九話 死闘の結末
「朱音……。朱音……! お前なんで……!」
目の前には裂撃をかばい、上半身に大きな傷を負った朱音が、力なくぐったりとしていた。
「俺は、また……。友達一人守れない……。なんなんだよぉ!」
光葵は思わず、雄叫びを上げる。
「…………光葵……。無事でよかった。光葵は……生きて…………」
朱音の目がゆっくりと閉じられる。
「……お前らはもう許さねぇ……! 確実にぶちのめしてやる……!」
光葵の腸は煮えくり返っていた。
身体中が熱い。アイツらを許すな。ぶち壊せと魂が叫んでいる…………。
「君ぃかなりのポテンシャルだね。ビリビリと強力な『マナ』を感じるよぉ。ますますエサとしてほしい。だが、これ以上はまずそうだ。人が集まってきた。面倒は避けたいんでね……」
そう言い、倉知はガルムに乗り、走り去る。
「待てっ……! クソッ……。今は朱音が先だ……!」
光葵は急いで救急車を呼ぶように、周りの野次馬に声をかける。
「朱音! 朱音!」
何度呼んでも返事はない。
(みっちゃん。〝主人格交代〟して! 僕なら《回復魔法》が使える!)
「そうか……! 頼む影慈……! 主人格交代……!」
意識が遠のく――瞳が〝光葵の琥珀色から影慈の陰のある黒〟に変わる。
「朱音ちゃん。死なないで……。《回復魔法》……!」
影慈は全力で朱音を回復し続けた。
◇◇◇
病室にて。
「朱音……。ごめんな、俺達の戦いに巻き込んじまって……」
光葵は朱音の両手をギュッと握りしめる。
「影慈、ありがとうな。影慈が回復魔法を使ってくれたおかげで、朱音が一命をとりとめた」
(むしろ、ありがとうを言うのは僕の方だ。僕はまだ《回復魔法》と《プロテクト魔法》しか使えない。戦えないんだ……。メフィさんの話だと、他の魔法に覚醒する可能性は十分あるらしいけど……。……それになにより、この代理戦争は僕が自殺しようとしたことから始まった……)
影慈の声に陰が差す。
おそらく、自分の行動の中に責任を感じてしまっているのだろう……。
「影慈……! そのことは前にも言ったろ。俺が選択した未来だって。朱音を巻き込んじまったのは、『俺達』の責任だ。だから、一人で抱え込もうとするな……」
光葵は悔し涙を流し、歯を食いしばりながら、静かに声にする。
(……わかった……。ありがとう、みっちゃん…………)
影慈の声は今にも泣き出しそうなのを、こらえているように感じる――。
◇◇◇
翌日からは若菜と一緒に登校することはやめた。
少しでも代理戦争に巻き込まれる可能性を減らしたいからだ……。
放課後になる。
いつもより、静かな教室にて…………。
「影慈……俺は倉知を許せない。探し出してぶっ倒したい。危険性は上がるけど、構わないか……?」
光葵は静かに、ただ、覚悟のこもった声で尋ねる。
(僕も同じ気持ちだから、大丈夫だよ……。それに、倉知を放っておくと、他にも犠牲者が出てしまう可能性がある。止めないと……)
影慈は怒りを必死に抑えたような、声で応えてくれる。
「行こう……」
影慈と話し合った結果、倉知はあまり人がいない所で〝獲物〟を探している可能性が高いという結論になった。
そのため、廃墟や寂れた商店街などの人の少ない所を探して回ることとした。
――しかし、今日は奴に会うことはできなかった。
家に帰り、背中の傷を《回復魔法》でより万全に治療する。
「絶対に見つけ出してやる…………!」
光葵と影慈の気持ちは同じだった。
大切な友を傷つけた敵を倒したい。それだけだ――。