八話 死闘
「来い……!」
光葵の声に対して、ガルムはゆっくりと近づいてくるのみだった。
こいつ……前に使っていた、火撃咆哮とかいう、爆撃を使う気か……。
後ろに朱音がいる以上、動くことができないと踏んだか……。
「ガルム……。遠慮はいらない。《火撃咆哮》を連続して放て……」
倉知から死の宣告がある。
「グルゥラァァアアア!」
ガルムから火撃咆哮が放たれる。
「朱音! 抱き上げて躱すぞ……!」
光葵は手短に伝え、朱音を抱き上げて、火撃咆哮を躱す。
「身体強化魔法は使いやすくて、便利だねぇ……。でも、人を抱えて、いつまで躱せるかな……?」
倉知の冷淡な声が響く。
その時、影慈から提案がある。
(みっちゃん! プロテクト魔法っていう魔法も使えるはずだ! プロテクトフィールドを作るイメージで使えると思う。それを使って、ガルムに近づこう! 倒さないと追いかけてくると思う)
影慈は差し迫った危機に、早口で情報を伝える。
「影慈わかった! 《プロテクト魔法》……!」
しかし、プロテクトは発生しない。
「なんでだ⁉ クソっ、イメージが足りないのか……?」
そう言っている間にも、火撃咆哮は放たれ続ける。
「光葵……。私怖いよ……」
朱音が泣きながら、抱きついてくる。
「朱音……。悪い……。俺が絶対何とかするから……!」
光葵は自分の不安を払拭し、魔法のイメージへ集中する覚悟を決める。
しかし、無情にもプロテクト魔法は発動できないままだった。
だんだんと、追い込まれていく。
「ここまでだねぇ。さあ、ガルム、トドメの火撃咆哮を……」
ガルムが火撃咆哮を放つモーションを取る。
「朱音だけは守る……!」
光葵は朱音を前に抱きかかえ、背中で火撃咆哮を受ける。
「ガァァアアアア……!」
光葵は背中に迸る熱の激痛に思わず、叫びを上げる。
「光葵……光葵……! もういいよ! 私は置いていって」
朱音は泣きながら、離れようとする。
「朱音……。離れるな。……今の痛みで、わかった気がする。今プロテクト魔法を使えないと死ぬ。それだけで十分だ。足りないのは、イメージ精度……集中力だ。次は成功させる……」
光葵は一瞬目をつむり、極限まで集中力を高める。
すると、朱音をも包むように、身体の周りにプロテクトフィールドが発生した。
「おいおいぃ。今度はプロテクト魔法にも覚醒したのかい。君はすごい成長速度だぁ。ここで、始末するに限る」
倉知が焦りの色を混ぜた声を発し、ガルムに命じる。
「ガルム、奴を殺せ……!」
「朱音、このままあの狼をぶっ倒す。怖かったら目つむっててくれ……」
光葵は今までと雰囲気そのものが変わる。空手をしている高校生から、命のやり奪りをする戦士へと変貌している。
「う、うん……」
朱音は目をギュっとつむる。
「行くぞ……!」
光葵はプロテクトを展開したまま、直進する。
何度も火撃咆哮がぶつかるも、お構いなく最短距離で接近する。
「ガルム! 火撃咆哮はいい! プロテクトを破壊しろ……!」
倉知の焦った声が聞こえる。
「そんな暇与えない……! プロテクトと後ろの壁で圧死しやがれ!」
光葵は足の筋肉に全力を込める。筋肉がミシミシと音を立てる。それを一気に解放する。速度が数倍に上がった光葵の突進がプロテクトを張ったまま行われる。
突進の一撃はガルムを押し潰そうとする。
ガルムの唸り声が小さく漏れる。
「ガルム! 爪での裂撃だ! 早くしろぉ!」
倉知は明らかに取り乱していた。
裂撃はプロテクトを三撃で破った。
そして、凶悪な爪が迫ってくる。
ザグシュッ……。爪が肉に食い込む不快な音が響く……。