そうですね。あまりに強すぎるのも酷なものです。」
二人は困った様子でつぶやいた。それもそのはず、勇者と呼ばれるトロイは強すぎるのだ。これまで幾度となく戦闘をしてきたが、苦戦したことなど一度もない。ましてや、怪我をしたこともないのではないだろうか。彼が剣を一振りすれば、どのような魔物たちも真っ二つに、空を飛ぶ魔物には、天変地異のような魔法攻撃を行う。国一番の剣使いバラガンと賢者と呼ばれる私でさえ、ついていくので必死なのだ。そんなだから、少し戦闘をすれば、民達は恐れおののき、冒険者たちは目も合わせず、どこかへ行ってしまう。可哀そうだと思うが、万が一手を抜いて被害が出てしまっては元も子もないし・・・
「なんとか手伝えることがあればよいのですが・・・」
「こればっかはな、どうしようもないんじゃないか?」
「しかし、あの様子だと今後の旅にも支障が・・・」
「そうだな!ここは人肌脱いでやるとしますか!」
「おい、そこにうずくまってねえで、ついてこい!」
「なんだよ?放っておいてくれよ・・・」そういってトロイは顔を上げたかと思えば、またすぐに俯いてしまう。
「なんだよ、せっかくお困りの彼女の作り方を教えてやろうと思ったのによ」
「冗談だよ!早速行こうじゃないか!」
「調子のいいやつめ」
「そんなとこが魅力でもあるんですけどね」
二人は微笑みながら、先に進んでいくトロイの背中を見つめていた。
そうして、三人は人々でにぎわう商店街を歩き始めた。しばらくして三人は、教会のような建物に到着した。しかし、教会と違い、本来十字架があるべき場所に大きなハートマークがついている、問題がおきそうな建物だった。
「さあ、ついたぜ」
「なんなんだここは?」
「こいつはな、冒険者結婚相談所だ!!」
「け、結婚相談所!?」
「そうだ、実はなお前のような悩みを抱えた冒険者は多い。皆生きるためや稼ぐのに必死で、出会いはあっても余裕がないからな。だが、そんな奴らでも結婚したいという秘めた思いがある。そんな奴らのための施設だな。」
やはり、俺と同じ悩みをかけているものは多いのか。そうだろう、そうだろう!冒険者が結婚したいなんて言えば、周りからはやれ、「冒険者がうつつをぬかすな。」だの「冒険者の恋人は冒険だろ」なんて言われること間違いない。
「しかし、今まで聞いたことがなかったぞ。」
「そうだろうな。利用しているものも、大っぴらには話さないからな。だけど、あまりの施設満足度のために噂が広がっているのさ。」
「そんなに、ここの評判はいいのですか?」つい、バラガンに問いかけるルーメン。
「ああ、なんてったって、成婚しないやつはいないらしいからな!」
「な、なにぃ!!全員成婚だと!?」あまりのトロイの驚きように周囲の人々からの視線が集まる。
「おい、騒ぎすぎだ。だがまあ、そういう噂だぜ。」
「す、すまん、つい・・・しかし、そうか、それならば、俺も彼女どころか結婚相手が見つかるんだな!何て良い施設なんだ!」
おいおいおい、こんな施設があるなんてなー!世の中には知らないことがたくさんあるんだな!そうと決まれば早速登録しなくてはな!
・・・ん?いや、待てよ・・・そしたら、ここからはしばらく離れられないのか?それは困るな。あくまでも勇者ポイントは稼いでおきたいし、困ってる人々を放っておくわけにもいかない・・・
「なあ、この施設に登録したら、しばらくこの街にいないといけないのか?」
「いや、そんなことはないぞ。これは各地にあるみたいでな。場所が少し分かりづらいが、すべての国にあるはずだぞ」
「よし、では行って来る」そういってトロイは、一目散に建物の中に入っていった。
「あ、おい!ったく、まだ伝えることがあったのによ」
「まあまあ、中に入って聞けばいいじゃないですか。」
「それがそうでもなくてよ・・・」バラガンはそういってほほを搔きながら俯いてしまった。
(まあ、いいか。お前なら上手くやれるだろう。頑張れよトロイ。)そういって建物を見つめるバラガンの目は揺れていた。