八十一話 頂川救出作戦③
一方その頃、影慈は美鈴と志之崎を《闇魔法――闇霧》を主に使うことで相手にしていた。
美鈴と影慈の周辺に〝闇の霧〟を漂わせることで〝見えない何か〟の輪郭や場所が把握できる。
闇魔法のおかげで過去にこの二人と戦った時よりも相当に戦いやすくなっていた。
「美鈴、奴は強い。普通に戦っていたら押し切られる。奴を上から覆うように配置できるか?」
志之崎が手早く声を出す。
「了解! いくよ!」
美鈴がすぐさま応える。
「何か今までと違う攻撃をしようとしてるね……」
影慈が呟くのとほぼ同時に、志之崎が疾風の如き速さで突撃してくる。
「《合成魔法》《氷魔法×風魔法――氷刃》!」
影慈は無数の氷の刃を志之崎に浴びせる。
志之崎はそれらを《風魔刀》で複数の斬撃を放ちながら相殺する。
そして、《反射魔法》を自分の足と地面に使用し、倍速で加速したようだ。
その勢いのまま一回転し技を放つ。
「《風魔刀――旋風風魔》……」
風魔法に志之崎自身の回転力を加えた〝竜巻〟が影慈に迫りくる。
「竜巻か……。この方向だと躱すと金髪君達のいる廃工場だ。壊すしかないね……。《合成魔法》《火炎魔法×闇魔法――灰燼の浸食》……」
ゆらゆらと揺れる黒炎が右手から燃え上がる。それを竜巻に向けて爆音と共に放つ。
黒炎は竜巻に吸い込まれ、一気に竜巻を黒一色に染める。
竜巻は徐々に黒炎に浸食されていき、だんだんとサイズが小さくなっていく。
その間に、志之崎は影慈に刃が届く所まで来ていた。
「すごい魔法を使うんだな……。だがここからは近接戦闘といかせてもらう……!」
志之崎は、眼光に刀のような鋭い光を奔らせる。
「僕は近接戦闘が苦手なんだ。でも、負けない……」
影慈は右手に灰燼の浸食を燃やしたまま、志之崎の方を見据える。
周囲が〝見えない何か〟で覆われつつあることに気づきながら――。
◇◇◇
ルナ姉が幸一郎の魔法の特徴に気づいてから、戦い方は変わっていた。
幸一郎の〝死角〟を狙う戦い方だ。
朱音の《焔の壁》や分身して二人になったルナ姉が様々な角度から攻撃する。
「君達もなかなかトリッキーな戦い方をするね。正直戦いづらいよ」
幸一郎は楽しげに呟く。
「それは、あなたもね!」
朱音が焔の壁を更に放つ。一定量マナを込めて放っているため、焔の壁は霧散せず、既に三つの壁が幸一郎を囲い込んでいた。
「金髪の彼にこだわってると、動けなくなりそうだね……」
幸一郎の顔から汗が一筋落ちる。
そこへ身を隠していたルナ姉の分身が雷を纏い、幸一郎の死角から一撃を入れようとする。
「……死角を意識するのはマジックでは基本……。《水製道具――大鳩》……」
水魔法で巨大な鳩を放ち、ルナ姉の分身を吹き飛ばす。
分身はそのままマナレベルで分解され霧散する。
次の瞬間に〝もう一人のルナ姉〟が幸一郎に《水魔法》を纏い飛びつく。
「狙うならやっぱこの瞬間だよね! 《水製道具――洋剣》」
幸一郎は洋剣を即座に作り、ルナ姉を刺し貫く……。
「痛いじゃない。イケメンちゃん」
ルナ姉はそう言いながら、水魔法で伝導率を上げた状態で、雷魔法による強力な〝放電〟を行う。
「うぐっ……。自滅覚悟かい?」
幸一郎は数秒間、ルナ姉を洋剣で切り裂こうともがくも、予想を超えるマナ出力だったのだろう。
幸一郎はたまらず〝目に映る範囲〟にワープした。
しかし、そこにはワープ先を予測した朱音が加速移動してきていた……。
「《炎帝魔法――焔の双鎚》!」
朱音の両手から焔の塊が出現し、幸一郎の鳩尾に打ち込まれる。
幸一郎は勢いで数メートル吹き飛ぶ。
「……君達強いね」
幸一郎は身体を痙攣させながら、何とか片目を隠しワープで離脱した。
「あ、逃がしちゃった……。でも、最低限の仕事はできた。早く連絡しないと……」
朱音は影慈にメッセージした。「こっちは片が付いた」と――。




