七十七話 囚われの番長
時は一週間先に進む。
洲台西高校前にて――。
「なんとか一週間で番長騒動を治められてよかったぜ……」
頂川は疲れ混じりに声を出す。
「さて、アジトに向かうか……」
しばらく歩いていると、一瞬守護センサーが反応する。
「何だ? 一瞬センサーが反応したような? しかも『悪魔サイド』だった……」
頂川は周囲を見渡すも人が多く、怪しい人は見当たらない……。
◇◇◇
――五十メートル以上離れた場所にて。
「シノさん、天使サイドで単独行動している人を見つけた。場所は五丁目の商店街の辺り。詳しくはマップアプリで送るね。このまま追跡する」
幸一郎が電話を使い、冷静な声で志之崎に情報を伝える――。
◇◇◇
「今のところセンサーは反応していない……。ここから先は人通りが少ない道だ……」
頂川の心臓がドクドクと波打つのが分かる。
次の瞬間、頂川の真後ろに幸一郎が〝出現〟する。
「あんたが俺を付け回して……」
頂川が話し終える前に、幸一郎が頂川の背中に手をつく。
瞬く間に七十メートル程離れた〝別の路地〟に移動する。
そこには、志之崎と美鈴がいた。
「あんたら!」
頂川が声を発する前に身体全体が〝何か〟に強く握られるような感覚になる。
「ぐっ! 何だか知らねぇが……!」
頂川は身体中から雷を発生させようとする――。
刹那、身体全体を握っていた〝何か〟の力が一気に上がる。
ベキベキッと頂川の両腕が折れる音がする。
「ぐあああぁ……」
頂川は呻き声を上げるも、口にハンカチが詰め込まれる。
「ごめんね、お兄ちゃん。でも美鈴達も負けられないから……」
美鈴の声には覚悟を感じる。
直後、後頭部に衝撃が奔る。
そのまま頂川の意識は暗転する。
◇◇◇
「美鈴……《使役魔法――不可視の守護者》で金髪を包み込んだまま向かうぞ」
志之崎が淡々と指示を出す。
「了解、シノさん。『インビジさん』で包めば周りから見えないからね……」
美鈴も淡々と答える。
――使役魔法と召喚魔法の主な違いは〝契約可能数〟にある。使役魔法は〝一個体〟の魔獣としか契約ができないが、召喚魔法は〝複数〟の魔獣と契約ができる。そして、使役魔法の方が一個体の魔獣としか契約できない分、信頼関係や引き出せる能力が強い傾向にある――。
◇◇◇
意識が朦朧とする……。身体が動かない……。声が……聞こえる……?
頂川は耳を澄ます。
「コウさん! 前にアンナさんに見せてくれたマジック美鈴にも教えてよ!」
無邪気な声だ。
「う~ん。火を使うマジックだし危ないからね……。もっと安全なのでよければ……」
相手のことを想うことが伝わる、優しい声だ。
「え~! 美鈴もアンナさんびっくりさせたい! お願い。シノさんも気になるよね?」
「俺は別に……」
困ったような声が聞こえる。
「もう! シノさんも頼んでくれたら教えてくれると思ったのに!」
「美鈴ちゃんはアンナさんが大好きなんだね! 他のマジックなら教えてあげられるから、それを見てもらおうよ!」
「その方がいいと思うぞ美鈴。火傷すると危ない」
穏やかさが頂川にも伝わってくる。
「分かったよ~。二人がそう言うならそうする! コウさん面白いの教えて!」
「いいよ! おっと……金髪の彼が目覚めたようだね……」
幸一郎は頂川を見据える。
今気づいたことだが、どうやら頂川は椅子に縛り付けられているようだ……。
そして、先程とは打って変わり、張り詰めた空気に変わっていく……。
「前にも一度会ったな……。お前には仲間を一人ずつ呼び出してもらう」
志之崎は右手で抜き身の日本刀を頂川の首元に添える。
左手には頂川のスマホを握っている。
「……誰がお前の言うこと聞くと思ってんだ?」
頂川は志之崎をギラリと睨み付ける。
「妙な口答えはしない方がいい……」
無慈悲に振り下ろされた刀は頂川の右大腿を切り裂く。
「ぐああああぁぁぁ……!」
しばらく痛みで声を発することもできない……。
「俺をどれだけ痛めつけようと仲間を売るような真似はしねぇ!」
頂川は覚悟をそのままぶつける。
「どのみちお前は仲間の名前を言う以外に道はない」
志之崎は冷酷な瞳で言葉を放つ。
「仲間一人の名前を教えろ。スマホは奪っているし、顔認証でロック解除も可能だ。仮に名前を言わなかったとしても、連絡先に名前のある者を片っ端から呼びつけ殺していくだけだ」
志之崎の言葉に嘘偽りは感じられない……。
「クソ野郎が……!」
頂川は眼力だけで人が殺せそうなほど、志之崎を睨み付ける。
「不毛なやり取りは嫌いだ。十秒以内に決めろ。でなければ、片っ端から呼びつけ殺していく」
志之崎の冷酷な瞳は語っている。脅しでも何でもない、お前の決断一つで死人が増えると……。
「クソが」
カウントダウンされていく数字……。
「三」と言われた時点で頂川は選んだ――。




